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実験

「外にさ、前に言ったアースが待ってるんだ」


 お母さんが僕から手を離した所で話題を変える為にわざと思い出したように言った。


「あら? じゃあ早速挨拶しなきゃね」

「うん。ナス、ルイスの事見ててくれる?」

「ぴー」

「うふふ、ありがとうナス」


 外へ出るとお母さんは驚きの声を上げた。予想以上の風格だったんだろう。


「すごいわね……この仔が元はアライサスなの?」

「らしいよ。アース、この人が僕のお母さんだよ」

「ぼふ」

「初めまして。いつも娘がお世話になっております」


 お母さんは丁寧に頭を下げた。


「ぼふんぼふん。ぼふふ」


 アースもお母さんに倣う様に頭を下げた。


「本当ならルイスにもアースを紹介したかったんだけど」

「ルイスは眠ったばっかりだから起きるのはしばらく無理ね」

「そっか……じゃあ僕はそろそろ村長さんの家に行こうかな」

「もう?」

「あんまり待たせるのも悪いし……あっ、でも話の途中だったらまずいかな」

「そうね、緊急の用事でもない限りはあんまり途中から話に加わると言うのはよくないと思うわ」

「じゃあ家で時間潰そうかな。アース、もう少しここで待っててくれる?」

「ぼっふん」

「嫌? たしかに退屈だろうけど……わかった。じゃあ僕がもう一度アースの毛を梳くよ。お昼の休憩の時だけじゃ全身は無理だったでしょ?」

「ぼふ!」

「そういう訳だからお母さん。中のナス任せても大丈夫かな?」

「ええ、大丈夫よ。あの子いい子だもの。むしろ独占出来て嬉しいわ」

「あんまり変な事しないでよ。僕の仲間で、友達なんだから」


 あんまり友達に対する扱いは取れてないけれど。


「お母さんを何だと思ってるの?」

「自慢のお母さんだよ。ただ、ナスに構い過ぎて嫌われないか心配してるだけ」


 そういうとお母さんは視線を僕から外し目を泳がせた。


「だ、大丈夫に決まってるじゃない」

「だよね」


 笑顔で答えるとお母さんは呆れたように小さくため息をついて誰に似たのかしら、と呟いた。

 ……誰に似たんだろう?




 時間が経ちナス達を連れて村長さんの家に向かってみると途中でフェアチャイルドさんと合流する事が出来た。

 ウィトスさんはどうしたのかと聞くと、村長さんの家で休んでいるらしい。フェアチャイルドさんは僕を呼びに来たんだとか。


「その、泊まる場所はどうするんですか?」

「村長さんの所に泊めさせてもらうつもりだよ」


 そう言うと彼女はほっとしたような顔になった。


「あっ、僕が自分の家に泊まって離れるのが寂しい?」

「はい。寂しいです」


 意地悪っぽく言ったつもりだったけれど僕の心臓を抉る強烈なカウンターが返って来た。


「そ、そっか……あっ、き、金庫はちゃんと埋めて置いたよ」

「承知しました。私の方もきちんと依頼を受けてきました。歩ける子供達の面倒を見て欲しいそうです」

「子守りか、僕達にはうってつけだね。ウィトスさんもやるのかな」

「一緒にやるのが通例だそうです」

「期間はどれくらい?」

「明日丸々一日やって欲しいそうです。その間に大人達は都市に行って買い物に行くそうです」

「年末年始の準備だね」


 この国では年末年始にお祝いをする。前世のように休みになる訳じゃないから大規模なお祝いはしないけれど都市では各家庭でお祝いをする。

 そして、村では仕事に割と自由があるので家庭でのお祝いの他にも村人全員で宴会を開いてお祝いをしたりする。

 寮にいた時はこのお祝いが新入生の歓迎会も兼ねてたりしたっけ。

 普段は暇を見つけたり同じ子供を持つ親に子守りを頼んで都市へ行くんだけど、今年は僕達がいるから一斉に買い物に行くつもりなんだろう。


「歩ける子って事はルイスもかな」

「分かりません。村長さんが今から村人全員に知らせて希望者を募るそうですから」

「明日までは分からないって事か」

「ぴーぴー」

「そうだね。ルイスも来たら嬉しいね」


 先ほどは結局ルイスは起き出してこなかった。


「ん。てことは今日はもう自由にしていいって事か」

「はい」

「……じゃあちょっと気になってた実験でもしようかな」

「実験ですか?」

「うん。フェアチャイルドさんも来る?」

「行きます」


 じゃあ決まりだ。


「所で、さっきから子供達が家の陰から見ているのは」

「ああ、アースを怖がってるんだよ」


 ナスは慣れてるはずなんだけど、アースは大きい所為か皆遠巻きに見ているだけだ。

 いや、もしかすると本能的に恐れているのかもしれない。馬だってアースの事を恐れるし、純粋な子供達がアースに何かを感じ取って近づく事が出来なくても不思議ではないか。


「怖くないって言ったんだけどね」

「アースさん大きいですものね」

「そのうち慣れるよ。それより移動しようか」

「はい」


 空地へ移動、する前に村長の家に行き顔見せをしておく。フェアチャイルドさんは家の外でナス達と待っていると言ってついては来なかった。

 今日は村長さんの家に泊まる事を伝えると実家に泊まらなくていいのかと驚かれた。

 僕は冒険者になりましたからと答えた。その言葉に村長さんは感心したように頷いて泊まる事を認めてくれた。

 荷物を置くために泊まる部屋に行くとウィトスさんは外套を脱ぎ椅子に座って何か調合のような事をしていた。


「ウィトスさん。それなんですか?」

「これはですねぇ、虫下しのお薬なんですよ~」

「作れるんですか?」

「既製品よりは効果は期待できないですけど、道の途中で薬草を見つけたので摘み取っていざという時の為に作ってるんですよ」


 そういえば村までの道すがらでよくしゃがみ込んで薬草を摘み取っていたな。

 後で薬にするとは言っていたけど自分で作るのか。


「お薬高いですもんね」

「ですです~。磨り潰すだけですから私でも簡単に作れるんです」

「僕にも後で教えてください」

「いいですよ~」

「ありがとうございます。僕はこれから昨日儀式で就いた職業の効果を確認してきますね」

「はぁい」


 ニコニコと笑顔のウィトスさんを残し僕は部屋を出る。

 外に出るとフェアチャイルドさんがアースの頭を撫でていた。

 彼女に声をかけるとサッと手を引っ込めて何もしていなかったかのような顔をした。


「では行きましょう」

「……うん」


 いちいち指摘する必要はないよね? 仲がよろしいようで何よりだ。


 ……昔、アールスと一緒によく遊んでいた空地はもう既にない。今年の夏に入る前に新しい住人が来て家が建った。

 今向かっている場所は新しい住人が来た時に村が拡張され出来た空地だ。

 この村の柵の外に畑とナビィの住む森がある。拡張の際畑を少し削った後畑の外縁部分に新たな畑が作られた。

 魔法を使い一日で終わらせたらしい。本当便利な物だ。

 思い出の空地が無くなったと聞いた時、僕は涙を零してしまった。

 結構思い出はあったんだ。勉強を教えたり、お喋りしたり、アールスを慰めた事もあった。ナスを初めて洗った場所でもあったっけ。アイネとの特訓だって思い出の空地でやっていた。

 歩きながら感傷に浸っているとまた涙が出てきそうになった為、僕はあくびの真似をしつつ涙を拭いた。


 新しい空地に着くとフェアチャイルドさんはきょろきょろと辺りを見渡し始めた。


「前来た時よりも広くなっていませんか?」

「拡張されたんだよ」


 簡単に答えてから僕は実験を始める。

 最初は気になっていたアースのスキルからだ。

 使い方はすでに分かっている。スキルは言葉にする必要はない。ただ自分の魔力(マナ)を操るだけだ。

 僕は自分の周りに壁を作り出す。目に見えないけれど厚さは感覚で分かる。

 窓ガラスの様に薄い魔力(マナ)の塊が出来ているのが分かる。

 触れてみると固い。割るように強く殴ってると霧散して元の魔力(マナ)に戻った。パリンとは割れないようだ。残念。


「何をしているんですか?」

「魔獣の誓いが成長してナスとアースのスキルが使えるようになったんだ。その確認。今のはソリッド・ウォールを出してみたんだ」

「どうでしたか?」

「僕の魔力(マナ)の量じゃ盾にもならないよ。ただ、魔力(マナ)の消費は少ないと思う。多分動かした時にほんの少し消費した位だ」


 『拡散』を使った時と似た魔力(マナ)消費の手応えを感じた。きっと魔力(マナ)を変化させている訳じゃないから消費されていないんだろう。


「やはり魔獣位の魔力(マナ)が無いと使えないんですね」

「うん」


 ソリッド・ウォールは動かせないから厚みを薄くし刃にして敵に攻撃するなんて事も出来ない。範囲すら変える事が出来ないんだ。残念だ。バリアで敵を攻撃するっていうの憧れてたんだけど。

 何とか動かせないかと試してみるけど、少し力を加えただけで霧散してしまう。

 なら固める時に予め形を決めていたらどうだろう。

 適当にナスの顔を思い浮かべながら魔力(マナ)を操作する。


「ぴー!」


 ナスの僕だ、という嬉しそうな声が上がる。

 形取りは成功した。触ってみると固くちゃんとソリッド・ウォールのていはなしているようだ。

 でも……正直使いにくい。僕の持っている魔力(マナ)を九割使い残りの一割で維持に使っているから、壁としての役割を果たせない僕のソリッド・ウォールでは無防備になっているのと変わらない。

 もっと魔力(マナ)があれば踏み台にも使えるだろうに。……いや、踏み台にするなら普通に魔法で出せばいいだけか。

 ソリッド・ウォールの利点はナスの様に固有能力でもない限り目に見えない事位。ぶっちゃけ『ライトシールド』で十分だ。


「ぼふ?」

「よっしゃー! さわったぞー!」


 突然の子供の声。声のした方を見てみると小さな男の子が手を挙げて走り去ろうとしていた。

 男の子の向かう先には数人の村の子供達。


「度胸試しかな」

「そのようですね」


 アースは首をかしげながら子供達の方を見ている。

 どうしようか。もう一つの実験もしたいんだけど、何が起こるか分からないからあんまり傍にいて欲しくはないんだけど。


「フェアチャイルドさん。アースと一緒にあの子達の相手お願いできるかな」

「ナギさんは相手をしないんですか?」

「まだ実験したい事があるんだ。でもちょっと危険が伴うから、ナス以外は傍にいて欲しくないんだ」

「……どうしてもですか?」

「え? いや、なるべくかな」


 彼女は視線を地面に落とし少し間を置いてから答えた。


「……分かりました」

「いつもありがとうね。僕の我儘に付き合わせてごめん」

「も、もっと私を頼ってくれてもいいんですよ」

「いやいや、今以上に頼ったら大人としての威厳が無くなっちゃうよ」

「身体は同じ歳です」

「中身は違うよ」

「……」


 フェアチャイルドさんは不服そうに口先を尖らせた。そして、乱暴に身体の向きを変え、アースに声をかけたから子供達の元へ向かった。

 怒らせたかな。でも怒った理由が分からない。どうして怒ったんだろう。

 ……とりあえず今は実験の方を進めよう。実験の安全の為に彼女に子供達の相手を頼んだんだから。


「ナス。今からサンダー・インパルス使うけど、ナスがおかしいと思ったらすぐに僕の事を止めて」

「ぴー!」

「じゃあ行くよ」


 やり方は分かっているけど念には念を入れてだ。

 サンダー・インパルスには魔力(マナ)は殆ど使わない。願うだけで電気の塊が出来る。なんというか、きっかけに魔力(マナ)を使うだけなんだ。

 まるで火をつけるのにマッチやライターを使う様に、静電気を生み出すのに魔力(マナ)を使い、生まれた静電気を何か別の力が増幅させているんだ。

 結果滞りなく宙に電気の玉を生み出せた。


「ナス。変な所ない?」

「ぴー」


 大丈夫と言うナスの言葉を信じ、今度は電気の玉を動かそうとした。しかし、そこで躓いた。

 動かし方がさっぱり分からないんだ。サンダー・インパルスに関しては知識が感覚として伝わっている。

 なんとなくこうすればこうする事が出来るという感じで理解しているんだ。なのに動かし方が分からない。もしかして特殊スキルにも熟練度みたいなのがあって、レベルが低いから動かせないんだろうか?

 雷の魔法を使えるから分かるけれど、今目の前にある電気の玉は魔力(マナ)から生み出された魔法の電気ではない。魔力(マナ)をなじませようにも電気は出現と消失を繰り返している為魔力(マナ)をなじませる隙が無い。つまり魔力操作(マナコントロール)では動かせないという事だ。

 魔法の電気は魔力(マナ)自体が電気に変わる為維持させようと思ったら消費が激しい。


「うーん。まだ練度が低い所為かな」

「ぴぴぃ」


 ナスが変だねーと鳴くと僕の電気の玉が動き出した。僕が動かしたわけじゃない。


「動かしたのナス?」

「ぴー」

「僕が生み出した電気でも動かせるんだ……ってそうか! ナスの固有能力か!」


 きっとサンダー・インパルスで生み出した電気はナスの固有能力『雷霆』で動かしていたんだ。

 僕にはその固有能力がないからスキルで魔力(マナ)を使って生み出す事は出来ても自由に動かす事は出来ないんだ。


「僕じゃ無理か……」


 まぁソリッド・ウォールと違って使えない能力じゃないだけましか。

 意外と特殊スキルって使いにくいな。やはり借り物の力は自分の力ではないという事か。

 サンダー・インパルスの制御を諦めた僕は、次に試しに僕が魔法で作った魔法がナスに操れるかの実験をしてみた。

 今まで試さなかったのは単純に思いつかなかったからだ。今スキルで僕が生み出した電気をナスが操った事によって生まれた疑問だ。

 生活魔法『サンダー』で両手の間に電気を作り出す。形を球状に整えてナスに合図を出す。

 すると、魔法の電気はナスでも操れる事が分かった。


「ありがとう。うーん。これは色々試してみた方がいいかなぁ」

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