戦いの後に
「ところでアース達はまだ来てないの?」
まだ僕の肩に乗っているゲイルが聞いてくる。
「来てないね。ヒビキが寝てるみたいだから走れないんじゃないかな」
固有能力のお陰で言葉や具体的な思考の内容までは分からないけれど相手が今どんな状態なのかは何となくわかる。
「僕達の方から迎えに行こうか」
「そうだな!」
アース達の存在を感じる方向へ歩き出す。
途中サラサから一緒に戦っていた魔獣達の中にはパーフェクトヒールが必要な魔獣はいないと伝えられた。
なら一安心だ。しかし、二手に分かれ西に向かった魔獣達もいるのでそちらの方にいるかもしれないからまだもろ手を上げて喜ぶことは出来ないか。
ヒールが必要な魔獣がいる様だがそっちはサラサが対処してくれるようで僕は休む事が出来そうだ。
亡くなってしまった魔獣の埋葬方法を聞くとそれは仲間の魔獣達がやるそうだ。
赤の他人である僕がやるよりもその方がいい……のかもしれないな。友の死を目の当たりにして辛いかもしれないが……。
「ゲイルは手伝いに行かなくても大丈夫?」
「行っていいの?」
「もちろん」
「じゃあ行く。よく知らない奴だけど一緒に戦った仲間だかんな!」
「それだったら僕も行くよ! ナギはどうする?」
「僕はアースと合流して埋葬が終わってからお参りに行くよ。来たばかりの僕が行っても邪魔になるかもしれないからね。ヘレンは?」
「わっちはナギと一緒に行く。埋葬ってよう分からん」
「わかった。そうしよう。もう伝わってると思うけどくれぐれも光の玉には触れないように注意するよう他の魔獣達に伝えておいて」
「分かった! ナギもしっかり休んでね?」
ナスとゲイルと別れヘレンと一緒にアースの元へ歩き出す。
見つけたアースはその場で座り込み目を閉じて眠っているようだった。
けれど近づいてみると僕達の足音に反応し耳が動いているのが分かった。
「アース、お疲れ様」
「アース無事でよかった」
「来るなってナスが伝えたのに……まったく」
「ナスにも言われたよ」
「そんでゲイルがわっち達が言えた事やないって言っとったよ?」
「ナギは人間なんだから私達よりも狙われやすくて危険なんだからもっと慎重にならないと駄目よ」
「どれだけ慎重に考えても答えは変わらなかったよ。僕はアース達だけに戦わせるわけにはいかない」
「それは私達だけを戦わせる罪悪感から?」
「そうだよ。だけどそれだけじゃない。ここに来なかったら僕は大切な何かを失って自分が自分でなくなってしまう気がしたんだ」
「ぼふ……仕方ない子ね。そもそもゲイルにここに来る許可を出さなきゃなんの問題もなかったのに」
「それもまた同じだと。あの時を何度繰り返したとしても僕は同じく許可を出していたよ」
「誰かが死んでも?」
「誰かが死んでもだよ」
これはきっとアース達の誰も死ななかったから思える事かもしれない。
仮にナスが死んでいたら僕はあの時の選択を後悔してやり直せるならやり直そうとしていたかもしれないし、この後の人生の中で迫られる決断にも影響を与えるかもしれない。
けどそれは結局もしもの話だし、時間を遡れない以上あの選択が変わる事は無いだろう。
「まったく頑固なんだから」
「あはは……それよりヒビキは?」
「私の角の裏で寝てるわ。ヒビキの周囲をマナで固めて落ちないようにしてるから動けないのよ」
そういえばソリッド・ウォールはマナを集中させて固めるから集中させている場所から動かせないんだっけ。
「なるほど……それなら流体操作使ってみたら?」
「ああ、そういえば使えるようになったのよね。すっかり忘れてたわ」
「練習して慣れるのも大事だよ」
「でもそれより今はナギがヒビキの相手をしてよ。ずっと気を使ってて疲れたわ」
「んふふ。本当にお疲れ様」
半日くらいヒビキを落とさないように気を使いながら動いていたんだからアースの言う通りにしよう。
足場を作りアースの鼻の上にある角の裏で眠っているヒビキを抱き上げる。
するとヒビキは少し起きたのかそれともただの寝相なのか僕の胸に身を寄せてきた。
それと同時にヒビキから安心している感情が僕に流れ込んできた。
「きゅ~……」
「ヒビキもお疲れ様ね」
頭を撫でてみると僕の手に反応し手の方向に身体を動かしてくる。かわいい。
埋葬が終わるまで僕はヒビキを抱きしめたまま少し眠る事にした。
寝具なんて持ってきていないので草の上に寝転がり夜空を見上げる。
すると背中の地面が動き出した。
「こんな暗い時間に地面で寝られたら危ないわ」
どうやらアースが僕が寝ている所を大になるよう地面を盛り上げてくれたようだ。
「ありがとうアース」
本当にアースは優しいな。今回僕がナス達を助けに行こうとしたら自分が行くって言いだして……面倒くさがりな癖に……僕やナス達の……為に……。
「ナギ」
眠りにつきそうになった所で何かに揺らされとっさに身体を起こす。
「きゅ~……なにぃ?」
「あっ、ごめんヒビキ起こしちゃったね」
声を上げるヒビキに謝ってから僕の身体を揺らしていた者の正体を確かめる。朦朧としていたから誰から声を掛けられたのかは分からない。
身体が大きくてすぐに目に着いたアースとヘレンは僕の近くにはいない。
「ナギ、寝てたところ申し訳ないけれど。西に向かった組と連絡がついたのだけど、部位を欠損した魔獣がいるらしいわ。すぐには合流できないけど……どうする?」
起こしたのはサラサだったか。
「すぐに行くよ。案内して」
「ええ。私はこの場を離れられないから友達の精霊のエィーリャを案内につかせるわ」
「分かった。ナスとゲイルにも伝えておいて」
寝ようとしていた所だったから頭が少し重い。
魔法で口の中に水を生み出し少しずつ飲み込んで眠気をごまかしながら頭にヒールをかける。眠気は取れないがくらくらしていた頭が少しだけすっきりする。
「アース、ヘレン。ふたりはどうする?」
ヒビキは僕に完全に身体を預けている。この感じだと降ろそうとしたらぐずるだろう。
「私は休んでるわ」
「わっちはアースといる」
「分かった。じゃあサラサ、行こうか」