フソウ その4
夕食を食べ終わった後僕達は時間も遅いのでまっすぐ宿へ戻った。
レナスさんと一緒に部屋に戻ると一息つくために椅子に座った。
「はぁ……僕はもう満足だよ」
「ふふっ、ご飯がナギさんが知っている物と同じでよかったですね」
「うん」
「でも、ご飯が恋しくなってフソウに居続けたくなりませんか?」
「そうなっちゃったらどうしようか」
「寂しいので私も残っちゃいましょうか」
「あははっ、いくら何でも付き合いが良すぎるよ。でも家族がアーク王国にいるからフソウに骨を埋めるって事は無いかな」
「やはり家族が大切なんですね」
「うん。さすがに国を変えるのはね……」
「さすがにですか」
「レナスさんは今日の夕飯どうだった?」
「美味しかったですよ。ただご飯は味がよく分からなかったですね」
「ご飯はね、単体だとよく噛めば甘くなるんだよ。後は味の濃い物と一緒に食べるのもおすすめかな。濃い味が丁度良く緩和されるんだ」
「なるほど。次はそれを試してみますね」
「うん。でも意外と味濃くなかったね。グライオンで食べた時の方が濃かった気がする」
「そうですね。私もそこはちょっと意外に思いました。濃いは濃いですがグライオンで食べた物ほどではなかったですね。ミサさんはその事に関して何か言っていましたか?」
「特に何も。食べる事に夢中になってたよ。もしかしたらアーク王国人用に調整されてるのかもね」
「ありえますね。この町はフソウの玄関口ですからね」
「次の村か町では味が濃くなっているかもね」
「そうかもしれませんね。しかし、村だった場合食事処があるかどうか怪しいとミサさんから聞いていますよ」
「ああ、そうか。フソウだと村規模だと宿がある方が珍しいんだっけ」
三ヶ国同盟では子供達が学校の授業で都市周辺の村へ旅に出すという事もあって宿は当たり前のように存在している。無くても村長さんの家や村の集会所で泊まる事が出来る。
フソウではそんな習慣ないだろうし村に宿や泊まれる場所が無くても不思議じゃない。
「首都まで道なりに行くつもりだけどその場合次は村と町どっちだっけ?」
「首都へ行く道ですとミサさんの情報だと町だったと思います。恐らく交易のおかげでそれなりに発達しているのでしょう」
「そっか、交易で大きくなってるなら魔獣達を預けられる場所もあるかもしれないな」
「そう考えると交易路を進んだ方が良いかもしれませんね。人が多ければそれだけ盗賊も出ないでしょうし」
「そうだね。ただその場合他の商人が荷物運びの為に使役してる動物とすれ違うだろうから気を付けないとね」
「お香の準備はたっぷりしてあるのであと出来る事はアースさんとヘレンさんがマナを抑える事だけです」
「うん。身体が大きいのはどうしようもないからね」
「明日出発する前に地図を手に入れておきたいですね」
「地図だけじゃなく情報も集めておきたいな。買い物のついでにお店の人から道の情報聞きたいね」
「そうですね。売られている地図はどうやら正確性に欠ける物ばかりらしいですからね。せめて次の町までどれくらいかかるか把握しておきたいです」
「そういえばレナスさんは国冒連の建物見つけられた?」
「いえ、まだ見つけていません」
ミサさんも前来た時はこの町では国冒連の建物には寄っていないようなので場所を知らないそうだった。
「国冒連にも寄らないといけないからな。明日は結構時間使っちゃうかもね。次の町までの距離によっては明日はまたこの町で一泊する事になるな」
「時間はたっぷりあるんです。焦らなくても大丈夫ですよ」
「そうだね。色々な物が集まってるみたいだし見て回ってもいいかもしれないし……実際にそうするかどうかはともかく僕達だけは明日はもう一泊するつもりでいようか」
「今日見て回れなかった皆さんも楽しみたいかもしれませんからね」
「その場合宿はどうするかな。ここでいいのか奮発しちゃうか」
「それも明日皆さんの意見を聞いて決めましょう」
「うん。そうしようか」
レナスさんとの今後についての話は遅くまで続いた。ようやくフソウに来た事で僕は少々浮かれてしまって長引いてしまったんだ。
窓の外を見て月と星の位置を確認してみるとおそらくはもう十一時を過ぎているだろう時間になっていた。
寝る準備をする為にナスの雷霆の力を使いレナスさんとの間に光を操って暗闇の空間を作り、さらに音も聞こえないように遮断する。
そうしてから着替え、着替えが終わるとベッドに入りレナスさんに同意を貰ってから魔法の光を消した。
完全に眠りに入る前にシエル様と今日の出来事をお話しする。
さらに話している間にマナを消費して寝る頃にマナがゼロになるように調整してく。
そしてさぁ寝るぞという段階になった時隣のベッドからレナスさんの呼び声が聞こえて来た。
「ナギさん」
「うん? どうしたの?」
「眠れないのでそちらに移ってもいいですか?」
「眠れない?」
「どうやら私はフソウに来て興奮してしまっているようです」
「んふふ。そういう事ならいいよ。久しぶりに一緒に寝ようか」
レナスさんの方から衣擦れの音と物が動く音がしてくる。
床においてある靴に足を付ける音に続いて靴を引きずる音がしてすぐにやむ。
僕も横に動いてレナスさんが入れるようにしておく。もっとも一人用のベッドだからそんなに余裕はないが。
「お邪魔します」
レナスさんが布団の中に入って来る。
「でも僕がまだ起きてるってよく分かったね」
「マナが無くなるのを待っていました」
「そっか。興奮して眠れないって大丈夫?」
「分かりません。ようやく私の両親の故郷へ行けるんだと思うと色々考えてしまうんです」
「色々か。どうせ眠れないなら何を考えちゃうか話してみてよ。話している内に落ち着いて眠たくなるかもよ」
「そうかもしれませんねでも退屈でナギさんの方が先に眠ってしまいますよ」
「でも話を聞くのは僕だけじゃないでしょ?」
「……それもそうですね」
そして、レナスさんは自分が今考えている事をぽつりぽつりと話し始めた。
両親がどんな人だったのか、ミサさんやアロエから聞いていた話はどれぐらい正しいのか、一体どんな風に過ごしていたのか。そして、どんな思いを持って故郷を出てアーク王国までやって来たのか。答えの出ない疑問が次から次へと湧き出ているようだった。
「昔はそこまで疑問に思う事ってありませんでした。ただただ自分の起源という物を知りたかっただけなんです。でもいつからか知りたい事が増えていたんですね。それを今日はっきりと自覚しました」
「そう言う風になった心当たりとかある?」
「多分……ナギさんのご家族を見てきたからではないでしょうか。ナギさんのご家族を大切に思う心を見ているとどうしても本当の両親が生きていた場合の事を考えてしまいます」
「それは……見せつけてきた僕が言うのもなんだけど辛くない?」
「辛い事はありません。私にはお母さんがいますしサラサさん、ディアナさん、ライチーさんもいます。今でも満足してるというのに何が辛い事などあるでしょうか。
むしろ産んでくれた事に感謝しています。ただそれでも亡くなってしまった両親の事を想うと……ああ、そうですね。今わかりました。
私は……弔いをしたいんですね。少しでも多くお父さんとお母さんの事を知る事が弔いになる気がするんです」
「弔いか……」
「ちゃんと両親の事を知ってちゃんと両親の死を悲しみたい……出来るでしょうか」
「出来るよ。必ず」
「信じます」




