教会
章分けしている訳ではないけれどあえて区別させていただきますが次回から最終章に入ります
王様達との話の結果仲間達と一緒に東の国へ旅に行ける事を確約できた。
神の使者である僕を囲い国外に出したくないという意見も議員さん達の中から出たが前世の話が対価という事にして何とか事なきを得た。
自分で自分の事を浅学とこき下ろしといるのにうえに役に立つか分からない知識が対価になるのだから神の使者の価値なんて知れたものである。
だが神の使者として価値を見出されないのはこっちとしても願ったりかなったりだ。
僕は別に神の使者として生きたい訳じゃないのだから。
とはいえ気球という前例がある以上まだ何かあると思われても仕方ないか?
しかし、今ある資源で尚且つ僕の知識でも実現できそうな物というと蒸気機関を使った乗り物位だ。しかも汽車とかは多分無理だ。線路を作る為の鉄がアーク王国では全く取れない。
しかも蒸気機関はユウナ様が発明していて前会った時にはグランエルで蒸気機関の車の開発をしていたんだよな。
多分僕の出る幕はないだろう。
まぁ僕は話すだけ話して後は国に任せよう。僕より賢い人なんてごまんといるのだから。
話しが終わると二日開けてから首都を出発する事になった。
話しがつつがなく終わってくれたおかげでアールスの力を借りずに済んだ。
しかし、アールスはきちんとお爺さんに連絡は取っていていつでも動けるようにしてはくれていたのは本当に助かる。
問題なく終わってしまったおかげで結果的にお爺さんの手を借りずに済んだ事は良かったが、挨拶しに会いに行ける時間が無くなってしまったのが残念だ。
王都に向かう最中に前世の聞き取りのために女性の人が二人派遣されて来た。
四人乗り用だった箱馬車は護衛の人も含め満席となった。今度の旅は退屈しないですみそうだ。
しかし元からこうする予定で四人乗り用の箱馬車にしたのだろうか? しかも護衛の人の前で話していいとなるとあらかじめ話も通していたという事か。なんとも用意周到な事だ。
王都までの道のりの間に話せるだけの事を話した。ただし僕自身の事は詳しくは話していない。あまり聞かれなかったからというのが話さなかった主な理由だけれど、前世が男だったと明かすのは女性三人の前では憚られた。
聞き取り役の人がよく聞いてきたのはやはり科学技術についてだ。
特に車や電車、テレビに電話については興味津々だ。反面エネルギー関連に関しては取れるかどうか分からない上に魔法で代替出来そうなのであまり興味を持たれなかった。
ついでにユウナ様が蒸気機関を開発してグランエルで実験していた事を伝えると聞き取り役の人達は真顔になってしまった。
その次に興味を持たれたのは火薬だ。魔法を使わなくても離れた場所で爆発を起こせる事に注目された。
とはいえこれは本当に分からない。黒色火薬は漫画で作り方を知ったのでシエル様に記憶を掘り出してもらえば説明は出来た。
作り方を教えた時引かれたのはご愛敬だ。
しかし、何となく爆発する物で銃や山の発破に使われていたという認識しかなくそれ位しか教えることは出来なかった。
同じ爆薬でダイナマイトの材料であるニトログリセリンというのも知ってはいるのだがこちらは衝撃を与えたら爆発する事しか分からない。こっちの世界にあるのだろうか?
僕が一番話したかった歴史の話、特に僕が生まれる前に大問題になったという公害の話は反応が芳しくなかった。
まぁこれは仕方がない。まだ環境を破壊するほどの有害物質を大量に出すような規模の工場なんてないし、科学だって発達していない。今から気をつけろと言われても実感なんてわかないだろう。
北のアトラ山の麓にある毒の沼地地帯の方がよほど問題だ。
だけどそのうち大量生産大量消費の時代はやっくる。その日の為にあらかじめ警告をしておいて損はないだろう。その時まで僕の語った事が残って伝わっているかは謎だが。
そして、意外と興味を持たれたのが服飾やお化粧等の美容関連の話だった。仕事ではなく女性として興味を持ったのだろう。
前世の女友達とはよく髪のケアからそういう話しをしていたので女性の美容事情にはちょっと詳しかったりする。
その所為か前世では同級生の女子からは異性扱いされていなかったが。
王都に付くとやはり高級な宿に泊まる事になった。今度は教会本部に寝泊まりするのかなとちらりと思ったがそんな事はなかった。
教皇様のいる教会本部の正式名称はアーク王国支部教会本部であり、総本山と言われているがあくまでも千年前の大進攻の後に出来たツヴァイス教会のアーク王国支部なのだ。
アーク王国内のある教会は本来支部の支部でしかない。
そんな支部に教皇がいるのは千年前の大進攻で孤立してしまい他の国のツヴァイス教と連絡が取れなくなったから仕方なく教皇を立てて千年経ったのだ。
ちなみにツヴァイス教の総本山は千年前の魔物の大進攻の際に滅ぼされて今は存在せず、東の国々では各国の支部が主導権を得る為に百年近くにわたる争いが起こりその結果勝った教会から新たな教皇を生み出したらしい。
そして、千年の時が経ち東西の国交が開かれた今、同じツヴァイス教で教皇様が二人いるという事態になっているのだ。
おかげで三ヶ国同盟の教会と東方国家群の教会の関係は微妙な物ならしい。
今回の教皇様との会見で危惧していたのがそこだ。僕の神の使者としての立場を利用して教皇としての立場を盤石にしようと考えていないかを疑っていた。
しかし、いざ話をしてみるとまったくそんな話は出てこなかった。
最初は世間話らしく神様の話題が中心だったが次第に話題の核は僕に移っていき、本題として僕がこの世界で何をしたいのかを聞いてきた。
神の使者としてなら国王様にも言った通りもう少しだけ生きたかった以外に特にない。
しかし、教皇様はどうやら神の使者としての目的聞きたいのではなく僕自身の今したい事を聞きたいようだった。
それならばやはり答えは簡単で仲間と一緒に東の国々を観光したいだけだ。
けれどその答えだけでは満足しなかったようでさらに旅が終わった後の事を聞かれた。
これも隠す事ではないのでまだまだ未定な部分が多く恥ずかしいが将来的に魔獣達と共存できるような仕組みを作りたい事を話しておく。
そして、最後に僕がこれからどうしたいのかを聞かれたので旅を続けたい事を伝える。
何となくだが国王様達は僕の前世に興味を持っていたが教皇様は僕自身を気にかけているように思える。
はたして教皇様の真意は何なのか。それは分からないまま会見は終わった。
教皇様との会見が終わった後は僕の待遇について教会の上層部が話し合うのでそれが終わるまで王都で待機となる。
結論が出るまでの間僕は次に行われる謁見の間での謁見の際の礼儀作法を叩き込まれる事になった。
どうやら王様と教皇様の謁見で作法が違うらしい。
王様との謁見の礼儀作法は学校で習ったが教皇様の方は習っていない。
具体的にどう違うのかというと王様に跪いて首を垂れるよりも位の低い立ち姿勢のままの礼儀作法だった。
それ以外はあまり変化のない作法だったので何とか覚えて当日を迎える事が出来た。
会見から三日後、謁見の間で緊張しながら覚えた礼儀作法を披露した。
上手く出来たは分からないがそんな事は関係ないと言わんばかりに話は進んで行く。
結論から言うと今後一切神の使者という立場を利用しない限りは僕の自由にしてよいとの許可が出た。
かわりに教会としても僕を表立っては神の使者として扱う事もしない事と、もしも立場を利用した事が判明した場合は教会に属し正式に聖女として迎え入れる事になるという脅しまでくっ付いてきた。
僕が聖女とか何の冗談だろう。
教会に属するのはまぁ……だいいが聖女はない。普通に神の使者ではいけないのか?
聖女の部分は取り下げてくれないかと頼んでみるとあっさりと取り下げられ、教会側からの他の二つの要求を呑む事で同意する事となった。
……あれ? 嵌められた? 他の二つの要求を通す為に聖女とか言い出したのか?
別にいいんだけどなんだが騙されたような気がしてもやもやする。