注意事項
「盗賊の対処法? 簡単ですヨ。圧倒的な力を見せつけて適当に追っ払う事デス」
「えっ、そんなんでいいんですか?」
マハードに着きカナデさんとミサさんと合流し近くにあった食事処で互いの近状を話しつつこれからの事を話しあっていた。
そして、マハードに着く前に出た疑問をミサさんに問いかけてみたところ意外な答えが返って来た。
「制圧したら殺したり捕まえて軍に引き渡すとかしなくていいの?」
「あ、アールスさん物騒ですよぉ」
「それをしたいのなら構いませんガ、盗賊は大体徒党を組んで人里から離れた場所で犯行を行うので逃げないように注意しながら町まで連れて歩くのは面倒ですヨ?
殺すと言うのもおすすめはしまセン。折角楽しい旅なんですから、人を殺したという思い出をこの旅で作りたくはないでショウ?」
「それはたしかに」
「ワタシ達には盗賊をどうこうしなければいけない義務も責任もありまセン。それがあるのはその国の軍デス」
「そうですね。たしかに僕達に責任があるとしたら互いに協力し合って無事に旅を終わらせる事にあると思います。その上で旅を楽しい物で終わらせられたらそれが最上でしょう」
「そうデスそうデス。それにそもそも妖精達がいれば盗賊は襲ってきませんヨ」
そんなミサさんの言い切りにアイネが首をかしげながら疑問を投げかけた。
「向こーも沢山せーれーいたら襲ってくるんじゃない?」
「ないですネ。精霊は味方につければ確かに頼もしい一騎当千の存在ですが、貴重なのでわざわざ精霊同士がぶつかり合って数を減らすような事は危険な賭けをしないはずデス」
アイネの疑問はバッサリと切り捨てられた。
なるほど。変えの効かない存在をわざわざ失う危険がある相手を狙うよりも危険のない相手を狙った方が良いに決まっている。
もしも精霊を使い捨ての駒のような使う様な輩がいたとしても精霊はそう簡単に仲間に出来る存在ではない。使い捨てにしたらすぐに精霊はいなくなり盗賊を続けられなくなるだろう。
「となると本当に気を付けないといけないのはレナスさんとミサさんの安全ですね。精霊術士を捕まえて精霊を脅し暴走させて自爆させた後火事場泥棒をする輩がいるかもしれません」
「中々えぐい事思い付きますネ。そういう事件が無いとは言いまセン。ですが特に気を付けるべきなのはアリスちゃんですよ」
「治療士ってやっぱり狙われますか?」
「狙われると思いマス。向こうにいた頃はそういう事件は聞いた事が無いですガ、欠損や病気が治せると知ったらいかな手段を用いてでも手に入れようとする人は出てくるでショウ。……盗賊以外にも。
なので向こうに渡ったらワタシとしては何があっても絶対に使ってほしくないですネ」
「死にそうな人を見殺しにするって相当苦しいですよ」
「……バレない様にこっそり使うとかは出来ませんカ?」
「パーフェクトヒールほどではないですが時間がかかるので難しいかと」
「諦めてくだサイ」
「その時は殴ってでも僕を病人から離してください」
「そうしマス。恨まないでくださいネ?」
「最大限善処します」
力を持つってやっぱ重いな。
「……あれ? ピュアルミナって勝手に使っちゃ駄目なんじゃなかったっけ?」
アイネがまたしても首を傾げて聞いてくる。
「それはあくまでも三ヶ国同盟内での話。壁の外に出たら関係なく使えるんだよ。だから皆が具合が悪くなったら使えるよ」
「へー。なんで外に出ると使えるよーになるの?」
「壁の外は危険だから制約が邪魔にならない様に壁の外は除外されてたんだよ。で、そう決まったのがフソウと接触するよりはるか昔だったんで三ヶ国同盟以外の国にいる場合についての制約がない。
だから壁の外にいる時と同じ扱いになってるんだ」
「それって新しく決め直したりしないの?」
「どうなんだろうねぇ。国交が開かれてからもう六十年くらいだっけ? それだけ時間が経っても決め直してないんだから問題が起こるまで直す気ないんじゃないかな。もしくは忘れてるか」
「それでいーの?」
「正直制約付けてくれた方が気持ち的には楽だから何とかして欲しいと思うよ。
でもそもそもピュアルミナの治療士が三ヶ国同盟の外に出るって難しい事なんだ。僕は仕事頑張ったから認めて貰えてるんだけど、本来は壁の外に出す事すら想定してないんじゃないかな」
「ほえー」
「許可証みたいな物って存在するんですカ?」
「ありますよ。ただ国を出る時に提示義務はないので銀行に預けちゃってますけど」
「提示義務が無かったら自由に出れてしまうのでハ?」
「あればわざわざ中級の冒険者になったり商人になって交易許可を取らなくても外に出られるんですよ。だから僕は中級の冒険者になれたので本来は許可を取らなくても一応外には出られます。許可を取らずに出てばれたら物凄く怒られて身柄を拘束されますが」
「逮捕されるのですカ?」
「強制労働の刑です。全国を渡り歩いて規定数の患者を治すまでは自由が無くなるんですよ。その患者も別に教会が探してくれる訳ではないので依頼を待つ必要があり、いつ終わるか分かりません」
「そ、それは何とも言えない罰ですネ」
「下手したら一生飼い殺しなんて事も……」
依頼が来ないからといって別に病人がいない訳ではないのがこの罰の胆だ。
治療費は治療士が少ない為べらぼうに高い。そのためお金がない人は依頼が出来ないのだ。病人を治さなくちゃ自由の身になれないのにその病人を治す機会を与えられず、見殺しにするしかないという状況はどれほどの精神的負担を与える事だろう。恐ろしい罰だ。
「話がズレて来たから戻そう。とりあえず盗賊に関しては出てきそうな道は避けつつ精霊がいる事を見せつけて襲われないようにすると言う対処法でいいんですね?」
「そうですネ。盗賊の出没情報は酒場や国際冒険者組合総連合会の支部で聞けますヨ」
「なにそのこく……なんとかって」
「アイネは知らない? 東の国々にある冒険者組合の事だよ。通称国冒連」
「あー、国ぼー連のことね。何かと思った」
正式名称は覚えていなかっただけか。長いし仕方ないか?
いや、そもそも僕は翻訳されて国冒連と認識しているが、アーク王国で伝わっているのはそれぞれの単語の頭文字を取って繋げて呼んでいる物だった。
あれだ、卵かけご飯をTKGと呼ぶのと同じだ。もしも卵かけご飯がアーク王国でTKGと通っていたら卵かけご飯と言われても分からなくてもしかたがないだろう。何せ呼び方が全然違うんだから。
「国冒連の詳しい話は向こうで支部に行ったら話しまショウ」
「お願いします。で、他に注意する事ってありますかね?」
「そうですネ。注意というかおすすめなのは隊商が通る道なら一緒に行くのがおすすめですネ。やはり数が多いと襲われにくいですシ、護衛として雇われればお金がもらえマス」
「たしか僕達も向こうの国冒連で組合の身分証を出して登録すれば国冒連の冒険者にもなれるんですよね」
「そうですヨ。もっとも護衛の依頼を受けるだけならワタシが受ければいいだけなので皆さんが登録する必要は無いですガ」
「まぁそれに関してもフソウについてから考えましょう。隊商が通る道は隊商と一緒にか……覚えておかないと」
「ああ、それともう一つ利点がありますネ。隊商が利用する道は大体道が広いのでアースちゃん達も通りやすいと思いますヨ」
「なるほど……ああそうだ、アース達って川渡れますかね?」
「少なくともフソウからヴェレスまでは大丈夫だと思いマス。頑丈な石橋がある道を選んでいけばいいだけですカラ。ただエウネイラはわかりませんネ」
「そうですか……」
渡れそうになかったら自分達で水の橋を作って渡ろう。