フソウの玄関口
砂漠地帯を抜けて一週間後、ようやく僕達はフソウの入り口に辿り着いた。
検問所にはずらりと人と馬車が並んでいたので僕達もその最後尾について待つ事にした。
フソウもアーク王国と同じように壁が延々と南北に向かって伸びているが違う点は壁の前の大地には先の尖った杭を交差させて出来た防護柵が無数に並んでいる。
恐らくは木の精霊の力で作った防護柵なんだろう。
そして、壁の上には黒色で大きな筒状の物が外側を向いて並べられている。
「あれ何かな」
僕の横にいたアイネが指をさし疑問を口にする。
「うーん。多分大砲かなぁ」
「たいほー?」
「よく分かりましたネ。アリスさんの前の世界にもありましたカ?」
僕達の後ろにいたミサさんが僕の言葉に反応したらしく前に出て来た。
「実物は見た事無いですけどね。一応アーク王国にもありますよ。アイネ、大砲って言うのは筒の中に石や鉄の玉を入れて爆発の力で遠くに飛ばす兵器だよ」
「爆発? 鉄はともかく石じゃ壊れないの?」
「よく分からないけどさすがに調整するんじゃない?」
「ふーん。でもそんなの魔物相手に効くの?」
「質量兵器だからね。液体の魔物だろうが気体の魔物だろうが核に当たれば効くよ。それに遠くまで届くから魔法でも届かない距離の敵に攻撃できるのは強いと思う。
ただアーク王国だと大砲を使うよりも投石器の方が主流なんだよね」
「どーして?」
「爆発に耐えられる筒を用意できないから……だったかな? 金属は貴重だから数を揃えられないんじゃないかな」
これまでの知識はあくまでも本で知っただけの浅い知識だ。
鎧とかの数を揃えるより大砲並べた方が強いように思えるんだけど素人考えだろうか?
「石じゃ駄目なの?」
「駄目なんだろうねぇ」
「駄目かー」
「ミサさん。東の国々では大砲って普通に使われてるんですか?」
「んー。どれくらい配備されているかは分かりませんガ、戦場で使われるとは聞きますネ」
「あー……ちょっと話は変わりますが今って戦争してる国ってないですよね?」
「私がいた頃はなかったですネ。さすがに今はどうかは調べないと分かりまセン。ただ商人達からそう言う情報が一切出て来なかったので大丈夫だと思いますヨ」
「そんなしょっちゅーせんそーしてるの?」
「国同士の戦争とまで行かなくても小さないざこざはしょっちゅうですヨ。そしてそのいざこざがきっかけで戦争が起こる、よくある事デス。
三ヶ国同盟が国同士の戦争を一度もしていないというのも奇跡といわれていますヨ」
「する余裕が無かっただけとも思えますけどね。魔の平野から魔人がいなくなった今これからどうなる事やら」
「三ヶ国同盟って今戦争する理由ってあるんですかネ?」
「うーん……しいて挙げるなら資源じゃないですかね。アーク王国は金属が取れないので魔の平野が平和になったからといって金属の輸出が減らされたら危ないんじゃないですかね? 魔の平野に鉱山があれば別でしょうが」
宗教に関しては三ヶ国同盟内では統一されているし、神聖魔法の習得条件の関係上解釈違いで分かれる事も少ない。多分そこが火種になる可能性は低いだろう。
あるとしたら東の国々のツヴァイス教との千年に渡る隔たりの結果生まれているかもしれない確執だろうが、魔の平野がある限り距離的に直接的な戦争は起こらないんじゃないだろうが?
土地に関しても三ヶ国はまだ拡張の余地があるし、厳しい大地であるグライオン以外は広大な土地を持て余し気味だ。
そのグライオンも背後に魔物の脅威を抱えつつ一国でアーク王国に立ち向かう余裕があるとは思えない。
「んー。それでしたらアーク王国は食料を握っているのでそれを盾にすれば大丈夫……むしろそっちの方に火種ありそうですネ」
「うーん……アーク王国としては西の二国には防波堤になって欲しいはずですから自分から戦争を仕掛けるような事はしないと願いたいですね」
「あーもー! そんな話今はどーでもいーでしょ! 今は目の前にふそーがあるんだからそっちの話しよーよ」
「そうだね。話を変な方向に持っていっちゃってごめん」
「まったくもー」
「じゃあ早速話を変えて……フソウの世界樹って遠方からでも見えるんですよね? どれくらいから見えるんですか?」
フソウにあるという世界樹と呼ばれている巨大な樹木は有名だ。
山ほどの大きさがあると伝わっているしミサさんも実際に見た事がありその大きさを保証してくれている。
「天気が良くて高い所からなら大体歩きで三日の距離からでも見えるはずですヨ」
「大きすぎですよねそれ。山と変わらないんじゃないですか?」
僕の前世の生きてた国の一番大きい山と同じくらいあるんじゃないか?
「まぁ実際山みたいなものですヨ。ちなみに世界樹のある首都まではここからだと二週間ちょっとかかりマス」
「けっこー近いんだね」
「……こっちの感覚では一応はるか遠くの地っていう感覚なんですヨ」
「えっ、たったのにしゅーかんで?」
「それは旅をしてるからそう思うだけで定住してる人達からしたらかなり遠いよ」
まぁ旅をしていく上では遠いと思うよりも近いと思った方が気が楽になるのでアイネのような感覚は大事だ。
「むー」
「別に直さなくていいからね?」
「そーなの?」
「うん」
「分かった!」
元気よく答えるアイネがかわいくおもわず頭を撫でてしまう。いかんいかんな。アイネはもう成人しているというのについつい子ども扱いしてしまう。
頭を撫でるのを嫌がらないのもつい手を伸ばしてしまう要因かも知れない。自制しなければ。
「距離で思い出したけど地図買わないといけませんね」
「フソウのならまだありますヨ。もうボロボロですケド」
「それはありがたい。他の国の地図ってフソウでも売ってるんですか」
「世界地図ならともかく売ってませんヨ」
「世界地図? そんなのあるんだ」
「世界って言っても三ヶ国同盟からはるか東にある聖王国までのざっくりとした位置関係が描かれた物デス。距離感も適当なのであまり当てになりません」
「せーおーこく?」
アイネが僕に視線を向けてくるが僕も聖王国という名には覚えはない。だが心当たりはある
「名前は聞いた事無いですけどもしかして魔獣が治めていると言われている魔素のない国ですか?」
魔素が無いから国民は魔法が使えないんだとか。
「デスデス。医療と機械技術が発展していてその技術がフソウまで伝わっているんですヨ」
「へー。ミサさんは行った事あるんですか?」
「ないデス。ヴェレスからでも行くのに一年はかかるくらい遠いですカラ」
「往復で二年か……行けない距離じゃないけど、まぁ今回の旅では寄らないですね」
どんな魔獣なのか知りたい気持ちはあるがさすがに二年追加で旅できるほどの資金は用意していない。国冒連で仕事を受ければ行けるだろうけど……さすがに二年は長い。
「折角近くまで行くのにちょっともったいない気がすんねー」
どうやらアイネも僕と同じようにもったいないと感じている様だ。
「んふふ。そうだね。でもさすがに遠いから無理だよ」
「ちぇー」
「今回はフソウとエウネイラ、そしてヴェレスを楽しんでいってくだサイ」




