出発
新年あけましておめでとうございます
役所で手続きを終えた僕は一先ず中央の噴水広場へやってきた。ナス達も連れてこようかとも思ったけれど、ここは都市の中心。アースが居たら通る馬達が怯えてしまう。
一人で待っていると買い物を終えた二人がやってきた。
荷物はウィトスさんが持っている。一体何を買ったのか少し楽しみだ。
「おまたせしましたー」
「買い物はもう終わりですか?」
「後はマナポーションの補充もしたいんですけど、ナギさんは如何ですか?」
「いえ、僕は作り置きがあるので大丈夫です」
「そうなんですか? でもブリザベーションがかかってないと傷んでしまいますよ?」
「僕使えるので」
「まぁ! すごいですぅ! 神聖魔法使えるんですか~」
「そういえばまだ僕の紹介していませんでしたね。僕は普通の魔法なら第六階位まで、神聖魔法も高い階位の物を使えますし武器は剣を使います」
「何でも出来るんですねぇ。私はどうも剣も魔法も駄目で~」
「それで、まずはどの村から向かうんですか」
「そうですねぇ。見習いがもらえる仕事と言うのは村長さん達が特別に用意してくれるものなんですよぉ。だからどこから回っても同じなんですよねぇ」
「特別、ですか? なんでわざわざそんな事を?」
「んー、特別と言うとちょっと違ったかもしれませんねぇ。正確には村で冒険者に任せてもいいからと後回しにしている事ですよ」
「ああ、なるほど」
いくつか心当たりがある。家の周りの草むしりだったり、家の掃除だったり、後子供の面倒を見たりだ。
そういえば村に住んでいた頃一回だけ知らない人が村長の家の周りの草むしりしてたの見たっけ。
「今回の旅はあなた達の旅なんです。だから行先はあなた達が決めてください」
「わかりました。それじゃあ」
フェアチャイルドさんに視線をやると僕の言いたい事が分かったのか頷いた。
「最初はリュート村でお願いします。僕の故郷なんです」
「わかりました~。リュート村は確か東ですよねぇ。それじゃあ早速行きましょ~」
「あっ、その前に魔獣を連れてきていいですか?」
「え? 魔獣?」
ウィトスさんはキョトンとした顔になった。まぁ僕みたいな子供が魔獣を仲間にしてるなんて思わないよね。
「も、もしかして噂で聞いた魔獣を従えた子供ってナギさんの事だったんですか!?」
「あっはい……そうです」
そういえばそんな噂も昔流れたな。最近すっかり聞かなくなったのと街を歩いていても視線を感じなかったからすっかり皆忘れたのかと思ったけど。
「ま、魔獣って怖くないですか?」
プルプルと震えだし今にも泣きだしそうなウィトスさん。魔獣と言う響きはやはり冒険者からは畏怖の対象なんだろう。
魔獣は行動原理と言うか生態と言うか、そういうのは普通の動物と変わりない。人間の味方でもないし敵でもない。しいて言うなら脅威だろう。縄張りさえ侵さなければ敵対する事はないらしいけど。
「大丈夫ですよ。二匹ともとてもいい子ですから」
「ほ、本当ですかぁ?」
「はい。一度会えばわかりますよ。一緒に行きましょう」
「うぅ……わ、分かりましたぁ」
へっぴり腰になっているウィトスさんを何とか励ましながらナス達を預けている施設へ向かう。
施設に着き手続きを終えてナス達を迎えに行く。
施設には魔法陣によって物理的に通る事の出来ない透明な結界が張られた小屋がある。魔獣でなくてもここにいる普通の動物が逃走しない様に使われていて、通り過ぎる小屋には馬や犬など様々な動物が結界を張られた小屋の中にいるのが見える。
この小屋の結界は泊まる時に使う物で一時的に預ける時には結界は発動されない。
つまりナスとアースがいる小屋には結界が貼られていない。代わりに見張りの人が小屋の前についていて、小屋の中にいる生物を監視している。
見張りの人に挨拶をしてナス達を外へ出してもらう。
「ぴー!」
ナスが嬉しそうに僕に寄ってくる。アースは僕達の荷物を纏めている縄を咥えて持っていた。
「お待たせナス。アース、荷物ありがとう」
他にもまだ荷物は小屋の中にある。特に重い荷物は縄で引っ張る訳にもいかない。
僕が重い荷物を小屋の外に持ち出すと、フェアチャイルドさんが前もって相談していた通りにアースの身体に縄を巻きつけ、荷物を括れるようにしている。
ウィトスさんは隅っこの方でプルプルと震えている。
早く紹介したいけど、ここでそんな事している訳にはいかない。見張りの人に迷惑だ。
重い荷物、調理器具や食料をアースに巻きつけてある三本の縄にしっかりと落ちないように括りつけて金庫は僕が持つ。
金庫と言っても手紙を入れる為の物だから手提げサイズの金庫だ。頑丈な鉄っぽい金属で出来ていて値段もそこそこの物だ。
支度を整えると見張りの人にお礼を言って施設を出る。そこでようやく紹介する事になる。
「ウィトスさん。この仔がナス、こっちの大きい仔がアースです」
「ぴー?」
「ぼふ」
「ひっ! か、噛んだりしませんか?」
「しないので安心してください」
ナスの耳の後ろの辺りを撫でてみると気持ちよさそうな声で鳴いた。
「ナス、アース。この人が僕達の研修に同行してくれる先輩冒険者のカナデ=ウィトスさんだよ」
「ぴー!」
ナスがウィトスさんに近づき下から覗き込むように見上げてから首をくいっと横に傾げた。
「ぴー?」
「はひっ……あっ、よく見るとかわいい……?」
狙い通りだ。僕が前もってあざと……かわいいポーズをナスに教えておいてよかった。
「触ってみてください。毛並みもいいですから気持ちいいですよ」
でもナスもアースも僕が少しいなかったからブラッシング出来てないんだよね。時間を見つけてしっかりと毛を梳いてあげなくちゃ。
「ふわぁ! ほ、本当に気持ちいいですぅ~。柔らかくてふわふわしていますね~」
「ぴー」
「ふふ、もう怖くなくなりましたか?」
「はい~。ナスちゃんかわいいですね~」
「ぴー」
ウィトスさんはナスを撫でた後、一度抱きしめてから今度はアースへ近寄った。
「触ってもいいですか?」
「ぼふ」
アースが頷くとウィトスさんはアースの身体に手を伸ばす。
「はわ~、アースさんはすべすべなんですね~。うらやましいです」
二匹の体毛を堪能したウィトスさんは僕とフェアチャイルドさんに向き直り言った。
「さぁ、そろそろ遊ぶのはやめてリュート村へ行きましょう!」
遊んでいたのはウィトスさんだと思うけど、まぁいいか。ナス達の事を恐れなくなったんだし必要な事だっただろう。
東の魔獣用の検問所に行き、検査を受けるとその途中で身分証明となる物の提示を兵士に求められた。一瞬何の事かと疑問に思ったけれど、すぐに組合で貰った板の事を思い出した。
首に下げていた板を見せると兵士は頷いて通行の許可を出してくれた。
都市から出て少し離れた所で僕はウィトスさんに話しかけた。
「今まで身分証明できるものなんて求められなかったからびっくりしましたよ」
「ああ、わかりますよぉ。私も最初は何の事ー? って驚きましたからぁ。学校にいた頃は先生が保証人だったようですねぇ」
「無かったら出られないんでしょうか?」
「いえいえ~。魔法で調べられるだけみたいですよぉ」
「手間が省けるってだけなんですね」
「ですです~」
話が終わった所で歩き出そうとした所でナスが待ってと鳴いた。
「どうしたの? ナス」
ナスはフェアチャイルドさんの前に出るともう一度鳴いた。
「ぴー。ぴぴー」
「え、フェアチャイルドさんに乗って欲しいの?」
「え」
「ぴー!」
「新しい力を試してみたいの? ……まぁ確かに気になるけど。まずは僕から乗ってもいいかな?」
「ぴー?」
「いや、念の為にね。念の為」
どうやら騎乗の職業を得た事による変化を確かめたいらしいけど、ナスの背中に乗るのか……。
昔アイネがナスに乗った時の事を思い出す。あの時アイネ顔が真っ青になっていたっけ。
それにしてもどうしてフェアチャイルドさんに頼んだんだろう。
「ぴー!」
「じゃあ乗るね」
乗ると言っても小さな子ならいざ知らずナビィの骨格は人が乗っても大丈夫なのか? そもそもナスは力が弱い。本当に僕を乗せて走れるのだろうか。
ナスの丸っこい体形のお陰で大股開きで座る事になり地面に足がつかないし何となくバランスも悪い。仕方ないので太ももに力を入れてナスの身体を挟むようにしてみる。手綱も何もないし体勢も悪いからすぐに落ちてしまいそうだ。
「だ、大丈夫でしょうか」
傍から見ていても心配なのかフェアチャイルドさんが不安そうに眉をひそめている。
「いいなぁ……」
ウィトスさんは物欲しそうにこちらを見ている。
僕はこれから起こるであろう未来に立ち向かう為に息を大きく吸って深呼吸をし覚悟を決める。
「ナス、動いていいよ」
「ぴー!」
ナスが動き始め、速度が乗ってくると僕の身体が上下に揺れ始める。
不思議と苦しさは感じない。気分はまさにナビィナイト。
「ナス、身体痛くない?」
「ぴー!」
調子はいいようだ。
「無理はしないでね」
ナスは声高々に大丈夫と叫び、嬉しそうに全力疾走をした。




