表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
519/530

エウネイラ その3

「海見たい!」

「海見たい!」


 アースとヘレンを預けた後、宿へ向かう途中で近くに海があると知ってアールスとアイネが騒ぎだした。


「アースも見たいって言ってたから明日皆で見に行こうね」

「わーい!」

「ところで海とみずーみってどー違うの?」

「大きさと水質かな?」

「水が違うの?」

「アイネも知ってるでしょ? 海の水から塩を取るって。海の水には塩が一杯含まれてるんだよ」

「へー。じゃーしょっぱいの?」

「しょっぱいと思うよ。こっちの海の水は実際に飲んだ事は無いけど」

「前のとこだと海行った事あるの?」

「あるよー。魔物や魔魚なんていないから沖に出なければ安全でね。夏になると海で泳いだりするんだよ」

「およいだり?」


 泳ぐという意味を知らなかったようでアイネが首をかしげる。思えば泳ぐという単語はアーク語だと滅多に使わないからアイネが知らなくても仕方がない。

 アールスは昔寮のお風呂で泳いで怒られた事があるので知っていてもおかしくはないが。


「泳ぐ以外の言葉で説明するのは難しいな……手足を使って水中を進む事だよ。もっともこっちじゃさすがに泳ぐのは危ないと思うけど」

「魔魚とかいるかもしれないからねー」

「んでも海の魚を獲ってるんだよね? だったら安全なんじゃない?」

「たしかにそうだね? 値段が高いとはいえお店に出せる位には獲れてるってことは安定して獲る手段があるって事だよね」

「付け加えるなら魚が取れ続けてるって事は獲ってる魚は子孫を残せない魔魚じゃないって事。海の環境考えたら割と奇跡じゃない?」

「そうだね。海は魔素が濃いから赤く染まっているって言われてるけど……意外とそんな事は無いのかもね。

 海の魔獣や魔魚が魔素を取り込んでいるから伝え聞くほど魔素が濃い訳じゃないのかも」

「そもそも実際に遠くの海を見た人なんていないんでしょ? だったらどーなってるかなんてわかんないじゃん」

「んふふ。そうだね。意外と平和なのかもしれないね」


 そんな風に海に関するあれこれを考察しているとレナスさん達が取ってくれた宿に辿り着いた。

 受付前でレナスさん達と合流しお店の人達に顔見せをし、さらにナスとヒビキを見てもらい改めて宿泊許可を貰い手続きを終了させる事が出来た。

 そして、戦いが始まる。

 取った部屋は三人部屋を二つ。ナス、ヒビキ、ゲイルの三匹をどう割り振るか。


「とりあえずぅ、ナスさんは大きいのでヒビキとゲイルは一緒にしてナスさんとは分けて面倒を見るべきだと思います~」


 という意見がカナデさんから出た。

 これならどっちの部屋にも魔獣がいないという事は無くなる。

 魔獣達を独占する……一瞬そんな考えもよぎったがここはカナデさんに乗っておくべきだろう。


「そうですね。部屋の大きさは分かりませんが、三匹と一緒となるとさすがに手狭になるかもしれません。それでいいと思いますよ」

「それじゃあ部屋割りはどうする?」

「あっ、すみません。すでに私とカナデさん、ミサさんで部屋に荷物置いているので……」

「そうなんだ。じゃあ僕とアールスとアイネでいいか」

「だね」


 しかし、レナスさんとミサさんはきちんとお世話はしてくれるが魔獣に対してカナデさんほどの情熱は持っていない。そうなると必然とカナデさんは一緒になった仔と触れ合う時間が増える。一緒に寝る事だって喧嘩をせずに望む事が出来るだろう。

 それに対して残った僕達は違う。僕もアールスもアイネも皆魔獣達の事が大好きだ。少しでも長く触れ合いたいし一緒に寝たいと願うだろう。

 ……もしやカナデさんの提案はそれを分かっていて?

 カナデさんの提案は競争相手カナデさんが一番得する提案だったのではないだろうか?

 ほわわんとした顔で中々考えるじゃないか。

 たしかに何も言わなかったら魔獣達は全員僕の部屋に来ていた可能性はあった。

 もっともその場合でもゲイルは通訳として僕がいない部屋に泊まってもらうつもりだったが。

 しかしナスとゲイルで分けるなら通訳で分ける必要は無いだろう。


「ナス達はどっちの部屋に行きたい?」

「ぴぃー……」


 ナスが困ったように鳴く。きっと決められないんだろう。愛い奴め。


「ききっ、おいらはレナス達と一緒がいいと思うぜ。おいらとヒビキは一緒にいやすいからな」


 たしかに身体の小さなゲイルの方が小回りが利くだろう。ナスは大きい上に角があるから人の多い所にはあまり行かせられない。

 それに何かある度にわざわざ僕達の部屋に酔ってゲイルを連れて行くというのも面倒だろう。

 さらにレナスさん達が分かれて行動したい時ゲイルとヒビキに分けられるのも都合がいいか。


「ふむ。じゃあゲイル達はレナスさん達に任せるか。皆それでいい?」

「いいよー」

「うふふ~。よろしくお願いしますね~」


 部屋割りも決まった所で荷物を置きに部屋に行き、そしてその後夕飯をどうするかの相談が始まった。

 この宿には食堂が無いので外で食べる事になる。残念ながらナス達はお留守番だ。

 食べたい物が決まると宿の店員さんに食べたい料理のおすすめのお店を教えてもらう。

 そして、その教えてもらったお店へ向かう途中で海の事をレナスさん達にも伝えた。

 すると三人も海に興味があるらしく見に行きたいと言い出した。

 なので明日国冒連で案内人を紹介してもらった後魔獣達と一緒に海に行く事を決めたのだった。


 宿の人に教えてもらったお店は宿から近い場所にあった。

 教えてもらったお店はパスタの専門店。アイネがパスタを食べたいといの一番に言い出したので夕食はパスタになったのだ。

 お店の中に入ってみると夕飯にはまだ少し早い時間という事もあってかお店の中は空いていた。

 お店の中に入って席を探す時少し緊張する。

 それと言うのもエウネイラでのヴェレス人の評判は良くなく、レナスさんやミサさんが店から追い出される事が二回あったからだ。

 宿探しをレナスさん達に任せたのもそこら辺の事情を汲んでいるというのもあった。

 後からレナスさん達と合流してからヴェレス人はお断りだと言われるよりは、最初から宿を取る時にレナスさん達の事を認識してもらった方が手間がかからない。

 幸いこのお店はヴェレス人だからといって追い出すような事はしてこなかった。宿の人もそこら辺を考慮してお店を教えてくれたのかもしれない。


 席に座り品書きを見てみる。

 僕はエウネイラ文字はあまり読めないが、見覚えのある文字が多いので何となくどんな料理なのか分かった。

 だが分からない料理もある。しかもその料理はどれも他の料理よりも値段が高い。


「この高い料理は何だろう?」

「……カナデさん読めますか?」

「それはですね~、全部お魚とその調理法の名前ですねぇ。焼いたお魚のお肉を解してパスタに混ぜた料理だったり~、生のまま切ったお肉をたれに浸してパスタと混ぜたお料理だったりですねぇ」

「……そのたれってもしかしてシッケイラっていいます?」

「そうですそうです~。知っているんですねぇ」

「預かり施設の人に教えて貰ったんですよ。おすすめだって」

「生のままとは、大丈夫なんですか?」

「こっちでは高級料理みたいですよぉ? 大丈夫なんじゃないですかねぇ」

「調理方法まで分かるなんてカナデさんは本当に詳しいですネ」

「うふふ~。こっちに来る時の為に食べ物も調べましたから~」

「エウネイラの文献は多くないのに本当にすごいですよね。前から疑問に思っていたのですが、エウネイラの書物となるとお高いでしょう。どうやって手に入れた物なんですか?」

「大半は図書館にあった本で得た知識ですよぉ。分からない文字はお父さんに教えてもらっていたんですぅ。

 それでぇ、旅の途中でもエウネイラ文字を忘れないようにって辞書を学校を卒業する前にお父さんと一緒に作ったんですよ~」

「すごい熱量ですね……」

「カナデさんのお父様はエウネイラ文字読めたんですね?」

「昔からあちこちの外国の本を読んでいたらしいですよぅ。アーク王国に来たのも本を読んだからだそうですしぃ」

「意外とうちらって国際色豊かだよね。ナギねーちゃんもふそーの血流れてるし」

「そうだね」


 純血のアーク王国人は二人、純血のヴェレス人も二人、さらに混血も二人とバランスのいい別れ方だ。


「ところで注文は決まりましたか? 私はもう決まったのですが」


 レナスさんがそう促してきたので慌てて品書きを見てみる。

 ちょっと高いがこの機会を逃したら一生食べられないかもしれない。


「うん。僕は決まったよ」


 やはり生魚は気になるよね。

 注文をしてお喋りをして待つ。

 そして、やって来たのは事前情報通りパスタに短冊切りされた魚の赤い生肉と緑の葉っぱらしき物が盛られた料理だ。

 さらに料理全体はたれで艶やかに光を反射している。

 赤いお肉はマグロっぽく見えるが前世でもマグロによく似たお肉はあったのでマグロと同じ味かどうかは見た目では分からない。

 もっとも同じだろうが違う味だろうが区別がつくと思えるほど自分の記憶と舌に自信なんてないが。

 とりあえず最初に魚肉を食べてみる。

 

「……このたれ油か」


 醤油ではなかった。しかし、恐らくは色んな調味料を混ぜ込んで出来ているであろう油はねっとりとしていて魚肉によく絡んでいる。

 その魚肉も新鮮で歯ごたえがありしょっぱいたれも相まってかなり美味しい。

 苦みのある緑の葉はどうやら乾燥されているようで魚肉にサクッとした食感を与えている。

 続いてパスタを食べてみるとこちらもまたたれが良く絡まって大変美味しい。

 さらにパスタと一緒に魚肉も食べてみる。

 たれが油な所為か口に運ぶ途中で魚肉が滑り落ちてしまい食べにくかったが、一緒に食べてもやはりおいしかった。

 最初はパスタと生の魚肉が合うのかと心配だったのだが、たれと葉っぱが二つを上手くつなぎ合わせて調和させているように感じた。

 特に重要なのは葉っぱの方だ。これがないとパスタと魚肉は同じお皿の上にただ一緒に盛られているだけの料理になってしまう。

 たれはパスタと魚肉どっちにも合っているのだが、どっちか片方だけでも一つの料理として通用してしまうだろう。

 しかし、二つの食材を一つの料理として纏めるには物足りなさを感じる。

 でも……。


「ご飯で食べたい……」


 多分たれはご飯に合わないが魚肉は醤油みたいな物があればご飯に合うと思うのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>醤油ではなかった。しかし、恐らくは色んな調味料を混ぜ込んで出来ているであろう油はねっとりとしていて魚肉によく絡んでいる。  うーむ、残念。  でも魚肉専用のタレなんてリアルでも、魚肉専用タレで少し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ