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失くしたもの

 クルガ村に着き僕達は村長の家に泊まる為に荷物を持って村長の家へと向かう。

 空はもう暗くなりかけており一番星が出ている。寒さの所為か今日の月と星が綺麗だ。

 一年の気温が安定しているとはいえ真冬にもなると息は白くなるほど寒くなる日も多くなる。今日なんかがそうだ。

 この世界の月は白に限りなく近い水色だ。比喩でも何でもなく本当に。クレーターもないらしく、この世界の月に兎はいなかった。あっ、こっちだとナビィか。


「ナギさん。空を見てどうしましたか?」


 月を見ていた僕にフェアチャイルドさんが声をかけてきた。

 月を見ていた所為か彼女の髪が一瞬月の光の筋に見えた。そう言えばこの子の髪の色は濃さが違うとはいえ月の色によく似ている。

 月の色がもっと濃ければ彼女の髪の色と同じになるのに、と何故だかそんな事を思ってしまった。


「ん。綺麗だから見惚れてたんだ」

「ああ……確かに今日はいつもよりも綺麗に見えますね」

「あの月が満月になったら今年も終わりだね」


 この世界の暦は満月の夜の次の日が一ヶ月の最初の日となっている。


「卒業したら私達は旅に出るんですね」

「うん」


 頷いてから村長の家に向かって歩き出す。

 カイル君達も僕の様子が気になっていたのか立ち止まっていたけれど、僕が歩き出すのを確認すると自分達も歩き出した。

 暗い夜道。各々が作り出した魔法の光で道が照らし出されている。

 もしも、この魔法の光が無かったら僕は前に進めるのだろうか? そんな妄想に僕は少し……いや、大分怖気づいて思わず隣にフェアチャイルドさんが居るか確認した。

 フェアチャイルドさんは僕の一歩下がった所を歩いていた。視線が合うと微笑んでくる。

 しっかりしないと。こんな事で怖がってどうするんだ。




 夕食を食べた後僕は家を抜け出していつものようにシエル様と星空の下で交信を行う。

 他愛もない話を続けていると背後から声がかかった。


「ナギ」


 カイル君の声に僕は慌ててシエル様に断りを入れてから振り返った。


「また一人でこんな所にいるのか」

「カイル君……うん。僕星を見るのが好きなんだ」

「そんなにいいのか?」

「綺麗じゃないか。それに星座を探すのも面白いよ」


 この世界でも星座は星の配置から連想される神話や動物等を元に名前が付けられている。

 今の季節だとナビィ座やハクオウホウ座と言う鳥の星座が見える。


「全然見分けつかねぇ」

「じゃあ教えてあげるよ」


 僕はライトに指向性を持たせて空に向けた。指向性を持たせるならサンライトでもいいんだけど消費がね……。


「あれがナビィ座で」


 ナビィ座は赤く光っている星から上に二つ、右に三つの星が集まっている星座だ。


「あっちがハクオウホウ座」


 ハクオウホウ座は七つの弓状の星の集まりの真ん中の星から上下に二つの星が伸びている。

 ナビィとハクオウホウはどちらも白い見た目をしているから冬を象徴する動物らしい。

 説明を終えると僕はライトを消した。


「ハクオウホウってなんだ?」

「絶滅した鳥の名前だよ。千年前にいた白い鳥らしいよ。羽がね、すっごく大きかったみたいなんだ」

「へぇ~、他にはどんなのがあるんだ」

「今見えてるのはこれ位だよ。後はもっと遅い時間にならないと見れないね」

「なんだ。見れないのか」

「……意外と、カイル君と話をしていない事ってあったんだんね」

「星座の事か? たしかに、俺あんまり気にしてなかったからな」

「もう最後の旅なのに、本当今更だよね」

「最後……」

「カイル君。最後だから言うんだけどさ」

「なんだ?」

「楽しかったよ。この六年間。ありがとう」


 前世では体験する事のなかった六年間。楽しかったんだ、僕は。


「あ……俺、は……」

「そろそろ」

「ナギ。俺も最後に伝えたい事がある」


 戻ろうと言おうとした所でカイル君の真剣な声が僕を止めた。

 僕はカイル君の赤茶色の瞳をじっと見つめたまま僕は言葉を待った。


「俺、ナギの事が好きだ。ずっとずっと好きだった。

 本当は伝えるつもりはなかったんだ。どうせ無駄だって思って……。

 俺には騎士になる夢がある。でもナギは冒険者になるって昔っから言ってたからさ、諦めようって思ってたんだ。

 でもロビンがナギに告白したのを見てからずっとここがもやもやしてたんだ」


 カイル君は自分の胸の部分に握り拳を置いて続けた。


「あいつみたいに俺も自分の気持ちを伝えたいって思ったんだ。でもなかなかきっかけがつかめなくて今になったけど……最後だと思ったから。

 だからナギ、返事を聞きたい」

「僕はカイル君の気持ちには応えられない」

「……そうだよな。ははっ、きっぱりと言うよな、ナギって」


 カイル君は不自然な笑顔を浮かべて笑う。


「僕は誰ともそういう関係になるつもりはないから」

「どうしてだ?」

「……だって、僕が好きになるのは女性だから」


 どうして言おうと思ったのか分からない。この世界でも同性愛と言うのは少数派でいい顔はされない。流石に魔女狩りみたいな事はされないけれど公言する事にメリットはない。


「え……」

「ごめんね。僕、男の子は駄目なんだ」


 一番の理由は年齢だけど、これは話すと余計にややこしくなるだろうから話さない。


「いや……え、ちょっと待て……えと、確認するけどレナスとはそういう関係なのか?」

「違うよ。僕が好きなのは大人の女性だから。確認したくなる気持ちはわかるけど、フェアチャイルドさんには聞かないでね。失礼だから」

「ああ……」


 気持ち悪いと思っただろうか。昔たまたま話に出てカイル君は同性愛に対して理解はしていなかった。

 ぶっちゃけ僕だって同性愛は理解していない。僕はたまたま男の魂のまま女の子に生まれ変わったんだから厳密にいえば同性愛じゃないと思うし、同性を好きになるという苦悩とか全く分からない。

 僕にとっての同性は男なんだ。むしろ女の子を好きなった方が正常だと思ってる。

 ……けど僕の身体が女だという事実は変わらない。この身体が男だったら悩みなんてなかったのに。


「どうしても男は駄目なのか?」

「うん」

「子供とか、どうするんだよ」

「僕が冒険者になる理由の一つにね、男になる方法がないか探すっていう目的があるんだ」

「そんな夢みたいな方法ある訳ないだろ!」

「僕もそう思う。けど、なかったら僕はもっと先に夢を諦めなきゃいけないんだ」

「先の夢ってなんだよ」

「……誰でも一度は考える事だよ。カイル君だって、きっと考えたはずだよ」


 カイル君の目が僕に先を促してくる。


「僕の夢は、優しいお嫁さんと結婚して、子供を作って幸せな家庭を作る事なんだ」


 僕が男として生まれていたら夢にもならなかっただろう。この体で生まれたからこそ、当たり前の願望は夢になってしまった。

 夢で終わらせるには、僕は少し我儘すぎた。

 僕が子供を産むというのは本当に男になる手段がないと確認してからにしたい。色々と怖いし。

 男になれないのなら子供を作るために我慢する。ただ心配なのは、僕はまだ子を産める身体にはなっていないという事だ。

 来て欲しいような欲しくないような複雑な気持ちだ。


「そんなのが……ナギの、夢なのか?」

「半ば諦めてはいるけどね。勉強するにつれて男になれる手段はないってわかったし。でももしかしたらって思うと諦めきれないんだ」

「他に誰かその夢の事知ってるのか」

「ううん。話した事はないよ。フェアチャイルドさんは僕が男になりたいって事は気づいてるかもしれないけど」

「そっか……」

「あんまり他の人には言いふらして欲しくはないかな。恥ずかしいからさ」


 カイル君はこういう事は言いふらさないと思うけれど。


「言わねぇよ」

「んふふ。ありがと。それじゃあそろそろ戻ろうか。皆心配してるだろうし」

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