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最後の都市外授業

 集合場所は学校だ。学校で馬車に乗り北の門からグランエルから出て三つの村へ行く事になる。

 旅程は三日間を予定している。余程の事がない限り遅れる事はないだろう。

 今日は全ての新入生のいる村に行き村長に生徒の確認をしなければならない。

 初日は二番目の村クルガ村に泊まり、二日目に一番遠くグランエルから北北東に位置している村であるフルエ村で新入生を拾う。そして、そこからクルガ村に戻って一泊する事になる。

 僕達の役割は護衛だけれど、何事もなければ馬車に揺られているだけでいい。多分今までで一番楽な都市外授業だ。


 僕とフェアチャイルドさんが学校に着くと丁度先生が御者をやり幌馬車を校門の近くまで持ってきている所だった。

 僕は馬車を引いている馬から少し離れる。僕は普段ナスやアースと接して匂いが染み付いているせいか馬みたいな臆病な生き物には近づくと嫌な顔をさせてしまうんだ。というか実際に文句を言われた事もある。あの時はちょっとびっくりした。……決して涙目にはなっていない。

 先生から馬車の中に荷物を置いていいと許可が出たので遠慮なく持っていた荷物を置く。念の為にいつもの都市外授業で持っていく物と同じ物を持って来ている。残りは全部アースのいる倉庫に置いてある。

 少し待つとカイル君とラット君が並んでやってきた。


「おはよー」

「おはようございます」

「おう」

「あれ? レナスさん髪形変えたんだ」

「はい。これからはこっちの方がいいかなって」

「似合ってるよ」

「ありがとうございます」


 挨拶を終えると先生が荷物を馬車の中に置くようにと二人に告げた。

 二人が荷物を置くと集まるように言われたので言うとおりにする。


「今日からの都市外授業がお前達の最後の授業だ。都市外で、しかも護衛の授業だ。最後まで気を抜かないで授業に挑むように。

 それと新入生は五人の予定だ。くれぐれも護衛の途中目を離して行方が分からなくなる、という事が無いようにな。

 では全員馬車に乗れ」


 先生の号令で全員馬車に乗る。幌の中に入るとカイル君とラット君は馬車が初めてらしくそわそわと落ち着きがない。

 動き出すと二人は感嘆の声を上げ後方から外の景色を見ている。

 自分が動かなくても流れていく街の景色に感心しているんだろう。

 子供らしい仕草に自然と笑みを浮かべてしまったらしく、カイル君がジト目で僕に視線を向けてきた。


「なんだよ。変に笑って」

「いや、何でもないよ。二人共動く馬車に乗るのは初めて?」


 一応護衛の授業で馬車を守る授業もやったんだけど、その時は馬車は動かなかったんだよね。


「僕は初めてだよ。カイルもそうだよね」

「ああ」


 何故か不服そうに答えるカイル君。


「皆気持ち悪くなったりとかはない?」


 フェアチャイルドさんも含めて念の為に聞いておく。フェアチャイルドさんも何度か馬車には乗っているはずだけれど、今思い返してみれば馬車酔いに関して聞いた事がなかった。


「僕は大丈夫ですよ」

「私も大丈夫です」

「何だ? 馬車って気持ち悪くなる物なのか?」

「人によってはね。アールスとか毎回気持ち悪くなってたよ」


 毎回と言っても片手で足りるほどしか一緒には乗らなかったけれど。


「あのアールスが!?」


 大袈裟とも思える反応だが正直気持ちはわかる。あの頑丈そうなアールスが馬車酔いになったんだ。ラット君は顔が真っ青になっている。

 アールスの事は余計だったかな? 不安にさせるとそれだけで酔いやすくなるって聞いた事があるような気がする。


「大丈夫大丈夫。本当に人によるんだから。ね? フェアチャイルドさん。フェアチャイルドさんは気持ち悪くなった事ないよね」


 そう聞くと彼女は思い出す様に人差し指をこめかみに当てながら答えてくれた。


「……はい。確かにないです」

「僕だってないし人によるんだよ」

「そうなのかなぁ……」


 いまいち信じ切れないのかラット君難しい顔をしている。ここは話題を変えた方がいいだろう。


「それよりさ、最後の都市外授業なんだから楽しくやろうよ」

「楽しくたってなぁ」

「思い出でも振り返ろうよ。一年生の頃カイル君が泣いた時の事とか」

「なっ! や、やめろ思い出させるな!」


 余程恥ずかしいのか顔を真っ赤にして僕の口を封じてくる。


「あ~、あったねー。たしか女の子に意地悪してナギさんにお尻を……」

「ラット! おまっ、本当にやめろ!」

「……ああ、思い出しました」

「やーめーろー! そんだったら俺だって出すぞ! ラットお前アールスの事好きだったろ!」

「なっ!? なに言って……」


 ラット君の目が泳いでいる。でもごめんね……。


「知ってる」

「知ってました」

「え……」

「なんだ、知ってたのかよ」

「ラット君分かりやすいからね」

「アールスさんも気づいていましたよ? まったく気にしていませんでしたけど」

「え……」

「多分同じクラスだった子は皆気づいてたんじゃないかな」

「フィアさんとベルさんは知っていましたよ」

「ええー……」


 ラット君は両手を床に着けてがっくりと頭を垂らした。


「お前ら容赦ないな……」

「ラット君元気出して。今好きな子の事は誰にも言わないから」

「何で知ってるの!?」

「えげつねぇ……」

「ベルさんが本人に訪ねた所脈がありそうでしたよ。頑張ってください」

「本当に!? じゃなくてどれくらい広がってるの!?」

「多分その好きな子以外の女子全員には……」

「……」


 ラット君が口をパクパクとさせ呆然としている。仕方ないんだ。女の子はこの手の話が大好きだから話が広まるのが早いんだよ。特に娯楽がないと言っていいグランエルでは。

 僕だって聞きたくはなかったよそんな事実は。


「ちょっとまて、それって他の奴らも……その、分かってるって事か?」

「そうじゃないかな? 僕はあんまり興味なかったから数人しか知らないけど」

「カイルさん。私は色々と知っています」


 あなたの好きな人の事を知っていますという副音声が聞こえた気がする。


「ひっ」

「そっかぁ、カイル君にもいるんだ」

「くそっ……ラット! 何か、何か反撃の手立てはないか!?」

「だ、駄目だ……二人共隙が無さすぎる。特にナギさんは何を言われても笑って流す、そんな凄みを感じさせる!」

「そ、そうだ。ナギ、お前五年生の頃女子に王子さまって呼ばれてただろ」


 事実だ。確かアースを連れて帰ったせいで広まったんだ。魔獣を従える王子様とか魔獣にひるむ事無く立ち向かった騎士様とか、望まぬ尾ひれまでついて。


「あれはさすがに恥ずかしかったなぁ」


 だからすぐにやめてくれとお願いしたんだ。まぁ男らしさが滲み出てしまった結果だと思うと少し嬉しいんだけれど。


「全然応えてない……」

「あっ、レナスさんが調理実習で不味い料理を作った事とか」

「ああ、あったあった。でも今じゃ料理上手になったよね。ベルナデットさんに習ったんだっけ?」

「はい。休みの日や空いてる日に材料を買ってベルさんのお家で教えてもらいました」

「隙が無さすぎる……ラット、二人の好きな人とか知らないか?」

「し、知らないよ。そんなの聞いた事もないし、そういう雰囲気を感じさせる相手もいないんだよ。特にレナスさんなんて僕達ぐらいしか男子と接点ないよ」

「不公平だ」


 そんな事言われても困る。でも確かに気になるな。なので彼女に直接聞いてみた。


「ラット君がああ言っているけど、気になってる男の子とかいないの?」

「いません」


 きっぱりとした否定の言葉だった。

 僕としては恋とかそういう話は十二歳には早いんじゃないかとは思うんだけど、現実は女の子はそういう話が好きだし、すでに付き合っているという子達は何組かいる。

 この国では成人……十五歳になったら結婚する事が出来るんだけれど、結婚適齢期は二十歳前後だと言われているし、国もそのくらいを推奨している。

 何故二十歳前後かというと男女共に身体が出来上がる年齢だからだ。

 それではなぜ二十歳で結婚できるようにしないのかというと、それはこの国の置かれた状況の所為だ。魔物が支配する地に三方向を囲まれていつ魔物達が押し寄せてくるか分からない中、魔物と戦う為の力を蓄える為に子供の数を確保したかったんだ。

 しかし、だからと言ってこの国の方針は産めよ増やせよではない。何も考えずに子供を増やされたら今度は食糧難や人が住む土地の問題が出る。

 魔物への対策、母体への影響、食糧難、土地問題、様々な問題を加味して国で法として定めたのが十五という年齢だ。

 魔物や母体以外の問題は現状緩和されているけれど多分これからも変わる事はないだろう。

 話が大分逸れてしまった。戻そう。

 僕が何を言いたいのかというと、フェアチャイルドさんには恋人とかそういうのはまだ早いんじゃないかな!

 三年後には結婚できるとはいえまだ十二……ああ、でも前世でも女性は十六で結婚できたから大差はないのか……しかもこの国は早ければ十二歳から働けるし。

 いや、でもやっぱりお父さんは許しません! 恋人だなんてそんな、僕を倒してから名乗れ!

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