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お母さんと一緒

 子供達はお母さんの周りで楽しそうにはしゃぎながらこっちに向かっている。

 ナスに魔法で合図を送るとすぐに戻って来た。

 ナスを発見した子供達はすぐに反応しこちらへ駆け寄ってくる。

 ルイスや同じ年頃の子は突然駆け出した年上の子達を見てぼけっとしている。

 この様子じゃルイスはナスの事覚えてないな。僕の事も覚えてるかどうか。

 駆け寄ってきた子供に身体中を触られているナスは目を細めパタパタと耳を動かしている。

 そんな光景をウィトスさんは優しい目で見ている。

 お母さんが近くまで来たら僕の方から近づいて挨拶をする。

 ルイスにも目の高さを合わせて挨拶をしたのだけれど、お母さんの陰に隠れてしまった。


「あらあら。ルイス、お姉ちゃんよ。覚えてない?」

「おねーちゃん?」

「そうだよ」

「るーのおねーちゃん?」

「うん」


 ルイスはお母さんの陰から出て来て僕の顔をじっと見た後恥ずかしそうにしながらお母さんの脚にしがみついた。ちらちらと僕の方を見てくる。


「あらら」

「ふふ、人見知りする時期なのよ」


 他の子達もルイスの様にはしがみついてはいないけれどお母さんの陰から僕を見ている。


「前はルイスからくっついてきたのに」


 と言っても春の時までだけれど。秋の時には今と同じように最初はよそよそしかった。でもさすがに一ヶ月も一緒に過ごしたら仲良くなれたんだ。

 一ヶ月一緒に過ごしたのになぁ……。


「おかーさん。なすのところいっていい?」


 ナスは覚えてるの!?

 大声が出そうになったのを何とか抑えてお母さんの顔を見てみる。


「ルイスはナスちゃん居なくなってからずっとナス待ってたから……」

「そんな……」


 僕お姉ちゃんなのに……お姉ちゃんなのに!


「おかーさん」

「ああ、うん。いいわよ。はしゃぎ過ぎて転ばないようにね」

「うん!」


 許可が出たとたんルイスはナスの元へ走って行った。僕には一切目もくれずに……。


「アリス、落ち込んでないでいい加減立ちなさい」

「うう……」


 いいんだ。確かにルイスとはあんまり一緒にはいられなかったし、秋季休暇の時だって明るいうちはアイネと一緒に外で遊んだり訓練をしていたからきっと印象が薄くなってたんだ。

 姉らしい事した覚えもないし。

 そもそも姉らしい事ってどんな事だよ! 僕中身男だからね! 姉らしい事なんて分かんないよ!

 いや、兄らしい事をしたかと言われたらしてないと思うけど……あれ、僕ルイスに何もしてない?

 ナスをルイスに紹介しただけ? なんてこった……。


「お母さん。僕は悟ったよ。姉らしい事を何もしなかった今の僕に悲しむ資格なんてないんだ。これからは心を入れ替えてルイスと接するよ」

「それはいいけど、今日は冒険者としてしっかりして欲しいんだけれど」

「はっ、そうだった」


 僕は慌ててまだお母さんの周りにいる子達に話しかける。

 ナスに群がっている子達はウィトスさんが対応しているから大丈夫だろう。


「君達は行かなくていいの?」


 残っている子供は三人。うち二人がルイスと同じ歳の女の子で残り一人が一つ上の男の子だ。

 三人は興味が無いわけじゃないんだろう。けど今は年上の子達が群がっていて輪に入りにくいのかもしれない。

 どうしようかと考えを巡らせようとしたその時、アースの足音が聞こえてきた。

 ようやく終わったんだ。

 音のする方を見るとフェアチャイルドさんがちょうど家の陰から出て来て、アースが少し遅れてやってきた。


「あっ、きのうのだ!」

「でっけー!」

「おねーちゃん! そのこもあそぶの!?」

「はい。遊んで大丈夫ですよ。ですよね、アースさん」

「ぼふ」


 まだお母さんの傍から離れていない三人は口をあんぐりと開けてアースを見ている。

 驚いているようだ。僕がお母さんに目配せをすると何をしたいのか察したのかお母さんが頷いた。

 僕は女の子二人の手を取り、お母さんは男の子の手を取ってナスとアースの近くへ手を引いて連れていく。

 ルイスはアースの登場に驚いた様子は見せたけどすぐに興味を失ったのか今はナスの背に乗っている。

 ルイスに乗って貰えて上機嫌になったナスはゆっくりと周囲を歩き回り出した。


「あっ、いいなぁ」


 右手に繋いでいた子がナスを見て呟く。


「ナスに乗りたい?」

「うん」

「のれるの?」


 左の子も乗ってきた。


「ナスがいいよって言ったら乗れるよ。だからいい子にしようね」

「はーい」

「わかったー」


 二人は空いている方の手を上げて応える。頬がちょっと赤くなっているから余程楽しみなのかな。いや、もしかしたら寒いのかもしれないな。一応聞いておこう。


「二人共寒い?」

「さむい」

「へーき!」

「そっか。うーん。ちょっと温かくするね」


 魔法で周囲の空気を暖かくする。すると子供達から驚きの声が上がった。

 原因が僕だと分かると喝采の声を上げなら質問攻めをしてきた。

 魔法の力だよと答えるとさらに声が大きくなる。少しは注目を集める事が出来たようだ。


「ナス、ちょっとこっちに来て」

「ぴー」


 ナスがルイスを乗せたまま僕の近くまでやってくる。

 皆が注目している今が頃合いだろう。


「えーと、ナスの背中に乗りたい子は手を上げて」


 すると殆どの子が手を上げた、上げてない子はアースに登りたいと言う。

 さすがにアースはまだ危ないかな。その事を告げるとアースに乗りたい子は駄々をこね始めた。

 ここは毅然とした態度で駄目なものは駄目と言う。ここで許してしまったらこの後も我儘を言う子が増えてしまう。嫌われてでも断固拒否。

 僕に我儘が効かないと分かったのか大人しくなる。ナスに乗るのは禁止してないから乗るかと聞いたらこくんと頷いた。


「という訳でルイス、そろそろナスから降りて?」

「えー」

「お願い。他の子もナスと遊びたいんだよ」

「そうなの? ナス」

「ぴー」

「うー……わかったぁ」


 ルイスが降りるとナスはルイスの頬に鼻先を擦り付ける。


「あははっ、くすぐったいよ」

「ぴーぴー」

「ナスがありがとう。えらいねだって」

「えへへ」

「えと、じゃあ乗りたい子僕の前に並んでー」


 子供達はたちまち僕の前に群がってくる。


「並んで並んでー。抜け駆けは駄目だよー」


 無理やりナスの背中に乗ろうとする子の服の襟を掴みとめる。それを見ていたフェアチャイルドさんとウィトスさんが助けに入ってくれる。

 お母さんは……遅れてやってきた村長さんの奥さんと何か話している。


「並んでくれるいい子にはいい物を見せてあげるよー」


 そう言って僕は空中に魔法で水を出す。そして、様々な形に変えて子供達の視線を集める事に成功した。


「さぁナスに乗りたい子はこんな風に並んで」


 絵本に出てくるような擬人化された動物を作り一列に並ばせる。すると子供達はわーきゃー言いながら真似をする。


「皆いい子だね。おっと、ナスの背中を譲ってくれたいい子のルイスにはいい物を上げよう」


 水に魔力(マナ)をうんとこめて青い水を作る。そして、魔力操作(マナコントロール)でバラの花の形に整えた。記憶がちょっと曖昧だから本物とは形状が違うかもしれない。

 青いバラを作ったら今度は凍らせる。ピキっと音を立てて青いバラは凍り付いた。凍って膨張した所為か少し形が崩れてしまったので修正する。


「すごーい!」

「驚くのはまだ早いよ」


 氷の青いバラを透明な真水で球状に包み込みもう一度凍らせる。不純物の全く入っていない氷はまるで水晶のように透き通っている。


「さらにさらに~開拓者への贈り物『ブリザベーション』」


 ブリザベーションをかける事によってこの氷は一年くらいは溶ける事もひびが入る事も無くなる。割ろうと思えば割れるけどね。温度も熱の移動が無くなるからなのか感じなくなる。

 ブリザベーションが解けるのは魔法をかけた時の形から極端に形が変わった時だけだ。

 保存食のお野菜で喩えると包丁で傷をつけても解けないけれど、切り分ければ解けると言う便利な魔法だ。



「はい。ルイス。落とさない様に気を付けてね」

「ふわぁ! きれー!」

「一年は持つから大事にしてくれるとうれしいな」

「うん! だいじにする!」


 他の子供達も羨ましそうに見ている。


「今日一日いい子にしてたら皆にも上げるからね」

「ほんと!」

「やった!」

「ちゃんといい子にするんだよー」


 しかし、思い付きで作ってみたけれど思いのほか高評価でよかった。

 僕の魔法での見世物は上手く行き子供達のお昼寝時間までに子供達からの信頼を勝ち取る事が出来た。その代償としてマナポーションの飲みすぎでお腹がたぽたぽになってしまったけれど。

 お昼はお母さん達が作る事になっていたみたいだけれど僕も手伝いを申し出た。 お母さんは僕が料理出来る事は知っていたので普通に了解してくれた。

 長期休暇の時は家の掃除とかの手伝いはしていたけど料理はしていなかった。

 料理が出来上がった時、お母さんは僕の事を料理が上手なのねと褒めてくれた。

 前世ではお母さんと一緒に料理をする事なんて出来なかったけれど、今世で一緒に作る事がこんなにも嬉しいと思うなんて思ってもみなかった。

 料理をしている途中魔法の事も褒めてくれた。僕の魔力操作(マナコントロール)の巧みさに驚いたらしい。上級でも通用するかもしれないとお墨付きを貰えた。僕はお母さんを越えてしまったかもしれない……そう言うとお母さんに調子に乗るなと怒られてしまった。

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