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覚悟なんて出来ない

 協議の結果とりあえず絵本の原稿を王都の教会に送って絵本にするなり聖書の挿絵にするなり決めてもらう事にした。 

 教会に判断を任せる以上没になり世に出ない可能性もあるがエンリエッタちゃんとは話し合い了承を得る事が出来た。

 原稿は僕がエンリエッタちゃんから買い取り差出人として教会へ届ける事になる。

 僕が差出人なら滞りなく教会の人間が眼に入れてくれるだろう。ついでに僕が監修した事も手紙としてしたためておく。

 ちなみに教会から出した絵本が売れに売れたとしても当分は利益が出る事はない。

 何故なら聖書と同じ扱いで世に出すという事はまずは無償で各地の教会や学校に配る事になるからだ。

 むしろ大赤字である。


 ……ところでこれ神の使者の立場を利用している事になるのか? 教皇様にも立場を利用しないようにと釘を刺されているし一応第九階位の治療士として内容は保証すると書いておこう。

 保証する内容も書いておいたらいいか。僕とレナスさんが神託の時に教えてもらった事を元にしていると書いておけばいいだろう。

 それだけだとちょっと保障としては弱いかもしれないが僕の名前を見る人が見れば何故保証できるか分かると思う。

 そもそも元々聖書と一緒に教会から出してもらいたいが為に送る事自体は許可を貰った時に伝えてある。その時に僕の名前使う事を確認しておけばよかった……。


 まぁいい。駄目だったら駄目だったで僕は教会の人間として生きるだけだ。

 神の使者として仕事をしながら魔獣達との共存社会を目指せばいい。

 むしろ神の使者として共存の道を説いて行けば目指しやすくなるのではないだろうか?

 とはいえ帰属するのなら教会に対してはなるべく堂々とした態度でしたいものだ。




 原稿を郵便屋さんに預けた後は特にする事もないので出発の日までルゥとの交流を楽しむ事にした。

 約八ヵ月ぶりのルゥは相変わらず愛らしく、しかし少し大人っぽくなっていた。四年生になって寮が変わったからだろうか?

 お姉ちゃんはルゥの成長が嬉しいです。


 そして、出発の日に僕達はグランエルを後にした。

 マハードまでは大体十日でワイゼルの北の都市、ナチュルを東に二日移動した所にマハードという都市がある。

 このマハードという都市は前線基地一番近い村が発展して出来た都市なのだけれど、最近出来たばかりの都市だ。

 マハードは元々ナチュルの管轄にあった町であり、東の国々との交易のお陰で規模的に町とは呼べないほど発展していた。

 しかし、去年の戦後に魔の平野の脅威がなくなったという事で軍にも余裕が出来そうなので都市に昇格し行政もきちんと出来上がったんだとか。

 そういう情報を王都からの帰りの道中に同業者から聞く事が出来た。

 依頼が欲しい、もしくは農家以外の安定した就職先を探している冒険者には出来たばかりのマハードが熱いのだ。特に行政関係が。


 さらに一般にはまだ詳しくは出回っていないであろう情報だがマハードには近い将来飛行場が出来る。

 恐らくは魔の平野からの魔物の脅威が極端に減ったからマハードに飛行場を作る決心がつき、飛行場を作った事による発展を見越して都市へ昇格させたのだろう。

 そして、飛行場が出来るという事は今までの単純に円をマス目上に区切った作りの都市の作り方とは別の作り方をするかもしれない。

 飛行場関連でも熱々になりそうだ。


 そして、ナチュルを過ぎてマハードまでもう少しという所で馬車を引いているアースの先導をしていた僕は、僕の横を歩いているアールスがご機嫌になっている事に気づいた。


「なんだかうれしそうだねアールス」

「えへへ、分かる? もう少しでついにフソウに行けるんだと思うとついね~」

「んふふ。分かるよその気持ち」

「楽しみだなー。フソウの世界樹どんな大きさ何だろうね」

「山位大きいって言われてるけどきになるよね」

「うんうん。カナデさんの目的の鏡みたいな湖のエウレ湖も気になるしレナスちゃんの両親の故郷も気になるし、他の国だって何があるのか楽しみだよ。ナギはフソウの食べ物に興味あるんだよね?」

「うん。グライオンで再現出来ていた物は大体食べられたけどやっぱり本場でしか食べられない物が気になるよね」


 どうやらグライオンではお米料理はあまり人気が無いらしく、お米を手に入れる手段も輸入以外にないので高くなるからお店で出すところは殆どなかった。

 そして、食べられたお米料理もお粥のような味の濃い汁に浸った物ばかりでお米独自の味を味わえる料理は皆無だった。


「楽しみだよね。フソウ以外の国のご飯もどんなのがあるんだろう」

「ヴェレスは味が濃くて甘い物が多いってミサさん言ってたよね」

「甘い物って言ったらお砂糖だけどヴェレスってそんなにお砂糖が一杯取れるのかな?」

「精霊のお陰でミサさんは沢山果物があるって言ってたよ」

「ミサさんの話を聞く限りじゃかなり精霊に依存してそうだったよね」

「どんな国なんだろうねぇ」


 ミサさんから話は聞いているがやはり実際に行ってみた方が分かりやすいだろう。


「気になるといえばエウレ湖のあるエウネイラも気になるよね。水の国って言われてるらしいけど」

「ミサさんは行った事無いらしいからカナデさんが昔読んだ本の情報しか分からないんだよね。

 首都は川の上に作られてる水上都市だって言ってたっけ」


 一応余裕がある時に本屋や図書館でエウネイラについて調べようとしたのだけれど、国交がない所為なのか詳しい文献は全くなかった。


「首都も見てみたいけど川も見てみたいなー。都市が作れるほど大きな川なんだよね」

「らしいね。本当にそんな所に作ってたら心配だけど」

「心配ってどうして?」

「川がないこの国の人にはなじみは無いけど川って雨が降るとかさが増えるんだよね。

 そのかさが増えると川があふれ出したり流れが強くなって危険なんだよ。そういうのを川が氾濫するって言うんだ。だから物凄い雨が降った時は川での水上都市なんて危険だと思うんだけどね」

「へー。よく知ってるね?」

「前世の僕の暮らしてた国じゃよく問題になってたからね。大規模な災害だと何千もの家が流されて被害者も千人を超すんだ」

「千!? 疫病でもそんなにいかないよ!?」

「それ位自然の災害って言うのは怖いんだよ。アーク王国は幸い地震も台風も津波も川の氾濫も縁が無いから。というか魔法があったとしても疫病で千人も被害が出ない事自体すごいからね?」

「そ、そうなの?」

「ピュアルミナがあっても使える人が間に合わなかったら意味ないからね。前世の世界では万単位で被害が出た事が歴史上何度もあったんだ。医療技術が発達していないこの国で千人ほどでの犠牲なのは頑丈な証拠だよ」


 昔シエル様に教えてもらった事がある。

 仮に前世の世界の身体のまま病への抵抗以外を無視して考えても、この星にやってきたらどんなに健康で頑丈な人でも一年も持たずに死んでしまうらしい。

 そして、この世界で疫病で亡くなるのは殆どが体力の少ない子供であり、前世では老人と呼ばれるような年齢の人間でも若い人間と死亡率は大差がない。

 それこそ老衰が多くなる百歳近くまで行かないと死亡率は上がらないのだ。


「向こうについたら今まで以上に気を付けないとね。食べなれない物を食べてお腹を壊したりするくらいなら可愛い物だよ。

 向こうには山が多いから必然的に山道を通らないといけない時がある。

 その時に大雨が起きたら岩雪崩や川の氾濫に巻き込まれる事があるかもしれない。そうじゃなくても治安が悪くて盗賊に狙われる可能性だってある」

「気を付けるのはいいけど雨が降るかどうかなんてわからなくない?」

「そうだね。山の天気は変わりやすいっていうし山育ちのミサさんでも予測するのは難しいって言ってたね」

「そうなるといざそう言う場面に出会った時にどう対処するのかを決めておかないとね」

「その通りだね。本格的に考えるのは山道を行く事が決まってからでいいけど、さわり位はそろそろミサさんに教えてもらっておいた方が良いね」

「そうだねー。盗賊とかどうしたらいいんだろ。捕まえたら軍に引き渡せばいいのかな?」

「捕まえられる事前提なんだね」

「魔獣達と精霊達がいるのに負けるとは思えないかな。普通に考えて相手も精霊が複数いるか旅団規模くらいは無いと本当の軍隊じゃない限り負けないよ」

「んー。人質取られたりとか」

「助けた上で全滅させられるよね? ナギやナスちゃんなら」

「……まぁ多分できるね」


 恐らくサンダーインパルスだけで何とかできる。ナス以外の魔獣達だとサンダーインパルスと魔力感知の練度がちょっと心配だ。

 しかも今の僕は固有能力を共有しているからサンダーインパルスの為に自分のマナで相手のマナを突き破って導火線にする必要がない。

 直接電気の塊を操って相手にぶつける事が可能だ。


「自然災害はよく分かんないけど、人間相手ならさすがに何とかなるよ」

「手加減を間違えて殺さないかどうかが心配だよ僕は」

「殺すのはやっぱり嫌?」

「嫌だよ。皆が人を殺すのも嫌だよ」


 僕のような人間はきちんとした訓練を受けない限り人を殺す覚悟なんて出来ないだろう。

 人というのはきちんと訓練を受けないと人を殺せるようにはならないとどこかで聞いた事がある。

 そして、訓練したとしても精神的苦痛から逃れられるわけではないとも。

 きっと人を殺す覚悟を持とうと思うだけで人を殺せるようになる人は元々その素質を持った人か倫理観が低い人だけなんだろう。僕には無理だ。


 それに……アールスの言う通り僕には殺さずに制圧できるだけの力はあると自負している。

 殺さずに対処できる。心配なのは手加減を間違えて殺してしまう事だけ。その自信が余計に人殺しを忌避させてしまうのだ。

 傲慢だと思われるだろうが何故僕が嫌な思いをしてまで人を殺さなければいけないんだという暗い思いが心に沁みついて取れない。


「私は……まぁ軍で一応訓練受けてたし昔の固有能力の影響のお陰かそれほど忌避感はないよ?」

「でも実際に殺した事はないでしょ?」

「それはそうだけど……」


 横で歩いているアールスの方を見てみるとアールスは少し悩むような表情をしていた。

 アールスだって訓練したとは言っても本職の軍人程本格的に取り組んだわけではないだろう。

 それに固有能力の影響もあって恐怖心が弱かった頃に受けた訓練だ。今だと心境が変わってしまって訓練が無意味になってしまった可能性だってある。


「なるべく盗賊が出ない道を行こうね」

「そうだね」


 人を殺すとか殺さないとか以前に危ない所には近づかないようにするか危険を遠ざけるようにすればいい。それが人殺しなんてしたくない僕達のやるべき事だろう。

ちなみにナギ以外の各人のスタンス

レナス ナギに危害を加えるなら容赦はしないけど基本はナギと同じように人を殺したくない

アールス 危害を加えてくるなら容赦はする気はないけれどナギと同じように殺さずに制圧できる場合はわざわざ手を汚したいとは思っていない

アイネ 人を傷つけるのは平気だけど人を殺したいとは思わない

カナデ 人を殺したくないから手足を撃ち抜いて無力化させますね

ミサ なるべくなら殺したくないけれど加減できるほど強くないから仕方ない


 ナギとアールスは実戦経験がないだけで実際に殺さずを実現できるだけの技量はあります


2024/04/07

分かりにくく誤解される文を修正しました

一応第九階位の治療士として内容は保証すると書いておこう。

教皇様にも立場を利用しないようにと釘を刺されているし一応第九階位の治療士として内容は保証すると書いておこう。

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[一言] >ところでこれ神の使者の立場を利用している事になるのか?  いや、気にしなくて良いんじゃないかなぁ。  ナギが信奉するシエルなら、悪い事をする気じゃないなら好きにしろって言いそうだから。
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