都市ヴェレス
二時間ほどの道程を踏破しついに僕達は都市ヴェレスの入口へたどり着いた。
都市の入り口には兵士さんの他に六人の人間と二人の精霊がいた。
近くにいたアロエによるとどうやらレナスさんを出迎えに来たフェアチャイルド家とグレイス家の人達の様だ。
まだ遠いがアースがいい目印になったのだろう。まだ遠い所から僕達を見つけた一行は僕達の方へ向かって来た。
近づいて来てようやく風貌が分かる。年配の男性が二人、その妻と思われる寄り添う年配の女性が二人。さらに四人よりも若い、ミサさんに似た男女二人だ。
「左の四人はワタシの両親と妹と弟デス」
いつの間にか先頭に来ていたミサさんが教えてくれる。
「まだ遠めですけど普通の人ですね」
「どういう想像していたんですカ」
「僕のお父さんみたいにゴツイのかと」
「ただの果樹園農家ですからネ」
「右のお二人はフェアチャイルド家ですよね。動きが違いますね」
「ええ、腕のいい狩人なんですヨ」
最初に声を掛けてきたのはグレイス家の人達だった。
ミサさんがいて声がかけやすかったのだろう。
最初にミサさんに声を掛け、抱き合った後僕とレナスさんと向き合った。
ヴェレス人らしく全員背が高く、特に男性は目を合せようとすると顔を上に向けていたら首が痛くなりそうな位背が高い。
髪の色もレナスさんやミサさんと同じく薄く、肌の色も白い。
顔立ちも明らかに僕やアールス達とは人種が違う事が分かる。
詳しい話は後でという事で互いに軽く自己紹介してから都市の中へ入る事にした。
まず目指すのはミサさんの実家のある果樹園だが、果樹園へは街を突っ切って行った方が早いらしい。
都市の入り口は谷間にあり、石で造られた関所で遮られている。
関所で手続きを終え、谷間を通り抜けるとようやく都市ヴェレスの姿が見られた。
どうやら関所は高い所にあるようで今僕が立っている場所よりも低い位置に街並みがあった。
街までは緩い坂道になっていて距離がある。
しかし、その道に沿って家がちらほらと建てられている。
街並みから視線を上げて見渡してみれば山の斜面のあちこちに家がある事が分かる。きっとあのあたりも都市の内側なのだろう。
山の森の密度は薄く、一本の木に葉っぱが沢山ついているというのに遠くからでも山肌が見える程だ。
関所から街に辿り着くまで三十分かかった。
街の中は人の通りが多くいつも通り注目される。
しかし、人口密度が高いように感じるが、よくよく観察してみれば一人一人の身体が大きいからそう見えるだけで実際の人の数は特別多くない事に気づく。
ミサさんからヴェレスの料理は味が甘い物が多いと聞いているが、これだけ身体の大きい人ばかりならカロリーの高い料理が主流になるのは当然だろう。
街の中には人以外にも精霊をよく見かけた。他の街では見かけられないくらい多い。
ただ精霊達のマナが僕達に触ってきているので僕達が興味があって集まっているだけかもしれない。
しかし、ミサさんに精霊が多い事を聞いてみるとどうやら精霊達は普段から街中に沢山いるようだ。
街の空を精霊が自由に楽しそうに飛び回っている光景は他では見られないヴェレスならではの光景だろう。
三時間ほどで街を抜けるとフェアチャイルド家の人とは一旦分かれる事になった。長旅で疲れているだろうから家への訪問は後日にしてよいと言われた。
僕達の事を気遣ってくれているようだ。
そして、再び山道を登って行く。傾斜は緩くよく整備された道で車輪の跡が残っている事から恐らく果樹園で取れた収穫物を馬車などで運ぶ道なのだろう。
三十分ほどで目的の場所に着いた。
その場所は一軒家が複数件固まって建てられていて、どうやらそれぞれが果樹園で働いている親族用の家らしい。
その家は石造りで背は高くないが屋根がとても大きく、建物自体の坪面積がとても広く取られている作りになっている。
遠くからだと長屋かと思ったのだが玄関口が一つしかないので一軒家の様だ。
果樹園自体は山肌の斜面に生えている木が栽培している木の様だ。
近くで見てみると根っこが太く幹もかなり太い。植物の精霊の力で品種改良された木で、雪崩に耐えられるようにされているらしい。
取れる果物はとても甘く収穫量も多いと教えてくれた。
残念ながら収穫にはまだ時期が早いようなので僕達が取れたてを食べることは出来ない様だ。残念。
僕達は数件ある内の一番大きな家に案内された。
その際魔獣達は身体の大きなアースとヘレンを除いて全員ぜひ家の中へとお願いされた。
どうやら小さな子供達がエクレアから話を聞いていて魔獣に会いたがっているらしい。
ヒビキとゲイルは僕達が抱っこしたり頭の上に乗せて移動していたので汚れていないがナスは違う。家の中に上げるなら洗わなければならない。
まぁ家は土足のようなので本格的に洗う必要は無いだろう。
ナスに二本足立ちしてもらい汚れを確認してから手早く洗い家に上がらせてもらう。
玄関を通って分かった事だが家の外側の壁が分厚い。グライオンに住んでいた時に使っていた倉庫の壁よりも分厚いかもしれない。
この辺りではこれだけの分厚さ必要という事か。
案内されたのは十人くらいが入れる広間だった。
そこには男女の老人が四人椅子に座って待っていた。
ミサさんがこっそりと祖父母と曾祖父母だと教えてくれる。
四人共ミサさんの姿を確認すると嬉しそうな声で迎え、そしてレナスさんを確認すると驚きの声を上げた。
どうやらレナスさんは母親に似ているようで四人の内でも一番年下に見える老婦人は目に涙を浮かべている。
レナスさんを見て感慨深い表情をして動かない老人達を見かけたのか、ここまで案内してくれたミサさんのお父さんが促しようやく話が出来る雰囲気になった。
自己紹介を終えた後僕達は今日はこの家に泊まるようにと勧められた。
断る理由もないしむしろありがたい申し出なので素直に受ける事にした。
そして、堅苦しい話が終わると部屋の中に人がなだれ込んできた。
小さい子もいるが大体は僕と同じか年上であろう人達だ。
全員ミサさんが帰って来た事を喜び抱擁を求めた。
エクレアに何事かと聞くとどうやら全員ミサさんの兄弟姉妹と従兄弟らしい。
ミサさんは家族親類からどうやら慕われているようだ。
そんな騒がしい中小さな子が魔獣達に興味を示したので僕はそちらに注力する事に決めた。




