奇跡
ヒビキ達が落ち着いてきた頃を見計らって僕から話しかける。
ゲイル達はすでに話を聞いているかもしれないが直接彼らの話を聞きたい。
ヒビキから聞いているのは昔魔物が襲ってきて群れと離れ離れになった後長い時間をさ迷った果てに僕達に出会えた事だけだ。
説明を買って出てくれたのはパパと呼ばれているペンギン体形のペルグナーで、ママと呼ばれている真ん丸体形の方はヒビキと仲良くくっつき合っている。
そして、パパさんが話し始めた。
話によると最初はヒビキの言う通り魔物との戦いがあったのだけど、それは自分達の縄張りに入って来た大勢の魔物を追い出す為の戦いだったらしい。
結果は追い出す事には成功したが避難させた多くの仲間が行方不明になってしまい、ヒビキもその中の一羽だったようだ。
パパさんとママさんは行方知れずになった仲間を探し回り多くの仲間を見つけ出したがヒビキだけは見つけられなかった。
諦めかけたその時、群れを治めている巨鳥の魔獣が時々水で阻まれていた道が開く場所があるという助言を受けたと言う。
そして、パパさん達はその助言を信じその場所へ行って待っていると助言通り水が引いて通れるようになったらしい。
恐らく水というのは海の事で潮が引いた事で海水に覆われていた地面が露出し通れるようになったんだろう。
ヒビキ達が暮らしていた場所が大陸なのか島なのかは分からないが、少なくとも海の向こう側に比較的近い距離で存在している事は間違いないだろう。
パパさん達が海の道を通った後は森に着いたが大きく長い魔獣に追いかけられ森を追い出されてしまったようだ。きっとその魔獣は東の主様だな。
それからは荒野をさ迷っていたがその時に魔物に捕まってしまったらしい。
捕まった後の暮らしは狭い所に閉じ込められ外に出る自由はなかったがそれ以外では特にひどい事はされていなかったようだ。
特に何もしていない魔獣はほぼ放置のような扱いをされていたらしい。
しかし、ヒビキを探そうとしていたパパさん達は何度も脱出を試みた所為でどんどん脱出が難しい所に移動されていったのだと言う。
捕まっていた期間は長い事は分かっているが具体的な年数についてはさっぱり分からないそうでヒビキと別れてからどれぐらい経っているのかは結局分からなかった。
しかし、魔物が大量に縄張りに入って来たという事はもしかしたら海の魔物が大量発生したのかもしれないな。
パパさんの話によると故郷は島か大陸でも海に近い所にあるのだろう。
海に近ければ海の魔物が大量に発生した時に被害に遭いやすくなる。
「これまでの事は分かりました。これからどうするんですか?」
「きゅ~……きゅきゅっ」
何にも考えてない様だ。
「故郷に帰ったりとかは」
「きゅいきゅー……きゅきゅ」
遠いしヒビキもここにいるから別にいいかなだそうだ。適当過ぎる。
いやたしかに今からまた長旅をするのは苦労するだろうけれども。
「こ、故郷にいる仲間はいいんですか?」
「きゅきゅー」
大丈夫とかなり軽く答える。それでいいのか。
「きゅきゅーきゅきゅーきゅ。きゅー」
それよりも子供に会えた。それだけで満足だ。
「それは……そうですよね」
「用事ないならパパとママもわたちと一緒に来ればいいと思う!」
「きゅー?」
「僕達は旅をしているんですよ。今はしばらく一ヶ所に留まらないといけないんだけど」
「ナギ達と一緒だと楽しいよ」
「きゅー……」
「きゅきゅいきゅきゅー」
「きゅきゅ。きゅーきゅきゅぃ」
どうやらママさんはしばらくゆっくりしたいらしく旅をする事には消極的なようだ。
パパさんはそれを受け一緒に来ることは止めておくらしい。
「そうですか……じゃあ大森林に戻りますか? あそこならゆっくりできると思いますけど」
「きゅー……」
「もちろん今すぐじゃなくても大丈夫ですよ。しばらくこっちで休んでから大森林まで送ってもいいですし」
「きゅー?」
「きゅきゅ」
「きゅー!」
僕の提案通りしばらく休んでから大森林へ戻る事にしたようだ。
ヒビキを探し回った挙句魔物に捕らわれていたんだ。そりゃあ休息も欲しくなるか。
「きゅー……パパとママ行っちゃうんだ」
「……ヒビキも一緒に大森林に行っていいんだよ?」
「行かないわ。わたちナギ達と一緒にいろんな所行って美味しいもの食べたいもの」
「いいの? 折角会えたパパさんとママさんに中々会えなくなるよ?」
「ちょっと寂しいけど大丈夫! ナスもゲイルもアースもヘレンもいるもの!」
「そっか……」
後で気が変わらなければいいけど。
でも東の国々に行くまで時間はまだまだある。魔の平野を渡る時までに気が変われば両親のもとへ送り届ければいいだろう。
ヒビキの宣言にパパさんとママさん以外の皆も安心したような表情を見せた。
「きゅ~。きゅきゅー」
ママさんが一緒にいられないのは残念だと言いながらヒビキにさらにくっつく。くっつきすぎて互いの身体の三分の一くらいが潰れてしまっていて大変愛らしい光景となっている。
話が終わった後僕は予め用意しておいた魔獣用の通行許可の証であるメダル付の首輪をパパさんとママさんに付けておく。
正式に仲間になったわけではないが別に許可証を貰うのに正式に仲間になる必要は無い。
今の僕の場合は魔獣が正式な仲間になると固有能力が共有され言葉が翻訳されるので分かりやすい。
けれど仲間になったかどうかなんて本来証明する方法はない。
なので現状は特に条件のない嘘でなければ言ったもの勝ちとなってしまっているのだ。
一応固有能力を共有しておいた方が便利かと思い仲間になってみたいかと誘ったけれど口で了承を得ても固有能力が共有される事はなかった。
恐らく互いに強く共感しあうところが無かったんだろう。
僕は過去の例から魔獣と僕は互いに寂しいと思う心に共感しあい仲間にしてきている。しかし、パパさんとママさんは寂しいという強い気持ちは今は無いのだろう。
仲が良くなれば共有し合えるのかもしれないけど、共感し合える強い感情が無ければいきなり能力を共有しあうことは出来ないという事か。
これは意外と難しい条件なのではないだろうか? 僕は言葉が通じあえて早く仲良くなれる事が出来た。
そう考えると皆と出会え仲間になれたのは奇跡のように感じるな。