理想
軍の魔獣用の厩舎に新たな住人がしばらくの間住む事になった。ヒビキのパパさんとママさんだ。
そして、ついでという訳ではないが通行許可証を貰う時に登録に必要なのでパパさんとママさんの名前を決めた。
パパさんの種族名はロックホッパーペルグナー・ミラージュだったのでグミ。
ママさんの種族名はロックホッパーペルグナー・ミューズだったのでナミだ。
我ながら可愛くて良い名付けだと思ったのだがカナデさん以外からは何故か微妙な顔をされてしまった。
どうしたのかと聞くと何故グミとナミになるのかが分からないと言われてしまった。
そこで僕は自分のうっかりにようやく気付いた。僕は未だにステータスの表示が前世の言語で見えているのだけど、それは当然こっちの言語とは全く違うものだ。前世の言語を元に名付けしてもそりゃ皆からしたら何でそうなったの? ってなるに決まっている。
きちんと説明してみると……やっぱり微妙そうな顔から変わらない。しかも今度は理由は教えてくれなかった。
様子を見に来たお母さんにもグミとナミ紹介する。お母さんは家族が見つかった事を祝福してくれた。
しかも言葉だけではなくお土産まで持ってきてくれた。お土産はまだ流通が回復してないから値段が高いはずの木の実。それもヒビキの好きな木の実だ。
両手大の器に一杯に入った木の実をヒビキに見えるように地面に置くとヒビキはくちばしを開け物欲しそうに見つめる。
グミとナミはヒビキが注目している物に興味を持ったようでくちばしは開けないが首をコテンと傾げ見つめている。
ヒビキには独り占めしない様にと注意してからカナデさんに地面に座ってもらう。そうしてからヒビキにカナデさんの膝の上に座ってもらい食べる許可を与える。
カナデさんがヒビキに木の実を食べさせる事によって食べる速さを調整するのだ。
そして、ヒビキが食べられるから大丈夫だとは思うが念の為木の実を一つ手に取って小さく割り、異常があったらすぐに吐き出すようにといいつつグミとナミに進める。
グミとナミは恐る恐るといった感じて一欠けら木の実を食べ咀嚼する。
味の方は問題なさそうだ。すぐに次の欠片を口に入れている。
欠片が全部なくなった所でグミとナミに一度食べるのを止めてもらって改めて身体におかしな所はないか確認する。
そして少し待ってからもう一度同じ確認を取りそれから食事の許可を出す。
本当なら半日くらい時間を置きたいがヒビキが美味しそうに食べているそばで我慢させられるのは酷だろう。
グミは大きいのでミサさんに抱っこしてもらい、ナミは僕が抱っこしようとした所お母さんがやりたいと言い出したので代わりにやってもらう。
「この子達もヒビキちゃんと同じように抱っこが好きなの?」
「どうだろうね。ヒビキは胸の柔らかさが仲間に似ているから抱っこされると落ち着くみたいなんだよね」
「あら、そうだったの」
ナミはヒビキよりも大きい所為か膝の上に座らせるだけでもお母さんの胸に当たっているが特に変わった様子は見られない。
そしてそれはミサさんの膝の上にいるグミの方も同じだ。
「喜ぶどころか嫌がる様子もないしどっちも特に思う事はなさそうかな」
「そういうの分かるのねぇ」
「何となくだけどね。ただ今は木の実に夢中になってるだけかもしれないけど」
「あらあら。買ってきたかいがあるわね」
「んふふ」
木の実が半分位までなくなった所で食べるのを止めさせた。さすがにこれ以上は食べ過ぎなので残りはまた後日に回すようにヒビキ達に言った。
するとヒビキは文句があるらしく不満そうに鳴いたが取り合わず木の実を片付ける。
片付け終わったら改めてグミとナミの体調を確認する。
数を食べても体調の変化は見られなかった。後は半日くらい様子を見るだけだな。見守る為にも今晩は僕達のお部屋に招待しなくちゃ。
不機嫌になったヒビキもナスが遊ぼうと声を掛けるとさっきまでの事をすっかり忘れてしまったかのように機嫌が良くなった。
ナスが気を使ってくれたんだろう。手でありがとうの気持ちを伝えるとナスは耳を振って応えた。
お母さんが帰った後早速シエル様から授かったリアライズの話題になった。
元々皆が揃ったらお披露目するという話しだったがさすがに魔獣達のいる厩舎でやるのは不味いとレナスさんから指摘された。
誰が見ているかもわからない厩舎でリアライズするのは不味いのもあるが、それ以上に僕が裸体に布を被るだけの格好は絶対に駄目だと言われてしまった。
僕も通りすがりの厩務員の人にそんな恰好を見せたい訳ではないので自分達の部屋で行う事に決めた。
しかし、皆の前で布一枚の姿になると言うのも中々の苦行だ。
というか布一枚の状態で男になるのも不味いだろ。今回は身長だけ変えてみよう。
皆には一旦部屋の外で待っててもらい衣類を全部脱いでからミサさんですら覆い隠せるほどの大きさの布で身体を隠し皆に入って来てもらう。
そして、扉を完全に占めたのを確認してからリアライズを使った。
効果時間は十秒。それだけで千ものマナを消費してしまう。
マナがごっそりと無くなった感覚を感じると同時に視界がいつもよりも高くなった。
「おおー」
「成功かな」
アイネの歓声に成功を確信する。
「とりあえず背だけ高くして見たけど皆から見ておかしな所はない?」
いつも見上げていたレナスさんの顔が丁度同じ高さに見える。
目線の高さが同じになるなんて何年ぶりだろう。
「髪がいつもよりも艶めいてますね」
「えっ、本当?」
レナスさんの指摘に自分の後ろ髪を手に取って観察してみると確かにレナスさんの言う通りいつも以上に髪の状態がいい。
艶がいいだけではなくさらさらしていて手触りも良い。僕の理想の状態だ。
意識していた訳じゃないけど僕の無意識理想が漏れちゃったのかな?
そんな風に考えている内に目線の高さが元に戻ってしまった。
「はやっ、もー元に戻った」
「十秒だけにしたからね」
「胸も小さかったよね」
「たしかに。特に変えようとはしなかったんだけど」
「やはりナギさんはお胸は小さい方が好きなんですね」
「そうなのかな?」
これも自分の無意識の理想が出てしまったのだろうか?
「男の子ではないんだね」
「さすがにみんなの前で男になる勇気はないよ」
「たしかにいきなり男性になったら困っちゃいますよねぇ」
「それはそうとナギさんの方に違和感などはありませんか?」
「ん~……レナスさんと目線の高さが合ったのが久しぶりで楽しかったくらいかな」
「ナ、ナギさん……私も新鮮な気持を味わえました」
「んふふ」
「やっぱもっと極端な変化しないと欠点は分からないのかな」
「ですが今それを確認する必要は無いでしょう。仕様を確認できただけで十分です」
「そうだね。髪とか胸の大きさは意識してなかったから。意識しない所でも変化が出ちゃうっていうのは大きな収穫だったよ」
「ねーちゃんて胸ちーさいほーが好きなんだね」
「まぁつねづね邪魔だと思ってたからね。そういう思いが出ちゃったんだよきっと」
僕の胸の大きさは平均的な大きさらしいがそれでも邪魔だと思う。巨乳派の人には悪いが無駄に重いし揺れたら痛いしで身に付けている身からすると本当に良い所が無い。
「そうでしょうそうでしょう」
「……うん」
レナスさんが得意気に頷いているがそっとしておこう。下手に触れたら面倒になる。
ナギはガチで胸の大きさを気にしない髪派です
胸が小さくなったのは本当に邪魔だと思っているからです