戦いの終わり
残り四体のティタンを中々倒す事が出来ないままずるずると時間だけが経っていった。そんな中、ヘレンが突然声を上げた。
「ナギ、空から光が!」
ヘレンのその言葉に確認の為に顔を上げた。
見上げた先には夜空を切り裂くように一筋の光がこちらに向かって落ちてきている。
「シエル様?」
シエル様と繋がっているからだろうか? 何となくだがあの光からはシエル様を感じる。
その光は途中で無数に分かれ、そのうちの一つがまっすぐ僕を追っているティタンに当たった。
ティタンはその光を浴びると周りの魔物を魔見込み巨大な球体に閉じ込められる。
「あれはホーリースフィア?」
僕の使うホーリースフィアは単体用だし光の軌跡も見えない。
だが光の球体に閉じ込められた魔物達は身動き出来ていないように見える。
よく見渡せば他の場所でも……アースを追っていたティタン達も別々の光の球体に閉じ込められて苦しんでいる。
(お待たせしました、那岐さん)
(シエル様、来てくださったんですね)
(今分体は東から西順々に主達と話をする予定なので那岐さんと直接会うのはその後になります)
忙しいだろうに僕に会ってくれるのか。
(わかりました。それまでの間に精霊と魔獣達に説明と治療を行っておきます)
(森の外の魔物は一掃しましたが森の中は主達の許可を貰っていないので手付かずのままです。森の外に出てきたらすぐに攻撃しますが気を付けてくださいね)
(あっ、大森林の中までは手を出してないんですね)
(人間の領土ではないようですからね。海の中もナギさんとお話をした後元を断つために手を打たせていただきます)
(僕の事は後回しにして大丈夫ですよ? さすがに治療が終わったら寝るつもりですから)
(そうですか? それでしたらそうさせていただきますね)
「ナギ? ナギ? サラサが呼んどるよ」
ヘレンの掛け声で意識を表に向ける。
「ん。シエル様から連絡があったんだ。サラサ、森の中にはまだ魔物がいるけれど外に出てきたらシエル様がすぐに攻撃してくれるらしいから皆森の外に出て休憩しよう」
「わかった。近隣全ての魔獣に伝えておくわ。納得してくれるかは分からないけれど」
「うん。それと今の内に負傷者の回復もしちゃおう。欠損している魔獣がいたら優先で教えて欲しい。治療しに行くから」
「分かったわ。たしかナス達もヒールは使えるのよね?」
「うん。スキルも共有してるからね。第一階位の神聖魔法なら使えるよ」
普通魔獣は神聖魔法を魔法石無しでは使えないがスキルを共有している僕達なら第一階位の神聖魔法のみ使えるようになっている。
本来スキル共有はレベルも共有されるのだけれど神様の安全の為に第一階位止まりとなっている。
元々生き物には魔王との繋がりを完全に遮断する機能が備わっており、魔素に完全に侵されない限りその機能は破壊される事は無い。
つまり魔獣は魔素に完全に侵され遮断する機能が完全に破壊されて魔王と繋がりを持ってしまった存在だ。
そして、神様が完全に魔素に侵された魔獣と直接回線を繋げてしまうと魔王の繋がりからハッキングされるかの様に神様の方に影響を与えてしまうらしい。
そのハッキングを防いでいるのがまだ遮断する機能が生きている僕。僕自身がろ過機能を持っているようなものなのだ
しかし、それでも神聖魔法を魔獣も使えるように太い回線を繋げると逆流する危険があるようで繋がりを最小限するしかないそうだ。
「とはいえ皆も疲れているだろうから僕がエリアヒールで治すよ」
「ナギは大丈夫なの?」
「パーフェクトヒールが必要なくなるまでは休めないよ。幸いパーフェクトヒールとエリアヒールを併用出来るだけのマナは魔獣達のお陰で残ってる」
「私もエリアヒール使えるんだからあまり無理しないでね。レナスが心配してしまうわ」
「うん。気を付けるよ……ああっ、そうだ。魔獣達に念の為に光の球体の中には入らない様に伝えておいてくれる?」
「たしかにそうね。早速知らせてくるわ」
光の玉の中はすでにティタン以外の魔物は浄化されている。
「ナギ!」
下の方から僕を呼ぶナスの声が聞こえて来た。
下を見るとナスとゲイルがこちらを見上げて待っていた。
「ナス、ゲイル。無事に終わってよかった」
ヘレンから降りてふたりの傍に寄る。
「ナギ、来ちゃ駄目って言ったのに」
怒った口ぶりでそういうナス。
「だからナスよぉ、それはおいら達が言えた事じゃないって」
ナスの背に乗っているゲイルが呆れたような声で窘める。
「でも……」
「おいらもナスもアース達もナギも心配だから危ない所に来ちまった。そこになんの違いもありゃしないだろ? だからナギをあんまり攻めるなって」
「……」
「それよりほら、会えてうれしいんだからそれをもっと表に出せって」
「……うん! ナギ、会えてうれしい!」
ナスから本当に嬉しいという感情が伝わってくる。ナスを抱きしめてその気持ちに答える。
「僕も嬉しいよ。心配させてごめん」
「ぴー……」
ずっと戦っていた所為かナスの毛並みが悪く、さすがに獣臭くなっている。
こんなになるまで頑張っていたんだ。
「ふたりとも疲れてるだろうし十分休みな」
「僕はさっきまで休んでたから平気!」
「おいらも平気さ。おいら達よりナギの方が疲れてるんじゃないか?」
「僕は魔獣達の怪我を治すからまだ休めないよ。パーフェクトヒール使えるのはここら辺じゃ僕だけだろうしね。
ナス達は怪我はない?」
「僕は大丈夫」
「おいらも怪我なんてないよ」
「よかった」
「よかったじゃないよ! ナギは普通の人間なんだから休まなきゃ!」
「さすがにそれにはおいらも同意だ。おいらも休みたいから一緒に休もう! 心配させたくないなら無理すんな!」
ゲイルが僕の肩に乗って来て耳元で喚いて来る。
「うっ。わ、分かったよ。サラサが治療が必要な魔獣を見つけるまで休む。これならいい?」
「アールス達は来ないの?」
「どうだろう。来るかもしれないけど……アイネの時間操作の為にマナをほとんど分け与えたからパーフェクトヒールを使えるほど残ってないだろうし回復も出来てないと思うよ」
「そっかぁ……僕も使えたらよかったのに」
抱きしめているナスの耳がしなだれて僕の顔に当たる。洗っていない所為か毛がちょっと固くなっている。
「落ち着いたら皆水浴びしてきれいになろうね」