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その手はきっと

 結局僕達が狩れたのは三匹だけだった。

 内訳はフェアチャイルドさん、ベルナデットさん、ローランズさんの三人に一匹ずつだ。

 最初のナビィが僕の手柄にならなかったのは、致命傷を与えたのはフェアチャイルドさんだと主張したからだ。

 フェアチャイルドさんは止めを刺したのは僕だと言って辞退しようとしたけれど、ベルナデットさんは僕の意見に同意してくれた。ローランズさんは悩みながらもベルナデットさんに追従する形になったため、結局フェアチャイルドさんの手柄となった。

 何故最後の一匹を狩らなかったかというと、僕が殺すのを躊躇ったから、というのは主な理由ではない。

 消極的になったのは確かだけど、一番の理由はナビィが持ち運びしにくいからだ。

 さすがに中型犬ほどの大きさで、犬よりも丸々と太っているナビィを持つのはベルナデットさんや僕ではもう一匹が限界だった。

 ナビィは体長が僕らの胸元にまで届きそうなくらいあるくせに横幅が犬の一.五倍近くあり、ナビィを入れた袋を背負ったらそれで持つ場所がなくなってしまう。


 ならナビィよりも大きなナスはどうかというとナスも意外と力がなく、二匹背負うとバランスが悪くなるということで一匹が限界だ。

 フェアチャイルドさんとローランズさんはそもそも持つ事すら無理だ。なので二人には僕らの荷物を代わりに持ってもらっている。

 では狩ったナビィを先生達に渡しもう一度狩りに行けばいいじゃないかと言われるだろうけど、もう一度狩りに行く気力は誰にも残っていなかった。

 肉体的な疲労の所為じゃない。生きた物を殺すという精神的疲労が皆にも溜まっていたんだ。

 子供に動物を狩らせるっていうのは将来の事を考えると必要な事なんだろう。けど、必要な事だからと言って生き物を殺す事が平気だなんてことはない。特にナスっていう仲のいいナビィがいるのだからなおさらだ。

 この世界の子供達は強いと思う。皆難しい顔をしていたけど、誰も狩る事に戸惑いは持っていなかった。……むしろ子供だからなのか?

 それに比べて僕は中身大人だというのに駄目だなぁ。


 夜、昨日と同じ場所で野営している。

 僕は疲れた心を癒すためにお昼からずっとナスの身体に自分の身体を預けていた。

 ちょっと獣臭いけどモフモフは心の清涼剤だ。

 食事を食べた後だけれど、皆寝るにはまだ少し早い時間なので各々自分のチームの焚火の面倒を見ながら自由な時間を過ごしている。

 夜になるまでにシエル様とはもう話をしていて会話の種が尽きてしまった。

 なので今はナスのモフモフを堪能しつつ魔力(マナ)で暇つぶしをしている。


「あの……」


 焚火の光で出来た影が僕を覆った。

 顔を上げてみるとそこにはフェアチャイルドさんが僕を見下ろしていた。陰で表情はよく見えない。

 僕は姿勢を正し問いかけた。


「どうかした?」

「少し、お話いいですか?」

「いいけど、場所移そうか?」

「……はい」

「ちょっと行ってくるね、ナス」

「ぴぃー」


 立ち上がりどこがいいかと聞くと、人のいない所がいいと返ってきた。

 あまり遠くへは行くのは不味いけど、それでもフェアチャイルドさんは星を見たいと言って焚火の光が届かない場所を選び僕達はその場所で腰を下ろした。

 今日は月が出ていない為すぐ隣にいても姿がほとんど見えない。辛うじて星明りでフェアチャイルドさんの薄水色の髪と白い肌が見えるだけだ。フェアチャイルドさんからしたら髪の黒い僕は見難いんじゃないだろうか。

 そんな暗さだ。最低限の明かりは欲しいと思いなるべく星明りが無駄にならない程度の光量を抑えたライトを出して少し離れた所に置いた。


「話って?」

「あ……えと、もう大丈夫ですか?」

「……大丈夫だよ」


 むしろ気恥ずかしさの方が強いかもしれない。あんな醜態を見せてしまって、フェアチャイルドさん失望しただろうな。


「……僕の暮らしていた国じゃさ、子供が食べる為に動物殺すなんて事しなかったんだ。ちゃんと仕事でやる人がいてね、僕は動物を殺した事なんてなかった」

「大人になっても、ですか?」

「むしろ大人になると殺せなくなるんだよ。倫理観とか道徳とか法律とか……いろいろあってさ。今日は僕は前世の世界のままなんだなぁって実感したよ。

 止めを刺すだけでもすごく怖かったんだ。今まで動いていた生き物が血を流して動かなくなって……普段男男言ってる僕がこんななんて情けないよね」

「ナギさんは……それでいいと思います」


 フェアチャイルドさんが唐突に目の前に移動し僕の手を取った。立っていたのと座っているという違いはあれど、昼間の僕達を逆にした形だ。


「私は、ナギさんにいっぱい助けられました。ナギさんの手はきっと助けたり、救ったりするための物です。傷つけるなんて、そっちの方がナギさんらしくありません。だから、落ち込まないでください。私はいつも優しくて、温かくて……そんなナギさんが好きなんです」


 好きと言われて僕の心臓がドクンと高鳴った。

 こんな風に面と向かって言ってきた女の子は前世を含めてもアールス以外いない。アールスの場合はむしろ好きとか誰にでも平気で言うからあんまりありがたみはないんだけど。

 フェアチャイルドさんは普段の物静かな印象からだから結構破壊力がある。かわいいし。


「あはは、嬉しいな。フェアチャイルドさんにそう言って貰えると」

「本当ですから」

「ふふ、疑ってないから。……うん。僕もフェアチャイルドさんの事好きだよ」

「本当、ですか?」

「うん。本当だよ……ありがとう」


 すると、フェアチャイルドさんは僕から手を離し、自分の両手を両頬に添えた。


「私、嬉しいです」


 光量が足りなくて微妙に表情がよく見えないけれど、今にも踊りだしそうな程嬉しそうな声でそう言った。


「ナギさん。私頑張りますね。一緒に旅に出る事が出来るように」

「うん。一緒にフソウに行こう」

「雪も見に、ですよね」

「うん」

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