フソウ その5
結局宿場町ではもう一日宿を取る事になった。
国冒連で冒険者の登録をし、その後買い物をしつつ情報収集をした。
その結果分かったのだけれど、次の町まで朝から出れば大丈夫だが昼から出たらその日の内にはたどり着けないという事だった。
だから一日留まる事になったのだ。
泊まった宿はちょっと奮発して良い所に泊まる事になっった。その宿では大部屋があり皆一緒の部屋で泊まる事が出来た。
部屋は座敷ではなく、内装はフソウ風らしさも混じっていたが落ち着いたアーク王国風の内装となっていてアーク王国の人間でも過ごしやすい部屋になっていた。
食事は食堂があるが出される物は決まっていて客が注文する事は出来なかった。ただ量の指定とお酒の注文は別に出来る様だった。
出された料理はフソウ料理で牛肉の入った回鍋肉っぽい野菜炒めが主菜として出された。
ご飯も出てきてこちらは前日の夕食は朝食昼食にご飯よりも色が白い白米として出てきた。
副菜は野菜が入った肉団子だった。試しに一個食べてみると油で揚げられていない鳥肉だという事が分かった。さらに鶏肉とは別にエビのようなぷりぷりとした食感の肉が入っている。フソウは内陸国だ。エビなんて取れるはずもないので多分虫の肉だろう。
その肉団子はどうやら一緒に出てきた琥珀色の汁に玉ねぎのような白く細く斬られた野菜が入った汁物に入れて食べる様だ。
汁物に肉団子を入れる前に匙で汁を掬うととろみがある事に驚いた。てっきりさらさらした汁だと思っていたが違う様だ。
飲んでみる。琥珀色の見た目に違わず味が濃い。野菜の味はするがそれよりも辛みと岩塩のしょっぱさが目立つ味だ。淡白な味の肉団子と良く合う事だろう。
肉団子を投入してみる。少しかき混ぜてみてから肉団子を匙に乗せて出してみるととろりとした汁が肉団子に絡みつき怪しく光を反射させている。見た目だけならミートボールだなこれ。
汁にまみれた肉団子を口の中に入れる。そして入れた瞬間に悟った。ご飯が足りなくなる。
回鍋肉のような肉入り野菜炒めがあるというのにご飯と一緒に食べたくなるものを一緒に出すとは。
もしやこっちが主菜で野菜炒めの方が副菜なのか? いやそもそもどっちにも肉が使われているから主菜副菜の区別なんかないのか?
こんな主役級の食べ物を二つも用意したら覇権争いが起こってしまうのではないか?
……意外と野菜炒めの方は抑えめなのかもしれない。回鍋肉っぽいから僕が勘違いしていただけかもしれない。
確かめる為に僕は野菜炒めのお皿に手を伸ばした。
野菜炒めのお皿を近くに移動させて気が付いた。ヤバい匂いがする。匂いというよりは刺激臭だ。
湯気が鼻に当たり刺激を感じる。
他の皆が野菜炒めを食べてないか確認してみるとミサさんがすでに手を付けていた。
僕の視線に気づいたミサさんが僕の方を見て不敵に笑う。覚悟して行けとミサさんが目で伝えてきた気がした。
箸を持つ手が震える。けど疑惑を確信に変える為に僕は野菜を箸で掴み口に運んだ。
「……」
わさびだこれ!
いや、味自体はわさびの味はしない。恐らくは味の濃いたれに混じって分かりにくくなっているのだろう。甘辛いたれは肉と野菜に良く合っていてわさびとは思えない不思議なで美味しい味をしている。
しかし鼻を突き抜けるような刺激はまさしくわさびの辛さだ。しかもかなり辛い!
本来ならこの辛さを味わいたいがこのままでは話せないので無粋と思いつつもヒールを使い刺激を和らげる。
「ど、どうかしましたか?」
レナスさんが心配そうに声を掛けてきてくれる。
「……この野菜炒めは覚悟して口にした方が良い」
正直匂いを嗅いだ時から覚悟していたから我慢出来ているが、もしも気づかずに口に入れていたら悶えていたに違いない。
「そ、そんなに辛いの?」
アールスも心配げな口調で聞いてくるが視線は野菜炒めに向いている。
「フソウ料理が牙を剥いてきたなって感じ。ただ注意して欲しいのは多分皆の知ってる種類の刺激じゃない。その上ですごく辛い。っていうかミサさんこれ平気なんですか?」
「割と好きですよコレ」
「はぁ……肉団子で油断してたらこれだよ」
これは肉団子でご飯を消費するわけにはいかない。まさしくこの野菜炒めが主役だ。
むしろ口直しに肉団子を食べるべきだろう。
「美味しくないですか?」
レナスさんの質問に少し考える。
「う~ん……」
多分わさびの事を全く知らなければ癖はあるけど美味しいと答えていただろう。けれどわさびといえばお寿司や刺身を食べる時に使う物という先入観がある為か甘辛いたれにわさびというのは違和感が先に来る。
「味は美味しいと思うよ。ただこの刺激は大分人を選ぶと思う」
「ふーん。どんなもんだろ」
アイネが野菜炒めのお肉をひょいと自分の口の中に入れる。
少し様子を見てみるとアイネの表情が徐々に変わり両手で自分の口と鼻を抑えてしまった。
「んふー!!」
「あっははは! アイネちゃん変な顔デース!」
「うわぁ、すごそう。私も食べて見よ」
アイネの姿を見てアールスも野菜炒めの野菜を口の中に入れすぐにアイネと同じように悶える事になった。
「つらかったらヒール使いな」
「ゆーの遅い!」
「いっきに口に入れるからよりつらくなるんですよ」
そう言ってレナスさんは串で小さな野菜を取り口に入れる。
レナスさんは悶える事はなかったがすぐに口に手を当てた。
「ん……これはたしかにすごいですね」
「だ、大丈夫ですかぁ?」
「ちょっとずつ食べればカナデさんも食べられると思いますよ」
「後ご飯と一緒に食べるのがおすすめかな。口直しに肉団子を食べるとかありますし……あっ、カナデさんお酒頼みます?」
「いいんですかぁ?」
「もちろんですよ。僕には合うかどうかは分からないけど」
「大丈夫だと思いますヨ。昔一緒に働いた人がお酒に良く合うって言っていましタ」
「そ、それなら頼んでみましょうかぁ。でもちょっとその前に味見を……」
カナデさんも小さな野菜の欠片を取り口に入れるとすぐにつらそうな顔をした。
「駄目そうですか?」
「つ、つらいですけどぉ……私これ好きかもです~」
そう言って次は肉片を食べるて悶えるが顔は確かにおいしそうにしている。
こういうのは駄目そうだと思っていたから意外だ。
「ほほ~……こ、これは頭がすっきりする感じがしますね~。なんだか視界が開けていくような感じがします~」
「ミサさんこれ本当に食べて大丈夫なやつなんですか?」
「そ、そのはずデース」
「私達は大丈夫なのでカナデさんだけに起こっている事でしょう」
「う~ん……」
「お酒たのみますね~」
まぁいいか。多分刺激で脳が活性化してるだけだろう。
でも念の為に後でこっそりとピュアルミナ使っておいた方が良いかな?




