復興
グランエルに帰って来れたのは新年が明けてすぐの一月の事だった。
帰りはアースとヘレンが頑張ってくれたおかげで予定よりも早く帰って来る事が出来た。
まずグランエルの街並みを歩いてみるとすっかり元通りの活気に戻っていてほっと胸をなでおろした。
それから組合近くで冒険者として活動していたアイネと合流した。
カナデさんとミサさんは今は魔の平野の交易路の復旧具合を調べる為にグランエルにはいないが、精霊で連絡を取り合えるので合流するのに問題はない。
「帰って来るの意外と早かったねー」
「急いだからね。アイネはどうだった? 何か変わりはない?」
「あたしのほーは何にもないかなー。ふっこーさぎょーなんて被害なかったからすぐに終わったんだよ。稼げるかなーって思ったのにさ」
「すぐに終わってよかったじゃない。こっちも拍子抜けするほど順調に進んだよ」
「お陰で私の伝手使う余地全然なかったよね。一応帰りにお爺ちゃんに相談したけどもう出来る事は何にもないって言われちゃった」
「もしかしたら余計な手だしをされたくないから速攻で話を纏めに来たのかもしれませんね。教会の方でも神の使者の立場を利用しないようにと釘を刺されましたし」
今は僕達がいない間に組合の近くに新しく出来たという喫茶店でお茶を飲みながらアイネと互いの近状を報告した。
「むずかしーはなしはいいからさ、なんか面白い話とかないの?」
「あるよ。アールスのお爺さんの商会も協力する気球船の国内運用が決まったんだ」
「ききゅーせん? 昔乗ったききゅーの事?」
「そうだよ。あの気球を大勢や多くの荷物を運べるように大きくした乗り物なんだ」
「すげー。あたしも乗りたいなー」
「交易路に一番近い都市のマハードにまず飛行場作るみたいだから帰ってくる頃には乗れるようになってるかもね」
「ひこーじょーって何?」
「気球船を停める場所の事だよ。マハードから首都や王都、各方面の主要都市に行けるようにするみたいだね」
「へー。そーなると旅も楽になるのかな」
「なるといいね」
「帰って来て乗れるよーになってたら乗ろーよ!」
「んふふ。それはその時全員いる時に相談して決めようね」
「いずれはグライオンやイグニティ、フソウとかにも行けるようにするみたいだから楽しみだよね」
「アイネの方は何か面白い事あった?」
「面白いってゆ~かミリアが今酒場で歌ってるんだけどかなりひょーばんいーんだよね」
「へぇ? それは聞いてみたいな」
「うん。毎日歌ってるから夜に行けば聞けるよ。でね、そのミリアから今のあたしの旅が終わったら今度はミリアと一緒にあちこちいこーって話が出てるんだよね」
「なるほど」
「前はさ、ナギねーちゃんがヒビキのこきょー探すって言ってたからあたしもその気だったんだけど、今はどーなの? 探す気があるんならあたしも一緒に行きたいんだけど」
「ヒビキもグミもナミもその気無さそうだったからな……改めて三羽の意思を確認してからだけど多分探しには行かないんじゃないかな」
「そっかー。ねーちゃんが危険な所に行かないんだったらミリアと旅するのもいーかなって思ってる」
「アイネ自身はやりたい事無いの?」
「あちこちに行って強い人と手合わせしたいかなって。でもそれってミリアとの旅のさいちゅーでもできるじゃん?」
「アイネはぶれないなぁ。待ってる最中にも手合わせしてたの?」
「もちろん! でもあたしより強い人はいなかったんだー」
「そうだったんだ。まぁ強さを求めるような人はグランエルに留まってる事はないんだろうね。もっと人の多い中央近くとかグライオンの闘技場に行ってるんじゃないかな」
「そうだねー。軍人相手ならまた違うんだろうけど……さすがに軍人相手には手合わせ挑んでないよね?」
「挑みたくても相手にされなかった」
「そりゃそうだ」
「この後ねーちゃん達に手合わせ頼んでもいーい?」
「いいけどその前に宿取らなきゃ。アイネはどこ泊まってるの?」
「あたしは宿じゃなくてミリアの借りてる集合住宅の部屋に住まわせてもらってるんだ」
「へぇ? 一緒に暮らしてるの?」
「うん。ミリアが一緒に住もーって誘ってくれたんだ」
「相変わらず仲が良さそうだね。じゃあ宿は僕達で泊まる所決めちゃって大丈夫だね」
「いつ頃出発するの?」
「実家にも顔出したいから一週間後くらい?」
レナスさんとアールスに視線で確認を取ってみると二人共頷いた。
「交易路の再開は二月頃だと聞いていますが、再開直後だと人が多いでしょうからそれぐらいが丁度良いかと」
「結局同窓会開けなかったね」
「そうだね……僕が首都や王都に行っちゃったから……アイネ皆への説明頼んじゃってごめんね」
「別にいーよ。やる事そんななかったし。あっ、そーいやカイルにーちゃんと会ったよ」
「本当?」
「うん。元気そーにしてた。魔物との戦の時は生きた心地がしなかったって言ってたけど」
「そうか。無事だったんだね。よかった……今どこにいるか分かる?」
「前線基地に務めてるって言ってたよ。あたしが会った時は戦後の休養で戻って来てたって言ってたからもー基地に戻ってるんじゃないかな」
「じゃあ会う時間はなさそうだね……」
まぁ向こうから何にも連絡が来てないから僕の方から会いに行くのもはばかられるんだけど。
話したい事も大方話しつくした後僕達は喫茶店を出て宿を探す事になった。
とはいえ宿はすぐに見つかった。ちょっとお高い宿で学校の卒業後レナスさんと初めて一緒に泊まった宿だ。
宿探しの最中に見つけて懐かしさのあまりついついそこに決めてしまった。
宿を決め、荷物を置いた後組合まで行き併設されている施設でアイネと手合わせをする。
最初に手合わせしたのはアールスで、久しぶりのアイネだが相変わらず目にも止まらない動きでアールスに迫る。
だけれどアールスはアイネの動きに惑わされる事も焦るような様子もなく冷静にさばいているように僕には見えた。僕ではああも動けはしないだろう。本当にこの二人は段違いの強さを持っている。
勝負はそう長い時間をかける事無くアールスの勝利で決まった。
正直努力量で言えばアイネはアールスよりも努力をしていると思う。けれどアールスはそんなアイネにほぼ負けなしで勝ち越している。
固有能力と体格の差なのだろうか? だけどどんなに差があってもアイネはきっと諦めずアールスに挑むのだろう。
「次はナギねーちゃんね!」
アイネは楽しそうに物騒な笑顔を浮かべているが少し息が荒い。
「ちゃんと休んでからね」
「疲れてる位のほーがいーしょーぶできるよ」
「駄目だよ。せめて呼吸を整えられるくらい休まなきゃ怪我するでしょ」
「怪我くらいすぐ治るし」
「それでも駄目。もっと自分の身体を大事にしな」
「んもー。頑固だなー」
体力のハンデを貰うよりも魔力探知使わせてもらった方が勝機があるんだよな。
けどさすがにアイネに黙って二つも有利な条件を貰う訳にはいかない。
魔力探知を使うな? これが無きゃアイネと渡り合えない。
アイネに正直に言え? 自分の手札を素直に明かす人間はいないだろう。
僕だって勝ちたいんだ! 魔力探知に関しては気づかないアイネが悪い。以上!
そして実際に戦ってみた結果負けた。善戦は出来たのではないだろうか?
その証拠に手合わせが終わった後アイネが僕に抱き着いて来て満足そうにしている。