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堅牢なる獣 その1

 六月。印象深い初めての狩りから丁度一年が経った。今年の六月の都市外授業も全クラス合同の戦闘訓練だ。

 全クラスと言っても五年生の数は三十九人だ。特別多い訳ではないだろう。

 戦闘訓練はグランエルの北西一日半の所に生息しているアライサスという動物相手に行われる。

 絵付きの図鑑で見た事がある。アライサスは体毛のあるのサイのような動物だ。大きさは実際に見た事はないので大体の事しかわからないけど、多分本物のサイと変わらないと思う。皮は防具として、肉は食肉として、鼻の上にある角は加工すれば美しい装飾品となる。

 草食だが普段は単独で暮らしていて、性格は温厚だけれど体は大きく肉食獣に狙われても体毛に覆われた皮膚は弾力があり頑丈で牙も爪も通すことはない。足も遅いわけではないらしく動物としては持久力もある方らしい。

 そんなのを相手にどんな戦闘訓練するのだろうと思われるかもしれないが、今回の戦闘訓練は二つのチームが協力して一匹を狩るというものだ。

 肉食獣の牙や爪すら通さない皮膚に子供の剣が通じるとは思えない。狩りのメインは魔法になるだろう。ナスさえいればどうとでもなりそうだけれど。


 今回の都市外授業は五年生がまとめて移動する事になっている。どうやら魔物が攻めてきた時団体で移動する時の訓練みたいだ。

 出発する時間は決められており、今回は引率者として先生達が直接指導する事になっている。

 とは言っても実際に移動する時は何時もの様にチームで移動する事になっている。ただ前後に他のチームがいるかいないかの違いと、全体の進行速度の調整をするのが先生だという事以外はいつもと大差はないはずだ。

 経路はグランエルの北側から出てエラン村、ヨーレ村と辿って行く。往復も入れて今回の授業は五日間の予定だ。

 準備はほぼいつも通りでいいだろう。狩りの時に組む他のチームもすでに決まっている。魔法を使える子が多いチームだ。

 そのチームと違って僕らのチームは魔法を使えるのが僕しかいないんだよね。

 カイル君とバルドラ君は剣。レンティス君とエモット君は一昨年までは剣術を習ってたけど去年からはそれぞれ弓術と槍術に変えている。

 魔法が使えない生徒には厳しい授業だろう。けれど、魔法を使えなくたって出来る事はある。僕達のチームは出発の日までその出来る事の準備を進めた。




 今回は団体行動と言う事もあってゆっくりとした歩みだった。都市からエラン村へ、エラン村からヨーレ村へ二日をかけてやって来た。

 ヨーレ村から目的地までは朝早くから歩き三時間ほどの場所だ。

 目的地に着くとそこからさらに北西に一時間歩いた場所がアライサスの生息地だと教えられた。どうやらここから先は分かれて行動しなければならないらしい。

 もう一つのチーム……僕達のチームはカイル君がリーダーなのでこちらはカイルチームとしよう。そしてもう一つのチーム、全員が女の子のチームでリーダーがチェルシア=ラットレイという気の強い女の子だ。ラットレイチームと呼ぶ事にする。

 ラットレイチームと合流し前もって相談してお互いに用意していた道具を確かめる。

 僕達が用意したのは罠とそれを作る為の道具だ。

 一つ一つ状態と使い方を確認したら僕達カイルチームが全て運ぶ。ラットレイチームにはなるべく重い荷物を持たせずに動きやすくする為だ。体力的にもこっちのチームの方があるしね。

 準備が終わると僕達はアライサスのいる場所へ向かった。今回はナビィの時とは違い大型動物だからか先生も一チームに一人ついてきている。つまり僕達の後ろには二人の先生の姿がある。見られてると思うと少し緊張してしまう。上手くできるだろうか?


 ヨーレ村の北西には林と呼べるほど木が密集しているわけではないけれど、草原と呼べるほど何もない訳じゃない。

 細長い木と低木に背の高い草が点々と生えている。隠れる場所はないので遠くからでもアライサスの姿が確認できる。図鑑の通り大きい。

 近づいてもこちらを恐れていないのか逃げようとはしない。けれど、視線はじっと僕らを見ている。


「こいつら全然逃げないけどこのまま倒せるんじゃね?」


 そんなことをバルドラ君が言うので僕は速攻で否定した。


「何度も言ってるでしょ。皮がやっかいなんだよ。大人でも剣の達人じゃなきゃ攻撃が弾かれるらしいんだ。僕達の力じゃ皮どころか硬い体毛だって切れるかどうか。魔法をただ使ったって多分止めを刺す前に逃げちゃうよ。アライサスの体毛は燃えにくい事で有名だし、土とか氷の魔法は多分体を貫けない。可能性があるのは雷と風の魔法だけど……」


 魔法で倒す方法は実は見当がついている。調べてみるとアライサスは魔力(マナ)の量が少ないので僕でもからめ手で多分殺せるだろう。

 でも実行に移すとなるとやはり罠はあった方がいい。それに皆で協力するのが今回の授業の目的だろうし……うん。皆に危険がないうちはやらなくていいか。そして、ナスにも今回は手加減するように言ってある。ナスが本気を出したらもうナスだけでいいって事になってしまうから、授業にならない。一応魔獣使いとしての修練という名目で連れてきているからナスは活躍しなくていいんだけれど。


 僕達はなるべく罠が視認しにくくなるような木や低木が多くて隠れる場所も多い所を探した。

 そして格好の場所を見つけると早速道具を取り出す。

 僕達が仕掛ける罠は基本であろう落とし穴だ。カイルチームが全員でスコップを手に持ち穴を広く深く、アライサスの上半身が入る様に掘る。

 僕達が穴を掘っている間はラットレイチームはナスと一緒に周囲の警戒だ。先生達は遠くから僕達を見守っている。

 一時間をかけてようやく掘り終える事が出来た。五人いたとはいえ子供五人で一時間はかなり速いのではないだろうか。

 そしてお次は穴の上に用意した布を被せ、その上に偽装の為に布が穴の中に落ちないように注意しながら土を盛っていく。

 ここで才能を見せたのがレンティス君だった。レンティス君は周りの地面と盛り付けた場所を見比べながら自然に見えるように直した。

 傍から見ると見分けがつかない。バルドラ君がここまでする必要あるのかと茶化すけれど、僕は逆に褒めた。ここまで出来れば知能のある相手……魔物とか相手でも通用するだろう。今回ここまでする必要はなかったとしても、ここまで出来るというのが知れただけでも十分意味はあると思う。


 罠が出来上がった所で、罠まで追い立てる為に手ごろなアライサスを探す。

 アライサスを追い立てるのは主に僕の魔法だ。ラットレイチームもアライサスの進路を魔法で邪魔をしてもらう。僕以外の男の子達とナスは女の子を守る役目だ。

 見つけたアライサスに威嚇目的の『サンダーアロー』を撃つ。

 サンダーアローがアライサスの背中に当たる。するとアライサスは驚いたのか上半身を持ち上げ大きな声を出した後前へ走り出した。

 女の子達が男の子達に守られながら魔法を打ちアライサスの進路を妨害し罠へ誘導する。

 ……罠に誘導しているうちにアライサスが死んだら骨折り損だなぁ。

 けど、心配も僕の杞憂に終わる。追い立てられたアライサスは真っ直ぐ落とし穴の方へ走っていき見事落とし穴にはまった。

 しかし、結構魔法が当たってたのにまだ動ける当たり、やはり罠がないと狩るのは難しいだろう。他のチームはどうしているだろう。一応仲のいい子達には僕達のチームは罠を使うと言っておいたけれど。今日使うかどうかは聞いていない。怪我人がいなければいいけど。

 僕は何となく他のチームがいないか周囲を見渡した……その時。


 ズゥン!!


 地鳴りの音に激しい縦揺れが起きた。今世に生まれて今まで一度も遭った事のない地震だ! 僕はとっさに周囲に身を伏せるように叫び、自分も地面に伏せて揺れが収まるのを待った。

 揺れが収まり周囲を確認すると辺りの様子が一変していた。

 周囲には僕以外誰もいない。いないというか……何故か皆がいた方向に大きな岩の壁がそびえ立っていた。

 その岩の壁は木よりもはるかに高い。しかも左右に広がっていて……そこで気が付いた。この壁は僕を囲っている。

 遠くの方にも岩も壁が続いていて、反対側にも岩の壁が見える。


「なに、これ」


 僕だけが取り残された? いや、僕だけが隔離されたのか? 何で?

 疑問が僕の頭を支配する。

 岩は表面はまるで磨かれた金属の様につるつるとしていて登る事は難しそうだ。

 ナスの鳴き声が岩の壁の外から聞こえてくる。

 なら魔法で壊すべきか? いや、それよりも……。

 僕は第三階位魔法の『アースウォール』の魔法陣を展開し、発動位置を自分の足元に変える。アースウォールで岩の壁を乗り越える為だ。

 けれど……。


「ぼっふ!!」


 その声に気を取られ僕は魔法が中途半端な形で発現してしまった。いちおう土の壁は出たのだけど、岩の壁の高さには届かない。

 そして、声は僕に待てと言った。はっきりと聞こえた訳じゃないけれど、そういう意思が伝わってきたんだ。


「ぼふぼふふ!」


 どうやら相手は僕に挑戦したいようだ。でもどこから?

 周りを見渡す。すると、先ほどはなかった地面の盛り上がりを見つけた。もしやあそこから?

 予想は的中した。土の盛り上がりはあっという間に大きくなり弾けた。

 場所は遠かったため石礫は僕の所まではやってこなかった。

 地面から現れたのはアライサスだ。しかし、通常の個体とは違う。

 体毛が灰色になった身体はさらに大きくなり大型の幌馬車と同じくらいの大きさだ。

 姿は背中がラクダの瘤のように盛り上がっていて身体をさらに大きくしているような錯覚を受ける。

 おそらく魔獣となったアライサスだろう。その威風堂々たる姿に僕は思わず腰が引けて後ずさりをする。


「何故僕と戦いたいの?」


 腰に下げてある剣には手をかけない。アライサスの魔獣ならきっと通用しない。

 密かに極細の魔力(マナ)の糸をアライサスに繋げ魔力(マナ)の量を確認する。

 ……後悔した。ナスよりも魔力(マナ)の量が多い。多分ナスの二倍くらいだ。それも周囲に岩の壁を作るのに大量の魔力(マナ)を使っただろうに、だ。


「ぼふー!」

「僕が資格を持っているから?」


 固有能力の事だろうか?

 さらに話を聞きたかったけれどアライサスはもう我慢の限界だと言わんばかりに右足で地面を何度も踏んでいる。

 戦うしかないのか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 文章の前後で対義語:・・多いクラスだ。が、・・ 魔法を使える子が多いチームだ。僕らのチームは魔法を使えるのが僕しかいないんだよね。
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