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醤油

 買ってしまった。醤油の入った樽を二つも買ってしまった。

 ただでさえ食料や道中で買ってきたお土産で馬車の中は余裕が無いというのに。


「それでどんな味がするんですか?」

「舐めてみてもいーい?」

「お、怒ってない? 勝手に樽二つも買っちゃって」

「怒っていませんよ。確かにちょっと狭くなりましたがそれよりも味の方が気になります」

「そうそう」

「とりあえず今晩の夕飯に使ってみるね」


 こっちの世界での使い方はありがたい事にお店の人に教えてもらった。

 上手に作れるかは自信はないが、十年近く料理してきたので味見をしながらなら調整できるだろう。


「美味しく出来なかったらごめんね」

「手伝う事はありますか?」

「味見だけお願いしたいかな。作る料理は食べた事無い料理だからどんな味になるか分からないんだ」

「私も味見するー」

「んふふ。じゃあアールスもよろしくね」

「それで醤油舐めてみてもいい?」

「しょっぱいからちょっとだけならね。あといい匂いだから匂いを嗅ぐのもおすすめかな」

「おー」


 樽からちょびっとの醤油を小皿に出す。

 アールスに渡す前に僕の香りを確かめてみる。

 お醤油のいい香りだ。


「はい。レナスさんもどう?」

「わ、私も欲しいです」


 レナスさんの分も用意し渡す。


「いい香りだね。味もたしかにしょっぱいけど塩水とは全然違うね」

「これは確かにいい香りですしおいしいです。ナギさんが求めたくなる理由がよく分かりますね」

「んふふ。舌に合うようでうれしいよ」

「でもこういう油が入ってない液体の調味料って珍しいよね」

「アーク王国じゃお酢ぐらいだからね。ああ、あと食用酒」


 一応ウスターソースのような物はあるがあくまでも仕上げにかけるたれとして使われており、料理の過程で作られる物であって保存して細かい調味の為に使うような物ではない。


「ナギは醤油の作り方知ってるの?」

「知らないよ」


 というか材料すら曖昧だ。大豆だったか? あれ? そもそも油ってつくから油入ってるのか?

 前世で髪の毛から作れるという話しを聞いてからそっちの方が印象に残りすぎている。

 さすがに一般で売られていた物は髪の毛から作られているとは思えないが、本当に髪の毛で出来るのか?


「じゃあ大切に使わないとね」

「んふふ。そうだね」


 今回の購入分を使い切ったらもう醤油と出会う事がないかもしれない。

 作り方だって秘密だって教えてくれなかったし。

 アーク王国で貿易商に醤油を頼んだらはたしていくらになる事やら。

 飛行船でアーク王国とメランゾの国交が開かれたら醤油が手に入りやすくなるだろうか?




 夜になりいよいよ醤油を使った料理を作る。作るのは野菜だけを使った煮物だ。

 メランゾ煮と呼ばれていてメランゾでは一般的な料理なようだ。

 具材の種類は場所によって違うらしいが多くても三種類だけらしい。

 醤油も一般的に使われているわけではないらしく、普通は塩とお酒、それとその土地にある香草が入れられている様だ。

 ぶっちゃけ醤油が入っていなければ作り方はどこにでもありそうな普通の野菜の煮物だ。

 お肉が無いとアイネがむくれるのでそっちの料理は同じ当番のカナデさんに任せておく。

 野菜を切って油を敷いた鍋に入れて炒める。

 野菜に油が馴染むまで炒めたら水と調味料を入れて混ぜ、煮立ったら蓋をして待つ。

 五分くらい待った後醤油を加えて混ぜてもう一度蓋をする。

 そして、三分たったら一度蓋を取って野菜を一かけら取って味見をしてみる。

 まだちょっと固いし味が薄いのでもう一度醤油を加えて蓋をして待つ。

 いい感じに待ったらもう一度蓋を取って味見をしてみる。今度はちょうどいい塩梅だ。


「なんかいー匂い」


 匂いにつられてアイネがやって来た。


「アイネもちょっと味見してみる?」

「する!」


 味見用に野菜の小さい欠片と汁をレナスさん、アールス、アイネ用に小皿に分け三人に渡す。


「どうかな?」

「美味しいですね。塩や香草だけを使った煮物よりさらに味に深みが出来ているように感じます」

「香りもいいよね。野菜はちっちゃいから味が分かりにくいけど汁の味が浸み込んでるのかな」

「あたしこの味好きかも」

「好評みたいでよかった。お肉を使った料理も教えてもらったから明日作るよ」

「わーい!」

「じゃあミサさんをご飯が出来たって呼んでくれるかな」

 

 横目で確認すればお肉を担当していたカナデさんもすでに料理を終えている。

 魔獣達と戯れて貰っているミサさんを呼べば晩御飯が食べられる。


「あたしが呼んで来るー」


 アイネが呼びに行ってくれたので今の内に煮物を全員分の器に移しておこう。

 全員が揃い配膳を終えてるとさっそくメランゾ煮から食べてみる。

 初めて作ったにしては中々上手に出来たのではないだろうか。

 

「これが醤油の力……今までにない味だけどおいしいね」


 アールスが本当においしそうな顔をして食べている。


「メランゾの料理は食べた事ありませんガ、いけますネ」

「ん~、お野菜も柔らかくなって味が良くしみ込んでいますね~」

「そーいやさ、しょーゆってどーゆーりょーりに使うの?」

「塩と同じく色々だよ。今回みたいに煮込み料理に使ったり鍋にも使うね。

 直接かけて食べるなら焼き魚にかけるのもおいしいね。あとご飯。

 炊いたご飯に醤油をかけるだけでもいいし、一緒に炒めて焼き飯にしてもいいし、握って形を整えたご飯に醤油を塗って焼いても美味しいよ。

 後酢飯に魚の刺身を乗せて醤油をつけるっていう食べた方も……」

「なんかご飯多くない?」

「ご飯は本当になんにでも合うから……」

「魚以外のお肉にしょーゆはかけないの?」

「直にかけるっていうのは知らないな」


 焼き肉のたれは別に醤油ではなかったはず。……多分。


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>「魚以外のお肉にしょーゆはかけないの?」 >「直にかけるっていうのは知らないな」  鶏肉でしょうゆ焼きとか、牛ステーキでバター醤油とか、無くはないかな。  まあ肉に醤油を使うなら、醤油と酒と砂糖さ…
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