守って欲しい事
「やー!」
「たー!」
「ぼっふっふ」
子供達がそれぞれ手に持った武器でアースに攻撃をする。
だが子供の力でアースの強固な体毛を通す事など出来るはずもなくアースの身じろぎ一つで子供達は尻もちをついた。
……そもそも木剣やら先に布の塊のついた槍とかでどうにかできるはずもないんだけれど。
今回の護衛の授業は護衛の途中に凶暴な動物が襲って来たという状況の元行われていて、護衛に携わっているチームの数も三つで行われている。
アースは子供達と戯れるのが楽しいのか終始機嫌がいい。先日ナスも同じように授業に協力してもらっていたけど、ナスも楽しそうだったなぁ。
やはり身体を動かせるというのがいいんだろう。後数ヶ月で二匹とも窮屈な暮らしから解放される。その時には労わないとな。
授業が終わると僕はアースに『エリアヒール』をかけた。けれど、予想通り回復の手応えは一切なかった。
「アース、お疲れ様。ありがとうね」
「ぼふ。ぼふぼふ」
「分かってるって。マナポーションは奮発するよ」
その為に今日はまだ魔力を全部マナポーションにしていないんだから。
今はお昼休みの時間だ。お弁当はフェアチャイルドさんにお願いしてアースの住んでいる倉庫に持って来て貰う事になっている。
なので僕はアースを連れて倉庫へ。
倉庫へ向かう途中元気な声が僕を呼び止めた。
「ねーちゃん! あそぼー!」
アイネだ。風のような速さでアイネが僕の前に回り込んでくる。
アイネが走ってきた方を見るとミリアちゃんが息を切らせて走ってきている。
「お昼食べたらね。アイネ達はもう食べたの?」
「まだ! ナスと一緒に食べるんだ」
「そう。でも……友達を置いて来ちゃ駄目だよ?」
「あっ」
ようやく気付いたのかアイネはミリアちゃんの方に走って行った。
「ひどいよー」
「ごめーん!」
二人は合流すると仲良く手を繋ぎ再び僕達の元へ近寄ってきた。
「ねーちゃん。アースも一緒でいい?」
「アース、この子達がアースとナスと一緒にご飯食べたいって。どう?」
「ぼふ」
ナスと一緒にという所が不服そうだったが異存はないようだ。
とりあえずアイネ達も連れて倉庫へ行き、フェアチャイルドさんが僕のお弁当を持ってくるはずだという事を伝えておいてからナスを連れに向かった。
そして、ナスを連れて戻ると倉庫の前にはフェアチャイルドさんが僕と自分の分のお弁当を持って待っていてくれた。
「ごめん。待たせちゃったね」
「いえ、今来た所です」
「そう? お弁当持って来てくれてありがとう」
「いえ、お礼なんてそんな……それよりも早く食べましょう?」
「アイネ達は中かな?」
「そうです。行きましょう」
フェアチャイルドさんが僕の手を取り倉庫の中へ導く。
最近は寒くなってきた。確かに中で食べた方がいいか。
彼女に手を引かれたまま僕とナスは倉庫の中へ入っていく。
「あっ、ナスー」
「ぴー」
アイネが手を振るとナスはそれに応えるようにぴょこんぴょこんと跳ねてアイネとミリアちゃんの間に収まる。両手に花だ。
咥えていた食器を地面に置きぴーとマナポーションを催促してくる。
アースも負けじばかりにとぼふっと食器を鼻先で押しながら力強い声で鳴いた。
「はいはい。ちょっと待ってて」
食器に近寄ろうとしてまだ手が握られている事を思い出した。近寄る必要はないから手を離す必要も無いんだけれど、いつまでも繋いでいるのもなんだ。
フェアチャイルドさんの手から離れようとするけれど、何故か彼女は強く握り返して来た。
「フェアチャイルドさん? 放して?」
「……はい」
何だったんだろうか。
ナスとアースの食器にマナポーションを満たしアースの横、椅子は無いから倉庫の床に直座りする。
そして僕の隣にフェアチャイルドさんが座りお弁当を渡してくれる。
今日のお弁当はサンドイッチに果物だ。量は最上級生とも相ってアイネ達のよりも多いのだけれど、フェアチャイルドさんは相変わらず小食なのでアイネ達と量は大して変わらない。
一応体力をつける為に量を少しずつ増やしているから昔よりも食べてはいるんだ。
昔は残す事が多かった彼女の成長を改めて実感しつつ御飯を食べ終わるとアイネは早速遊ぼうと言い出した。
でも他の二人が苦しそうなので元気のいいアイネを宥めて少しの時間休憩を取る。
休憩を取った後魔獣二匹を引き連れて校庭へ向かう。
アースは最初の頃こそ怖がられていたけれど、今では皆慣れたようでナスと同じく皆の人気者となっている。特にその巨体ゆえに小さな男の子からは熱い視線を向けられている。
大きな体は男の子達にとって格好の遊具となっている。校庭にいるだけでアースの背中に上ろうとする男の子がわらわらと寄ってくる。
大きい男の子達はもう踏破済みなので食いつきは悪いけれど、小さな子達はまだ登り切れてない子が多い。……もっとも、アイネはとうに登り切っているけど未だに登って背中の上で両手を上げて楽しんでいるけれど。
アースは体毛がツルツルしている為握力がないと滑って落ちてしまうんだ。
それに時々身動ぎもするから小さな子達には結構難易度が高い。
小さな子供達からの人気の半分をアースに取られたナスは今もふもふの身体を求めて抱き着いてくる女の子や一緒に散歩をしたい女の子達に目一杯かわいがられている。
何かあった時の為に僕が二匹の事を見ていないといけないんだけれど、ナスが校内を散歩する時はアースの事は見れない。その時はアースの事をフェアチャイルドさんに任せている。
フェアチャイルドさんはアースの身体を洗う時手伝って貰っているのでアースにはもう慣れたようだ。ナスにも普通に接する事が出来るようになった。
けれど、時々街で出会う猫や犬にはまだ慣れていないようで見つけると怖がって僕の腕にしがみついて来る。……昔よりひどくなっている気がするな。
お昼休みの終わりが近づくと僕はナスとアースをそれぞれの住処へ戻しに向かった。フェアチャイルドさんもついて来ようとしたけれど、わざわざついて来ることはないと断っておいた。
「ぼっふ」
「楽しかった? アースもすっかり皆と仲良くなったね」
「ぴー」
「ふふ、それはよかったね」
倉庫の前まで行き僕は中に入る前に立ち止まった。
「ナス、アース……もうすぐ皆とはお別れになるけど、寂しくない?」
「ぼふっ」
アースは大丈夫よ、と陽気に返事した。
「ぴぃ……ぴぃぴー」
ナスは寂しいけれど、僕についていくと言ってくれた。
「ありがとう。ナス、アース、もしも……旅先で僕に何かあったら二人には守って欲しい事があるんだ」
「ぴー?」
「ぼふ?」
「もしも僕がフェアチャイルドさんよりも先に死んだら、彼女を守って欲しいんだ。……せめて、安全な所まで」
「ぴー!」
不吉な事を言わないでと怒られた。でも……僕はナスの手を取り続けた。
「お願い。彼女は僕にとって大切な子なんだ。本当に……」
「ぴー……」
「ぼふっ! ぼっふっふん」
アースが任せて! と言った後そしてまぁナスには無理でしょうけどと挑発する。
「ぴー!」
アースの挑発にナスは自分にも出来ると怒鳴ってかなりご立腹の様子だ。
「ナス、アース。ありがとう。僕が死んだ後は自由に生きてね」
「ぴぃ!」
ナスが僕の頬に鼻先を擦りつけてくる。精一杯守ると言ってくれる。でも、それは僕も同じ気持ちだ。たとえ僕よりも強くても、僕は二匹とも守る。彼女も、この二匹も皆僕は失いたくない。
多分そう強く思うのは今でも前世の事を引きずっている為だろう。もうこの世界に来て十年以上経っているのに……。
「でも一番なのは皆が無事でいる事だよね」
「ぼふっ」
「ぴー!」
そうだ、死にたいわけじゃないんだ。僕はこの仔達と一緒に生きていきたいんだ。
だから、今世では簡単に命を捨てたりはしない。この仔達とあの子を置いて死んだりなんかするものか。




