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初めての冒険者

 冒険者は厳密に言ってしまえば職ではない。前世の世界で言うとフリーターに近いんじゃないだろうか。旅先に出会った人達に仕事を貰い賃金や食料を貰いながら旅をする人達を冒険者と呼ぶんだ。

 冒険者は主に土地の開拓に協力している。未知の土地を調べ、危険な魔物が居れば討伐、または前線基地にいる兵士に報告したりしている。

 今でこそアーク王国は大樹の国フソウとの行路を守る為に軍備を割いていて開拓は進んでいないけれど、イグニティ魔法国や軍事国家グライオンの開拓の最前線では絶賛活躍中だ。

 冒険者自由組合は昔の冒険者達が仕事に困らないように作り上げた共同体で、主に冒険者へ仕事の斡旋をしている。

 仕事の斡旋の他にも軍へ協力もしていて、有事の際は組合に所属している冒険者は軍に協力しなければならないし、危険な魔物や魔獣の情報を得たらすぐに報告する事になっている。

 最初は誰でも自由に仕事を選べていたらしい。けれど、仕事の中には魔物退治や魔獣退治、危険な地域に行く時の為の護衛の仕事もあった。

 実力に合わない仕事を選んだ冒険者は帰ってくる事が出来ず仕事を紹介した組合にも責任が及ぶ。そこで組合は組合に所属している冒険者に階位付けをした。


 第一階位から第三階位は初級、第四階位から六階位までが中級、第七階位から第九階位までが上級、第十階位が特級と分けられている。

 級位によって大まかに仕事や得られる権利が決められている。

 初級は魔物退治などの危険が伴う仕事は受けられ無いけれど、有事の際の軍からの要請に応じる必要はない。

 中級からは軍の協力要請を断れなくなる。自由がなくなるのではないかと思うかもしれないけれど逆だ。自由を守る為にあえて軍に協力し権利や身分を国に保証してもらうんだ。

 権利とは例えば他国に渡る時はパスポートのような手続きが必要だけど、中級以上の冒険者はそれが必要なくなったりする。

 上級になれてようやく魔の平野を自由に行き来する許可が出る。

 特級は冒険者の最上位の称号だけど、今は確か特級の人はいないはずだ。特級ともなると国賓待遇になるらしく、王族などと懇意になれるらしい。

 僕達の冒険者としての目標は一先ず上級だろう。なれなくても上級の護衛が居れば渡る事は出来るけれど。




 この世界の開店は早い。遅くても八時頃には何処のお店も開いている。

 そんなわけで朝早くに僕達は一度ナスとアースを迎えに行く。

 まずナスの所に行くとそこにはアイネがいた。昨晩はナスをここに泊める予定はなかったんだけどアイネは来たんだ。


「アイネ」

「あっ、ねーちゃん」

「……アース連れてきたらナスも連れて行くよ」

「うん……」


 飼育小屋の鍵を開けて僕はナスの食器にマナポーションを満たしておく。

 アースに会いに行き朝ご飯が済むのを待ってからステータスを確認する。

 アースに追加されていた職業は『駄載獣』と書かれていた。何だろう。ださいじゅうでいいのかな?

 シエル様に聞いてみるとどうやら荷物を背中に乗せて運搬する使役動物の事の様だ。何で僕の分からない日本語で表記されるのだろうか。

 これはアースに荷物を持って貰っていいという事だろうか。アースに聞いてみるとあんまり重い物は嫌だと答えたけど、アースにとっての重い荷物ってどれくらいの重さなのだろう。

 アースを連れてナスの所へ行く。

 アイネはもういない。ナスに聞いてみるともう帰ったようだ。ナスは食器を加えて飼育小屋の外に出て来て僕の右手に自分の頬を擦り付けてきた。寂しいんだろうか。


「行こっか」

「ぴー」


 鍵を事前に聞いていた受付に返し、二匹を連れて冒険者自由組合の建物へ向かった。

 組合は昨日泊まった宿の近くにあり、組合では魔獣や騎獣を預かってくれる施設がある。この施設は一般の人でも利用できるけど、組合員なら割引で利用する事が出来る。今日の所はまだ割引はしてもらえないけど、さすがに建物の玄関口に待っていてもらう訳にもいかない。

 ナスとアースを施設に預けて建物の中に入るとすでに冒険者らしき人がたむろっている。中には顔見知りの先輩もいて手を振って挨拶をした。


「ナギさん。なんだか周りの人から見られていませんか?」

「新入りが入ってきたんだから当たり前じゃない?」

「そう……なのでしょうか」


 二人で受付へ行き登録を願い出ると冒険者自由組合の説明をされてから登録用の書類を渡された。

 名前と年齢に性別、それと出身に昨日就いたばかりの職業を書くだけでいいらしい。

 書類を書き終わると受付のお姉さんは僕の書いた書類を見て目を見開いた。


「どうかしましたか?」

「ああ、いえ。失礼しました。続きましてこちらの板に指先で触れてください」


 お姉さんが出したのは大体手のひらサイズの長方形の透明な板だ。プラスチックって事はないだろうからガラスか水晶だろうか?

 小さな穴が隅の方に開いていて、その穴には丈夫そうな紐が通してある。そして、黒字で冒険者自由組合員と書かれ、封印の魔法陣も刻まれている。

 言われたとおりに指先で触れてみる。ガラスと言うよりもプラスチックに近い感触がする。一体何なんだろう?


「そのまま『解析(アナライズ)』と唱えてください。各自の情報の一部が板に封印され身分証明書になります」


 僕とフェアチャイルドさんは言われたとおりに解析(アナライズ)と唱えてみる。すると透明な板に僕の名前と職業。それに何かの二桁の数字が黒い文字で書かれた。


「三十二……そんな、この年で中級の冒険者と同じ位のレベルだなんて」

「あっ、この数字レベルだったんですか。フェアチャイルドさんいくつ?」

「十三です」

「ありゃ、大分差が付いちゃったね」

「いいんです。ナギさんの方が格上なんてわかっていた事ですから」

「でもいくらレベルが高くてもすぐには中級にはなれないんだよね」

 

 初級から中級に上がるには実力と経験が認められないといけない。実力は試験を行えばすぐに判定できるけれど、経験はそうはいかない。初級から中級に上がるにはこなした仕事の件数に組合に登録してから二年が経つ事が必要だ。

 これは特例は認められていない。いくら実力があっても飛び級は出来ないんだ。

 アーク国内の観光名所を周ろうと思ったら一年半くらいで各地を巡る事ができる。各地で滞在時間を調整すれば二年はあっという間だろう。


「んんっ、それではお二方は冒険者見習いとして登録させていただきました。これよりお二人には試験としてグランエル周辺の村々と前線基地を周っていただく事になりますが、二人一緒に行きますか? それとも別々に?」

「二人一緒でいいよね?」


 フェアチャイルドさんに確認すると頷いて答えてくれた。


「はい」

「ではこちらの方で同行する人員を選定いたしますので待合所でしばらくお待ちください」

「あっ、どれくらいかかりますか?」

「大体半刻ほどで終わると思いますが」


 それだと役所に行っている時間はないな。紹介してもらった後に行くか。


「分かりました」


 待合所は冒険者達がたむろっている玄関ロビーの事だ。待合所に行くと知り合いの先輩達が声をかけてくる。

 久しぶりの再会に花を咲かせつつ情報を聞いてみると、この待合室にある掲示板に学校の時のように依頼が張り出されているらしい。級位毎に受けられる仕事は違う。初級、つまり第一階位から第三階位までの受けられる仕事には大きな違いはない。しかし、第四階位からは階位毎に受けられる仕事は変わるらしい。


 先輩の他にも僕の固有能力に興味を持った人が話しかけてきた。言葉の端々に僕を仲間に勧誘したいような意思を感じられたけど、今の所はっきりと勧誘はされていない為気づかないふりをしておく。

 僕には秘密がある為今の所目的を同じとする人以外とは協力する事はあっても仲間になるつもりはない。


 職員さんが僕達の名前を呼んだ事で先輩達との会話は中断された。

 職員さんに案内された場所は応接室だった。テーブルを挟んで向かい合って置かれているソファーの片方に座るように促されたので示された方へ座る。

 そのまま少し待つと再び扉が開き二人の女性が入ってきた。身なりからして先に入ってきたのが職員さんで後から入ってきたのが冒険者だろう。

 入ってきた職員さんは僕達を案内した職員さんの隣に立ち。先輩は僕達と同じように促されるままに目の前のソファーに身を竦ませた様子で背中に背負っていた狩猟弓と矢筒を脇に置き座った。


 目の前の女性で最初に目についたのはふんわりとした薄桃色の髪を頭の両側で結んだツインテールだった。前髪は左分けにされていて、髪留めで整えられている。

 顔はまだ幼さを残していてたれ目がちな目の瞳は僕と似た系統でより青に近い紫色をしている。

 自信なさげな表情とは裏腹に服装は動きやすさ重視なのか外套の隙間から見える服装は金属製の胸当てに身体の線がはっきりとわかる薄手の服を着ている。

 露出はほとんどないけれど、見えない分色々と……いいと思います。

 と思った所で僕の左太ももに痛みが走った。

 声は挙げなかったけれど、隣に座っているフェアチャイルドさんの顔を見ると、切れ目な彼女の目がさらに細くなり僕をにらみつけている。


「な、なに?」


 小声で聞いてみると小声で返ってきた。


「鼻の下が伸びています」

「……ごめん」


 何の事はない。彼女は僕の秘密がばれない様に注意してくれたんだ。確かに女性を見て鼻の下を伸ばす女の子なんて怪しいもんね。気を付けないと。


「始めまして。アリス=ナギです」


 気を取り直してとりあえず僕から自己紹介をする。続いてフェアチャイルドさんが。


「レナス=フェアチャイルドです」

「は、はわ……私はカナデ=ウィトスです」


 カナデ? この辺では聞かない響きの名前だ。

 瞳の色といい名前といい気になる。


「えと、ウィトスさんが僕達の同行人という事でいいんですよね?」


 ちらりと職員さん達の方を見る。何故か小刻みに震えているウィトスに聞くよりかはましだと思ったからだ。

 ……いや、ごめん。震えている理由すっごく分かる。多分緊張してるんだこの人。前世の僕だったら同じような立場になったら多分似たような感じになる。今世では色々と慣れて多少は度胸はついたと思うからこんな感じにはならない。と思う。……多分。

 しかし、見習いの面倒を見るのは中級以上の冒険者のはずだから、この小動物みたいな人も中級の筈なんだよね。


「その通りです。現在グランエルにいる中級以上で女性の冒険者は彼女だけでした」

「旅をするにしても同じ女性の方がよろしいと思い彼女を選定させていただきました」

「そうですね。お気遣い感謝します」

「ウィトスさんはこちらのお二人の研修に見届け人として同行する事に同意してくれますか?」

「わ、私ぃ精一杯頑張りますぅ!」

「大丈夫でしょうか……」


 フェアチャイルドさんが困惑した声で小さくつぶやく。


「ありがとうございます。それではこちらの紙をお受け取り下さい」


 二枚の紙がテーブルの上に置かれる。一枚は僕達の前に、もう一枚はウィトスさんの前へ。

 書かれているのはどちらも同じで大きな四角の枠が小さな四角いマス目に区切られている図形が書かれている。

 図形の上には研修の旅と書かれている。


「グランエル周辺の村、前線基地を周り責任者から仕事を貰い、終えたら認め印を貰いマス目を埋めて下さい。一枚は紛失した時の予備ですので印を貰う時は二枚とも出して下さい」

「期間は特に設けていませんのでゆっくりと村を周っても問題はありません。ただ一つ、注意して欲しいのは冒険者の品位を落とすような行動は慎んで貰います。

 何か問題が起こった時は同行者にも責任が及びますのでご注意を」

「は、はいぃ!」

「……気を付けます」


 なぜウィトスさんがそこまで恐縮しているのか。緊張のせいだろうか。


「それでは私共からの説明は以上です。この部屋は相談するのに自由に使っていただいて結構です」

「それではお先に失礼いたします」


 二人の職員さんが軽く頭を下げて部屋を出ていく。

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