ナス
五年生になるとフェアチャイルドさんとはクラスが分かれてしまった。今年は都市外授業が一緒に出来ないのが残念だけれど、まぁ仕方ないよね。
代わりに今年はカイル君と同じクラスになった。仲のいい男の子達もいたので早速チームを組む事になった。
五年生最初の都市外授業の内容はまだ教えられていない。ナスと一緒に外に出れるような物だといいんだけれど。
選択授業は去年と同じく魔法と錬金術の授業を取ろうと思ったのだけど、僕にはもう魔法の授業で教えられる事は何もないので他の授業を受けてくれと言われた。確かに僕はもう第六階位までの魔法は一応使える。後は練習をして実践レベルで使えるようにするだけなんだけれど、これ以上は高等学校で学ぶべき事だと言われてしまった。
第七階位以上の魔法は難しすぎて普通の学校で教える事が出来ないんだとか。
なので僕はどうしようかと迷った挙句……フソウ語の授業を取る事にしました。後から聞いた事だけど、フェアチャイルドさんも取ったらしい。
僕には自動翻訳機能付きの固有能力があるから話すのは全然大丈夫なんだ。けれど、読み書きができないとやはり買い物や宿に泊まる時に不便かもしれない。前世での英語の成績はよろしくなかったけど、今世ではすでにこの国の文字は覚えたからね。いけるいける。
放課後はあまり時間が取れなくなってしまったけれどまだ依頼をこなしている。五年生ともなると内容が難しくなる分銅貨十枚以上貰える依頼が多い。
僕は今は子守りと服の修繕をしているのでお金には困っていないけれどね。
疫病が流行った時に貰ったお金は一部を残して五柱すべての教会と療養施設へ平等に寄付をした。平等に分けた為出た端数のお金というのが一部の部分だ。
残ったお金は将来の為の貯蓄とさせてもらった。
報酬を貰った時に都市を管理している都市長に会った。その時に僕は子供でも安心してお金を預けられる所はないか、あったら都市長の方から振り込んでくれないかと頼んでみるとこの世界にも銀行はあった。僕があまり立ち入らない場所にある為気づけなかったようだ。
僕は早速手続きをして銀行を利用できるようにし、僕の作った口座に振り込んでもらった。
報奨金を貰う際に都市長から今回の疫病で治療に回っていたもう一人のピュアルミナの使い手から僕へ面会の申し出があった事を伝えられた。
どうやら年若くピュアルミナを使えるようになった僕と一度会ってみたいらしい。
僕はそれを安全面の為にと言って断った。安全面以外にも僕がルゥネイト様を信仰しているわけじゃない事がばれない様にする為の勉強の時間を確保したかった。
五年生になって勉強や秘密のお仕事で本当にやる事が増えてしまった。放課後の依頼をこなす頻度も減ってしまっているのはみんなに悪いと思う。
でもどんなに忙しい時でもナスのお世話だけは欠かす事はしなかった。
僕が病気の時は酷く心配させてしまい、戻ってきたら盛大に泣かれ僕の服を器用に両手で挟んで中々放してくれなかったのはいい思い出だ。
今日はそんなナスにご飯以外にも用がある。幸い今日この場所には僕しかいない。これからする事をフェアチャイルドさん以外には見られる訳にはいかない。
「ナス、これ持って」
僕が差し出したのはビー玉くらいの大きさの鉄。ナスはそれを両手で落とさないように挟み僕を見ながら首をかしげてきた。
「これはね、自分の能力とスキル、それに固有能力がわかる『ステータス』っていう魔法が込められた魔法鉄なんだ」
鉄を選んだのは単純に長持ちするようにと思ってだ。けど魔創鉄は高い上に封印の魔法陣を刻み付けるのに苦労して出来上がるのに時間がかかってしまった。
「もしも僕に自分の能力を見せてもいいと思ったら使ってみてほしい」
こうは言ったけれど本音では魔獣にも封印された魔法が使えるか試したいだけだ。それなら他の魔法でもいいだろうとは思われるかもしれないけど、ステータスを選んだのは僕の好奇心だ。
だからこの魔法鉄を使われなくても他の魔法を込めた魔法石はちゃんと持ってきている。
「ぴー」
ナスは躊躇いもせずに魔法鉄を使いステータスを発動させた。魔獣でもやっぱり使えるんだ。
ナスの目の前に魔力でできた青い板が浮かんでいる。
「読める?」
「ぴー!」
やっぱりちゃんと魔獣でも読めるようになっているんだ。
「僕も読んでみてもいい?」
「ぴー」
ナスは角で宙に浮かぶ板を反転させ僕に見えるようにしてくれた。
文字は僕でも読めるように日本語になっている。何故日本語かというと、シエル様曰く僕が一番慣れ親しんだ文字だからだそうだ。
ステータスに書かれた文字は読む者の慣れ親しんだ文字、文字が読めない者でも感覚的に解る様になっているらしい。いつかはこの国の文字に代わるのだろうか?
名前 ナス 年齢 なし
種族 ナビィ・インパルス 性別 無性
職業 なし
HP 97/97
MP 2741/2750
力 28
器用 10
敏捷 307
体力 258
知力 15
運 50
スキル
魔力操作
魔力感知
特殊スキル
サンダー・インパルス
固有能力
雷霆 魔眼
とりあえず一つずつ確認していこう。
年齢なしって何だろう? ナスに聞いても首をかしげるだけで明確な答えは返ってこない。こういう時はいつもの神様頼みだ。
(教えて! シエル先生!)
(はい。お答えしましょう。魔獣は不老の存在なので寿命はないようです)
(そうなんですか? 知りませんでした……)
いちおう長寿な魔獣がいる事は知っていたけれど魔獣そのものが不老だとは思わなかった。性別が無性なのも子孫を残す必要がないからかな? となると僕は魔獣の友達を見つけないとナスを一人置いて死んでしまうのか……。
「……ナス。僕が死んでも長生きするんだよ」
「ぴー?」
さて、次だ。ナスは体力がある割にHPが低い。HPはいちおう生命力とは別物だ。HPは正確に言い直すとハザードポイント。これは身体の健康度を意味している。数値が低いほど体が弱まっている事になる。
ハザードポイントは身体の構造の強弱や疲れ、体調、痛みに対する耐性、病気の有無等の様々な要因によって変わる。左の数値が今現在のハザードポイントで右の数値が絶好調の時のハザードポイントだと思えばいい。これがゼロになったからと言ってゲームのようにすぐに死に繋がるわけではない。ただ、非常に危険な状態であることには違いないけれど。
そしてナスのこの数値、ぶっちゃけこれは人間の子供レベルの低さだ。同世代の中でもHPが高いと自覚している僕の三分の一しかない。フェアチャイルドさんといい勝負している。
この圧倒的な魔力の量で僕がナスに勝てたのはこのHPの低さのお陰かもしれない。
さて、問題なのは初めて見た表記の特殊スキルだ。これはいったい何だろう?
(特殊スキルとはその者が極めた技の事です。わかりやすく言えば自分で考えた必殺技を練り上げてスキルへと昇華させたものです)
(となると……)
「ねぇ、ナス。このサンダー・インパルスって角から出てた雷撃の事?」
「ぴー!」
「そっかー、すごいんだねぇ」
頭を撫でて褒めてあげるとナスはひときわ甲高い声で鳴いた。
僕も特殊スキル覚えたいな。そういえば前に剣に魔力を集めて切れ味を鋭くした事があったけど、あれも特殊スキルになるのかな。
あの時……ナビィにとどめを刺す時になんとなく使ってみたけれど、あれは本当に強力な技?だと自分でも思う。あの時の感触はあまり思い出したくないものだけど……それであの子を守れるのなら練習してみる価値はあるかもしれない。
ただ本当に危なそうだから先生と要相談だな。
それで固有能力は雷霆か……。
(どんな能力かわかりますか?)
(ナスさんに触ってみてください)
シエル様の言う通りにナスの手に触れてみる。
(なるほど、どうやら雷の力をその身に宿す事ができるようですね)
(それって自由に雷を操れるって事ですか)
(正確には光と音と電気の力ですね。この三つがそろって雷の力と呼ばれます)
(光と音……ナスが使った所見た事ないですね)
(恐らくまだ自分の固有能力を使いこなせてないのでしょう)
(なるほど……じゃあ早速ナスに教えないと)
僕は固有能力の名前と能力について説明をした。ナスはよく分かっていないようで首をかしげるばかりだ。
だから僕は試しにサンダー・インパルスで集める力を光にしてみたらどうかと助言してみた。
ナスは僕の言う通り角に力を集めたが何度やっても雷になってしまう。
僕はライトを出して光はこういう物だと教えると五回目の挑戦で光を角先に集めることができた。
「すごいすごい。でもこれってライトとどう違うんだろ」
シエル様に聞いてみると変わらないとの回答が来た。
「うーん。後は音か。音ねぇ……」
自分の声を遠くに届けたりできるのだろうか。それができればナスに何かあった時僕に声を届かせるっていう事ができるかもしれないんだけど。
「ナス、次は音を集めてみようか」
「ぴ~?」
「あー、音っていうか自分の声。分かる?」
「ぴー!」
「あっ、あんまり強く魔力を込めちゃだめだよ。程々にね」
「ぴぴー」
どうやら集め終えたらしいけど角先には何もない。音だから目に見えないんだろうか?
ここはちょっと気合を入れてから……。
「ナス、僕に集めた声を当ててみて」
「ぴぃ」
「あ、危なくない程度に抑えれば大丈夫だよ」
「ぴぃー」
どうやらその程度が分からないようだ。仕方ないので最初は集める魔力を少なくし僕に当て、問題がなかったら少しずつ集める魔力の量を増やしてもらう事にした。
そして実験の結果、離れた相手にナスの声を届ける事は可能だった。込めた魔力の量によって届く距離が延び、音量もナスの自由に調整ができるようだ。ナスすごいよナス。
でもこれ一歩間違えたら音響兵器になりそうだ。攻撃に使わせるのは僕が冒険者になってからの方がいいだろう。
魔眼は魔力操作と魔力感知を極めた者だけが得る事ができる固有能力みたいだ。能力は他者の魔力を視覚で捉える事ができるようになるらしい。
つまりこの固有能力でナスは魔力を見る事が出来るんだ。
……気が付くと夜の帳が下りようとしていた。どうやら長居をしすぎていたみたいだ。
僕が帰ろうとしているのに気付いたのかナスは悲しそうに鳴いた。
これ以上遅れると夕飯の時間に遅れてしまう。僕は魔法鉄を返してもらいナスの夕飯のマナポーションを用意すると心を鬼にしてナスの頭を撫で身体をモフモフした後断腸の思いでその場を去った。
早く学校を卒業してナスと一緒に冒険に出たいな……。
2016/10/23
種族名の所の=を・に修正
ナスのMP消費を忘れていたので修正
2016/10/26
ナスのHPを157から97に変更
2018/03/08
ナスのMPを27650から2750に変更




