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胃が痛い

 神聖魔法の件、フェアチャイルドさんには心配ないとか言ったけれど、本当はすごく不味い。

 授かるはずの神聖魔法を飛ばして上位の神聖魔法を授かるというのは確かに記録されている。けど、それはほとんど奇跡みたいなもので残っている記録も偉人と呼ばれる人達の逸話として語られているだけだ。それぐらい在りえない事なんだ。

 では何故在りえないのかというと、それは神聖魔法を授かる時は普通段階を踏むからだ。

 第一階位であるヒールやキュア、これは神そのものの存在を信じなくても授かる事が出来る為簡単だ。けれど第二階位の魔法となると魔力マナの量、魔力操作マナコントロール、神様を信仰という回路の太さ、これらが一定の基準に達しないと授かる事が出来ない。シエル様によると最低基準に達しても普通はある程度余裕が出来るまでは授からないように設定されているらしい。

 そして、神聖魔法第五階位以上となるとそれら以外にももう一つ重要になる物がある。それが術者の想いだそうだ。どれだけ人を助けたいのか、そういう物が重要で、特殊神聖魔法は特にそれが重要らしい。僕はそれが足りなかったようだ。

 普通想いというのは信仰を深めていくのと同時に人を助けながら高めていく物らしい。いくら魔力(マナ)や技術を高めても授からなかったわけだ。なぜ今まで教えて貰わなかったのかというと、そういう物は教えてどうにかなるものではないかららしい。

 今回はもう本当にギリギリだったらから今後こんな事がないようにと教えてくれたみたいだ。


 少し話が逸れた。想い云々は今回の問題には大して重要ではない。問題なのは六歳だったアールスでさえ『豊穣の春ハーベスト・スプリング』を使えるのに、僕には使えないという事だ。

 これがルゥネイト様の高階位特殊神聖魔法だけが使えない、というのならまだ言い訳のしようがある。信仰やらなにやらが足りないけど神様が融通してくれましたーと言えるのだから。けど豊穣の春ハーベスト・スプリングは第二階位の魔法で、これを覚えていないとさすがに本当にルゥネイト様を信仰しているのかと疑われてしまう。それぐらい簡単に覚えられる魔法なんだ。

 しかし案ずる事はない。僕はこれの解決方法を思いついた。本当にルゥネイト様を僕が信仰してしまえばいいんだ! アールスからは耳にたこができるくらいルゥネイト様の話は聞いている。お祈りにだって付き合った事がある。これで問題解決だー……と思ったのだけど、そうはいかなかった。

 一つも特殊神聖魔法を覚える事が出来なかったんだ。信仰と言っても実際は相手の情報を知っていれば回路は開かれる。僕とシエル様とだって元々はシエル様の声を知っていたから回路が繋がったんだ。

 なのに授かる事が出来なかった。僕は早速シエル様に聞いてみる事にした。


(教えて! シエル先生!)

(浮気駄目、絶対)

(あっはい。よく分かりました)


 つまり回路を二つ持つ事は浮気みたいな物だからシエル様は許してくれないらしい。

 ……というのは冗談らしく、声が聞こえるほどの回路と繋がっていると新たに繋げた相手とも僕を通して繋がってしまい、下手をするとシエル様とルゥネイト様の意識が混じり合いお互いの自我が消滅してしまう危険がある、と後から付け足してきた。


(ピンチなんです。助けてください)

(つまり使えるはずの魔法が使えないと怪しまれると)

(はい)

(正直に話せばよろしいのでは?)

(シエル様の事を上手く話せる自信がありません。アールスやフェアチャイルドさんは信じてくれましたけど普通は狂人扱いされると思います)

(……まぁいいでしょう。幸い豊穣の春ハーベスト・スプリングは再現は可能です。新たに作って授けましょう)

(本当ですか? ありがとうございます!)

(いい暇……んんっ! 私と那岐さんの仲ではありませんか)


 今絶対暇つぶしって言いそうになったな。隠す事ないのに。むしろもっと僕はシエル様の暇をつぶしてあげないといけないのではないだろうか? 朝にもシエル様との対話の時間を作ろう。


(ですが注意してください。発動の瞬間を見た事も感じた事もない特殊神聖魔法はさすがに再現は出来ませんし、見ただけだと効果が微妙に変わってしまうかもしれません。豊穣の春ハーベスト・スプリングを再現できるのは見ただけではなく感じた事もあるからです)

(分かりました。新しい魔法が必要だと思った時はその僕に掛けて貰うか、最低でも見る必要があるんですね)

(その通りです)


 ルゥネイト様の特殊神聖魔法は一応知識として知っている。『豊穣の春ハーベスト・スプリング』の他に『開拓者への贈り物(ブリザベーション)』『実りの秋へ(ハーベスト・オータム)』、『勇敢なる者へ(キープウォーム)』の四つだ。

 豊穣の春ハーベスト・スプリング開拓者への贈り物(ブリザベーション)の説明は省いてもいいだろう。

 実りの秋の為に(ハーベスト・オータム)は大地に活力を与える魔法で、これさえあれば連作し放題になるという農業に必須レベルの魔法だ。

 勇敢なる者へ(キープウォーム)は対象者の周りの空気の温度を一定時間一定の温度に保つ魔法だ。

 ルゥネイト様の魔法は人が暮らしていくうえで便利な物ばかりだ。僕もいつかは全部を覚えてもいいかもしれない。


(出来ました。今送りますね)

(早いですね)

(意外と暇つぶしになりませんでした)


《神聖魔法『ハーベスト・スプリング』を習得しました》


(あれ? 何か違うような)


 頭の中に流れ込んできたハーベスト・スプリングだが、何か違和感を感じる。しかし、何が違うのかそれが分からない。


(私はツヴァイスさんの世界にはあまり干渉できないのですよ。恐らくその差ではないでしょうか?)

(そうなんですか? じゃあ僕の使えるヒールって人よりも効果が低かったりするんですか?)

(自分にかける分は変わりませんが、他人にかけるとなると恐らく魔力(マナ)効率が悪くなっていると思います)

(気づかなかった……)

(その程度の差で済んでいるという事でしょう)

(そうですね。何はともあれこれで安心です。ありがとうございます。早く開拓者への贈り物(ブリザベーション)も覚えたいです)

(頑張って使える人を見つけてください)

(村の神父様やシスターなら使えると思うんですよね。。ところでシエル様)

(何でしょうか?)

(いつもお世話になっているのでお返しをしたいんですけれど、どうしたらいいでしょうか? 僕から何か返せる物はあるでしょうか)

(……そういう事は。普通は自分で考える物では?)

(そうなんでしょうけど、シエル様とは会話しかできないので、それ以外に何か出来る事はないかって思ったんです)

(それでしたらいつも通り一言感謝の言葉だけで十分ですよ)

(いえ、それでは僕の気が収まりません)

(那岐さんは……自分よりも遙かに高次元の存在にもお返しをしたいと思うのですか?)

(当然です。僕が捧げられる物なんてシエル様には大した物ではないでしょうけれど、それでもシエル様に喜んで欲しいんです)

(……分かりました、暫くいい案を考えるので待っていてください)

(畏まりました)


 さて、神聖魔法の問題はこれで一先ずは時間が稼げるだろう。誤魔化している間に最低でも開拓者への贈り物(ブリザベーション)を使える人を見つけて直に見せて貰わないと。

 実りの秋の為に(ハーベスト・オータム)は多分家に帰れば見る機会もあるだろう。無くても村の神父様に頼めば見せてくれるかもしれない。

 ……それにしてもこんなに簡単に他神様の特殊神聖魔法を使えていいのだろうか? 使えないと困るんだけどさ。

 そもそもが僕が順調に神聖魔法を覚えられたのは異世界転生というチートがあったからこそだ。……なんだか途端に他の人達に申し訳なくなってきた。

 しかもだ、ピュアルミナやパーフェクトヒールは国から使う際は相応の報酬を受け取らないといけないと決められているらしく、僕はこの数日で一生遊んで暮らしていけるだけのお金を貰える事になっている。

 まだ貰っていないから吐き気で済んでいるけれど、棚から牡丹餅みたいな魔法でそんな多額のお金を貰う時の事を考えると卒倒しそうになる。

 もう、申し訳ないを通り越して周囲の人達に土下座したくなる。このお金があれば交易路を通る為のお金を出すのだって余裕だ。いや、あってもすぐには行かないけれど。護衛が付くのはいいけれどやはり自分の身を守れるくらいには強くなっておきたい。成人を過ぎた頃までには国を出れるといいけれど、どうなっている事やら。

 それで、何故報酬を貰わないといけないのかというと、便利すぎる魔法だからだ。ピュアルミナやパーフェクトヒールはこれさえあれば薬なんていらなくなる。そうなると当然ただでさえ進んでいない医学が消えてなくなる恐れがあるんだ。

 その事を憂いた初代イグニティ国王は当時のアーク国王と共に協議を重ねヒールなどの下級魔法を除き魔法による病気や怪我の治療には相応の報酬を与える事を法律で定め、後にできた軍事国家グライオンにも同じ法律が定められている。


 ただし、成人していない子供や疫病又は魔の平野からの魔物の侵攻があった際に怪我をした人については国からお金が出るようになっている。

 子供は国の理念から保護されている為、薬で対処できない病気が発見された場合学校から都市へ、都市から国へ、国から術者へと依頼が届くようになっている。僕の場合はまだ子供なのでグランエルとその周辺以外の村以外からの依頼は来ないだろうと説明された。基本的に学校に通っている子供は他の都市への移動は推奨されていないためだ。アールスはそれだけ特別って事なんだろう。

 そして疫病と魔物の侵攻の際の怪我、これは今回の疫病騒ぎと去年実際にお父さんが経験した事だ。疫病にかかった人と魔物から怪我を負った人には国から復興支援金の一部として術者が派遣される。多分これがなかったら開拓なんて今ほど進んでいないだろう。もしもまた大規模な魔物の侵攻があった場合、この場合は学生の僕でも支援要請が来ると聞いた。拒否権はあるそうだけど、拒否したら白い目で見られそうだ。

 まとめると、前者の子供の相手は国から規定通りの一人分の報酬を貰え、後者の疫病や魔物災害においては復興支援金の一部から出るので術者と被害者の人数によっては一人当たりの金額は低くなってしまう。メリットとしては一度に大金を貰える事だろうか。


 ……よくよく考えたらもう一人ピュアルミナを使える人がパナスミ村で治しているんだよね。報酬が減ったと言って僕を恨んだりしないだろうか?

 そうでなくても子供が大金を得ると反発を覚える人はいるだろうし、どうにかして僕からお金を奪いたい人だっているだろう。下手をするとそういう人達から殺されてしまうかもしれない。

 今の所僕の素顔は療養施設の職員と教会から協力者としてやってきている人達しか知らない。患者で術者がアリス=ナギだと知っているのは多分フェアチャイルドさんだけだ。

 僕は皆を治す時に感染を防ぐために覆面を被っている。多分疫病が収まるまでは寝る時以外は外す事はないだろう。今のうちに周りの人達に僕の正体を明かさないで欲しいと伝えておいた方がいいだろう。お金の件がなくても僕はピュアルミナ、病気を治せる魔法を使えるんだ。

 死の病に侵されて、しかもお金のない人が僕を脅してくる可能性だってあるんだ。例えばフェアチャイルドさんを人質に取られたら僕は従うしかない。フェアチャイルドさんには念の為帰ったら寮の外には出ないように言っておいた方がいいかな。ローランズさんもそうだ。

 やばい、本当に胃が痛くなってきた気がする。ああ、こんな分不相応な力を持って生きて行くのか僕は……。

 多分本編で説明する機会はないのでここで

 シエル様と他の神様の魔法の違いについてです。

 本来特殊神聖魔法という名前の魔法は無くどこかの世界で生きている知的生命が勝手につけた名前です。その事に目を付けた神々が自分の世界で他の神々から力を借り受ける時に効果が被っていない魔法に特殊神聖魔法と名付ける事が流行っています。自分の中の中二精神をフルに使い名付けたのが豊穣の春ハーベスト・スプリングなどのルビ付きの魔法です。完全に自己満足です。

 ちゃんとルビ以外の所も言葉で発していて詠唱の順番は豊穣の春→ハーベスト・スプリングとなります。今回ナギが覚えたハーベスト・スプリングは豊穣の春の部分はなくても発動させることができます。本来必要のない部分なので、シエル様もその事に気づいていません。

 シエル様の魔法にルビがつかないのはツヴァイス様の世界に力を貸しているわけではないのでわざわざつける理由がないからです。

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