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堅牢なる獣 その3

 外は崖となっていた。今僕のいる場所が上空にあるんだ。多分岩の壁がある所を境目に円柱のように切り立っているんだと思う。さらにこの場所に高台を作るのに使ったのか、高台の周りがさらに深い堀となっている。

 高台の高さは大体辺りに生えている木の高さの二倍程度の高さだろうか。これをあのアライサスがやったの? どれだけ魔力(マナ)があればこんな事が可能なんだ。

 見える範囲には人間の姿は見えない。皆はどうしているだろう。無事だろうか?

 この異変の範囲が僕が今いる場所だけで済んでいるなら大丈夫だとは思うけれど……やっぱり確認しなくちゃだめだ。

 魔力(マナ)を……ってもうあんまり魔力(マナ)が残っていなかったんだ。


「ぼふ」


 いつの間にか後ろにいたアライサスが僕と自分が立っている場所の地面を操作しまるでエレベーターのように動かし、地上と同じ高さになると周囲の土を石に変え橋を作った。


「……すごいね、君」

「ぼっふっふ」


 さっきまで殺されそうになってたからすっごく複雑だ。

 なんでこの子は急に僕の配下になるって言いだしたんだろう。僕の力を認めたって、そんなにサンライトが痛かったのかな。

 そもそもなんで戦いを挑んできたんだ? 出てきたのも地面の中からだし、いつどうやって魔獣化したのかも気になる。

 何はともあれ聞きたい事はあるけれど皆の無事を確かめてからだ。アライサスに皆の居場所が分からないかと聞くとついて来いと言わんばかりに歩き出した。

 少しの間歩いていて僕は崖の上に足場が出来ており、その上に先生が立っているのを見つけた。

 僕が声をかけようとすると先生は慌てた様子で僕に声をかけてきた。


「ナギか! そ、その魔獣はどうしたんだ!?」

「あっ、大丈夫ですー」


 ナスの例があったからか先生は慌てながらも攻撃する様子は見せずに魔法を使い降りてきた。先生も十分すごかった。さすがに高台を作るほどではないだろうけど、橋を作って崖に足場を作るとなるとさすがに僕でも魔力(マナ)が足りるかどうか。やはり魔力(マナ)の量は長く生きている方が多くなるんだろうな。


「心配したぞナギ!」

「すみません……なんだか僕に話があったみたいで、この魔獣が僕だけを隔離したみたいなんです」

「ぼふ」


 戦ったとは言わない。だって普通に戦っていたら僕は絶対に勝てない相手だ。僕もまだ状況を把握しているとは言い難いから適当な理由でごまかす事にした。


「それにしたって……いや、ちょっと待てその魔獣がこれをやったのか?」

「そうみたいです」

「……」


 先生の顔がどんどんと青ざめていく。無理もないよね。他の皆には内緒にしておいたほうがいいのかな。でも謝らせるんだったら説明しないと駄目か。


「あの、それで怪我人とかは……」

「あ、ああ、急な揺れで転んだ子や狩りの途中だった子が怪我をしたが命に別状はない」

「僕の出番は無いんですね?」


 先生達は僕がパーフェクトヒールを使える事は把握している。


「ああ、無い」


 あったらもう魔力(マナ)が無いから困った事になっていたな。


「よかった……君、皆にちゃんと謝ってくれるかな?」

「ぼふ」


 偉そうに了解した。下手に強いから僕から強く言うのは怖いけど……もうちょっと何とかならないか。

 先生に案内され皆のいる所へ向かうとナスが僕に気が付き一目散に駆け寄ってきた。


「ぴー!」


 ナスは角が届かない距離で立ち止まった。これは僕が常日頃から注意しているからだろう。

 僕は自分から近寄り首に腕を回しナスを抱きしめた。


「ぴーぴー!」

「心配させてごめんね」


 泣いているナスの柔らかい体毛をかき分け身体を直接撫でる。

 また心配させてしまった。


「ぴぃ~」

「よしよし。僕は大丈夫だよ。だから泣かないで」


 ナスの赤い目から涙が出ている。魔獣も悲しいと涙が出るのか。


「ナギさん!」

「ナギ!」


 いつの間にかフェアチャイルドさんとカイル君も来ていた。


「二人も心配かけちゃったね。ごめん」

「いえ、ナギさんが謝る事では……」

「その後ろにいるでっかいのなんだよ……」

「あれの原因」


 切り立った崖を指さし答えるとカイル君は口をあんぐりと開けたまま硬直してしまった。

 フェアチャイルドさんは横目でちらりとアライサスを少し見ただけですぐに僕の心配をしてきた。


「ナギさん。お怪我は無いですか」

「うん。無いよ」


 直撃は一切食らっていないから怪我はない。というか掠っただけでも致命傷になりそうだ。

 手加減してくれたから僕はこうして皆と再会できるんだ。少し複雑な気分だけど。

 アライサスを皆の前に連れていき謝罪をさせてみると、アライサスはふてぶてしい態度をとりつつも頭を下げて謝った。

 皆がこれで許してくれるかは分からない。文句があったとしても言えないだろうけどさ。特に子供達の大半はアライサスの事を恐れているようだ。

 仕方ないだろう。圧倒的な差を見せられて、先生達まで警戒しているんだから。

 元に戻せないのかと聞いても魔力(マナ)が足りないらしく、戻せるようになるのは明日になるそうだ。

 その事を先生達に伝えると明日出発するのを遅らせる事になった。アライサスには僕と数人の先生と一緒にとりあえず今晩ここに残って、魔力(マナ)が回復次第土地を元通りにして貰ってから皆と合流することになった。


「ぼふぼっふ」


 早く配下にしてくれと急かして来ている。果たして本当に仲間にしていいのか……悩んでも仕方ないか。このアライサスがいれば心強いのも確かだし。

 でもその前に……。


「その前に教えて欲しいんだけど、どうしてそんなに僕の仲間になりたいの?」

「ぼふ? ぼふぼふぼっふー」


 僕の変な魔法が気に入ったらしい。神聖魔法なのに失礼な。

 ついでに戦いを挑んできた理由、資格とやらについても聞いてみるとどうやら魔獣は魔獣を従える資格を持つ者を感じ取る事ができるらしい。そして、配下になってもいいと考える魔獣は主となる資格者を見極める為に様々な方法で試すらしい。

 ナスにも聞いてみると同じように答えて、最初襲ってきたのも似たような理由らしい。なんだかよくわからないけど惹かれる物があったから攻撃を仕掛けたんだとか。迷惑な話だ。僕は魔獣ほいほいなのだろうか? 魔獣の誓いって呪いの間違いじゃないの?


「とりあえず話進めよっか。えっと、僕の仲間になる?」

「ぼふっ!」


《アライサス・ソリッドが仲間になりました》


 ナス以来だな。さて、名前はどうしようか。見た目は灰色の大きなサイ。ハクサイ……いやいや、さすがにそのセンスはないな。ハクサイをちょっと捻ってハッサク……食べ物から離れるんだ僕! ナスといい食べ物関連で埋めるつもりか!

 見た目から離れよう。そう、土を操っていたっけ。圧倒的な量の魔力(マナ)で土を操る様はまさに土の神様と呼ぶに相応しいんじゃないだろうか。

 ここはその力に敬意を表して相応しい名前を付けようじゃないか。そう、今日から君の名前は……。


「アース。アースだ」


 大地の名前。僕の前世で暮らしていた星に名付けられた名前でもある。力強いこの魔獣にはピッタリじゃないだろうか? ガイアと迷ったけれど、アライサスだしアースの方がいいかなって思ったんだ。


「今日から君はアースだ」

「ぼふっ!」

「……ナギさん」


 傍で話を聞いていたフェアチャイルドさんが躊躇いがちに僕の名前を呼ぶ。

 何だろう。そう変な名前じゃないと思うんだけど。


「アース……アールス、アリス……被ってます。ナスさんも含めると皆スが被っていますね」


 『ス』被りすぎだろ! ってよく考えたらフェアチャイルドさんもレナスで被ってるし、ルイスも被ってるじゃないか!


「……アースっていう名前はやめようか?」

「ぼふふん!」


 激しく首を横に振って嫌がっている。どうやら相当気に入ってしまったようだ。


「ガ、ガイアとかどうかな?」

「ぼふ? ……ぼふん」


 嫌らしい。


「テラとか」

「ぼふん」

「ルネとかリッドとか」

「ぼふんぼふん」

「……じゃあライサは」

「ぼふっふん」


 安直と笑われた。


「アースでいいです……」

「ぼふ」


 次は、次こそは誰とも被らないように気を付けよう……。




 アースの謝罪の後、先生達で話し合いが行われ、その結果アースの所為で中断されてしまったアライサス狩りは中止となった。

 本来夜に狩れたアライサスを焼肉にして皆でわいわいと食べる予定だったので男の子達から盛大に文句が出た。

 元々狩りは成功しないものと考えられていたからある意味予定通りだ、と先生の一人が口を滑らせたのでさらに非難の声が上がった。

 僕達の所はあと少しという所だったからなおさらだ。僕達の罠にかかったアライサスは騒ぎの合間に逃げてしまったらしい。完全に落とすほど深く掘れてたらよかったんだけど、さすがに時間がなかった。

 元凶であるアースに狩らせようかと一瞬頭を横切ったけれど、さすがに元同族を狩らせるのも気が咎める。


 一応アライサスについてはどう思っているかを聞いてみると概ねナスと同じ答えで同族とは思っていないようだ。ただナスとは少し違って長年見守っていたので愛着はあるそうだ。

 そうそう、アースはどうやらずっと昔、何年前かは分からないらしいけれど、この辺一帯が開拓されたばかりの頃に人間によって連れてこられた後魔獣化しずっと地面の下で暮らしていたらしい。

 調べれば大体の時期は分かるだろう。何故地面に潜っていたのかと聞くと、地下の方が魔素を含んだ土が大量に残っていて、魔障化が広がらないように魔法で集めて食べていたらしい。

 ナスは魔素は好きではないらしい。ナス曰く不味いんだとか。そんな物を広がらないようにする為とは言え長年食べていたのか。

 もしかして、ここ数年続いている魔素の減少はアースの所為?

 一応前線より先の魔物達の領域から魔素が流れ込んでくるから魔素が枯渇して魔力(マナ)の容量を増やせないって事にはならないんだけど。


「ぼっふっふ」


 いや、違う。アースはあの味が分からないなんて子供ねとナスを笑った。魔素を食べてたのはただの好みだ!

 笑ったアースに対しナスは威嚇の時の声を出す。


「ぴぃ……」


 いつもは高く可愛らしい声が今は低く獣の声となっている。角に電気が集まり始めてる……これはすぐに止めないと争いになる!


「ナス! 駄目! 待て!」

「ぴぃ~」


 不服そうだが電気を消してくれた。


「ぼふっふ~」

「アースも挑発しない!」


 フェアチャイルドさんとアールスは仲いいのにどうしてこうなるのか。今日が初対面だから仕方ないか?


「ナス、いくら不愉快になったからって魔法は使ったらだめだよ」

「ぴー……」


 耳が垂れてるナスが少し可哀そうになり僕は慰める為に頭を撫でる。

 するとナスの頭の横にアースの頭がにょきりと生えてきた。


「アースは駄目。少しは反省しなさい」

「ぼふん」

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