会えてよかった
結局お母さんはグランエルに留まる事にし、日に一度僕の様子を見る為に訪ねて来るようになった。
僕の方はというと特に変わりなく魔法石を作り続けているが、他の土地でもサンライトが使える人間が確認できたのでこの仕事ももうそろそろ終わるだろうと支部長さんから直々に教えられた。
その時ついでにアールス達が魔獣を連れてきているので僕がいったん外に出て迎えたい事を伝えた。
レナスさんと一緒に色々考えたが結局素直に支部長さんに伝える事を決めたのだ。
もちろん神様から聞いたという情報は伏せてだ。
さらにアールス達が接触した魔獣がヒビキに似た種族だった為確認の為ヒビキと合わせたいという事を伝えた。
そうして都市から一時的に出る許可を貰えた。都市長に掛け合って魔獣使いを新たに登録できるように急かすよりも、僕が直に迎えた方が面倒が少ないという判断の様だ。
僕達への魔法石作成の依頼も落ち着いて来たというのも理由の一つだろう。
近々依頼が終わり自由の身となる日もちか……くはない。状況が落ち着き始めたら大司教様と一緒に首都へ向かって政府関係者と会談し、その後王都に向かって教皇様に会わなくてはならないのだ。
王都まで行くとこっちに帰ってくるまでまた一年はかかってしまうだろう。
魔の平野を通る為の街道がいつ再開されるのかは聞いていないが、中継基地が魔物に破壊されている為基地が再建されるまで一般の通行は禁止され続ける様だ。
基地の再建も一年で終わるかどうか。そう考えると通行可能になるまでの間の時間を暇しなくて済むとも考えられる……か?
僕が考える事ではないが、魔王軍及びそれを率いていた魔人がいなくなった事で空いた土地をどうするのかという問題もあるだろう。
とりあえずどうなるか分からない先の事は置いといて目先の事を気にしよう。
ヒビキの仲間が来るかもしれず、ヒビキとお別れするかもしれない事はお母さんには話したがルゥには内緒にしている。
ルゥに話していないのはもしかしたらヒビキと別れる寂しさに負け、それが態度に出てヒビキにばれてしまう事を恐れたからだ。
そして、ルゥは今避難が終わるまで学校が休みなので時間があれば魔獣達に会いに来ている。
僕の時間が空いていれば友達と一緒に来たルゥの面倒を見るが、あまり時間が合わないのでお母さんとアイネに任せっきりだ。
ヒビキとの思い出を今の内に沢山作っておいて欲しい物だ。
僕のなるべくヒビキと遊ぶ時間を作りたいのだけれど、僕が遊びに行ける時間は大体ルゥがいる時間で大抵ルゥ達と遊んでいるので僕は中々遊べないでいる。
中々遊べない事に少し落ち込む事もあったがそんなときはレナスさんが元気づけてくれた。
そして、ついにアールス達が帰って来る日がやって来た。
レナスさんとカナデさんも休日にしてもらって全員で迎えに行く為にグランエルの外へ向かう。
道中ヒビキを抱っこしているのは僕だ。
ヒビキはいつも通り眠っている。相変わらず愛くるしい寝顔だ。
しかし、寝ているヒビキは気づいていないだろうが魔獣含め皆の間に緊張感が流れている。
アールス達が連れてくる魔獣が本当に仲間であって欲しい。けれどそれはヒビキとの別れを意味するかもしれないんだ。
ひょっとしたら今日で今生の別れになってしまうかもしれない。そんな予感が皆を緊張させているんだろう。
かくいう僕も緊張している。緊張を表に出さないように精一杯頑張っている最中だ。
ただ僕の緊張はいくら隠しても魔獣達にも伝わるだろうからヒビキが寝ているのは丁度いい。
検問所を出ると強い風が吹いて砂が舞う。ヒビキが嫌そうな声を上げて起きてしまった。
「やー」
「ヒビキ、大丈夫?」
「きゅー……ここどこぉ?」
「検問所を出た所だよ」
「ん……ゲイルはぁ?」
「まだ来てないよ」
「きゅぅ……じゃあもうちょっと寝るぅ」
「はいはい」
ヒビキは身体をもぞもぞと動かし前を向いていた身体を反転させ僕の身体の方に顔を向けて来た。
この向きだとくちばしが当たってちょっと痛い。なのでくちばしが胸の間に収まるように位置を調整する。
アールス達を待つために道から外れて地面が露出している場所に敷物を敷いてそこで待つ事にした。
待っている間ナスがヒビキを様子を気にしてか僕の周りを落ち着きなくうろうろしている。
とりあえず落ち着かせるために手を伸ばしナスの背中を撫でる。するとナスは僕に寄り添ってきた。
ずっとナスから寂しさの感情が伝わって来ていたが少し和らいだ。
「ヒビキが起きたら伝えようか」
「魔獣が来る事?」
ナスが聞き返してくる。それに僕は頷きながら答える。
「うん。もう伝えてもいいと思うんだ」
「起きる前に来ちゃうかも」
「んふふ。そうだね」
「……違ったらいいのにって思っちゃうボクって悪いやつなのかな」
「そんな事無いよ。意地悪からそう思ってるわけじゃないんでしょ?」
「うん。いなくなった時の事考えると寂しくて寂しくてたまらないんだ」
「それはみんなそうだよ。でもそうなると決まったわけじゃないんだ。だから考えすぎないようにね」
「うん……」
寂しがるナスを宥めつつ待っているとナスの予想通りヒビキが起きるより早くアールス達が帰って来た。
アールス達が連れてきた魔獣は二匹でゲイルの連絡通り確かにヒビキに似ている。
一匹はヒビキを二回りほど大きくしたような真ん丸体形で、もう一匹は身長はヒビキの二倍くらいありそうなペンギンそのものの体形をした魔獣達だった。
色合いは丸い方が黒と白が主でヒビキの桃色の体毛の部分をすべて黒く染めた配色だ。
ペンギンの方は灰と白でお腹周りと羽の内側が白でそれ以外の体毛はすべて灰色になっている。
「その二羽が……」
「うん。ナギ、ヒビキちゃん起こしてあげて」
「うん」
二羽ともまだ僕の腕の中で眠っているヒビキに気づいていないようで周囲をキョロキョロと見渡して警戒している様子だ。
警戒するのも当然だろう。仲間かも知れないと伝えられここまで連れてこられたら大きな魔獣が二匹いるんだから。
「ヒビキ、起きて」
少し強めに揺するとヒビキが起き出した。
「きゅ~……なぁに?」
顔を上げて僕の顔を見てくるが僕はヒビキの顔を二羽に見えるように反転させる。
「きゅ? きゅー!」
「きゅきゅ!?」
「きゅ? ……パパ? ママ?」
二羽が僕に襲い掛かってきそうな勢いで向かって来たので急いでヒビキを地面に降ろす。
「きゅー!」
「きゅきゅー!」
二羽とも会いたかった、ようやく会えたと歓喜の声を上げている。
ヒビキは何が起こっているのか分からないのか呆然と突っ立っている。お陰でヒビキはすぐに二羽に捕まった。
「本当にパパとママなの?」
「きゅー! きゅーきゅきゅー!」
「きゅきゅ……」
「パパ! ママ!」
ヒビキもようやく目の前の事を受け入れられたようだ。
三羽は抱き合い大きな声で泣きあう。
「ぴー……本当に親子なんだね」
「そうだね」
血が繋がっているかどうかまでは分からないがヒビキ達は家族である事に間違いはなさそうだ。
「会えてよかった。本当に」