戦い
囮になるのが正式に決まったのはいいが敵はティタンだけではない。オークや水、岩の魔物もまだ大量にいる。
オークなどの魔物と魔獣達が戦うのなら森の方が有利なのだけど複数のティタンがいるとなると話は違ってくるようだ。
ティタンも一体だけなら森の方が良いが複数となると木々がなぎ倒され、倒木に巻き込まれる危険が高くなる。
その上複数で木を振り回したり投げつけてくるのでティタンが複数の場合は森から離れ投げられる物のない場所で戦うのが定石らしい。
僕達の逃げる方向は精霊が光を魔法でだして地面を照らし教えてくれるらしい。
そんな説明を受けてからサラサの指示に従って僕を囮とする為ヘレンは森から離れるが、ティタン以外の大量の魔物も僕を追いかけてくる。
だがその魔物は森の外でティタン相手に戦っていた大森林の魔獣達の魔法や固有能力で駆逐されていく。
自分への攻勢が薄れたティタンは僕とヘレンの方に移動を始めた。
倒れていたティタンはすでにヒビキの力によって手足をもがれ動けなくなっているので向かってくるティタンは六体だ。
ティタンが走ろうとするとアースがティタンの踏み出した先の地面を操作し転倒を狙う。
一匹転倒させる事に成功した。成功しなかった五匹も警戒するように走るのを止め、アースを見ようとしたがすでにそこにアースはいない。アースは自分の足元の土を動かし高速移動してしまったのだ。
逃げたとはいえアースのマナの量は他の魔獣と比べても比べ物にならない位膨大だ。感知をされたらすぐに居場所がわかる。
ティタンもアースのマナを感じているのか視線をアースの方へ向けようとしたので僕に注意を引くためにフレイムランスを使う。
フレイムランスの着弾の前に炎熱操作で温度を上げティタンの殻の表面を焼き焦がした。着弾の瞬間に派手に見えるように魔法の光もはじけさせておいた。
初めて使ったけどなかなかうまく行ったのではないだろうか?
ティタンは目論見通り僕の方に顔を向けてきた。
「さあ来い! ここに人間がいるぞ!」
ヘレンにしっかりと捕まって逃げの態勢を取る。するとヘレンが速度を上げて精霊の教えてくれる逃げ道を進む。
再び走り出そうとする所をアースが邪魔をし、アースが注目される前に僕が攻撃し注意を引く。
これをもう一度やってみたが三度目は僕の攻撃では気を引くことは出来なかった。
アースへの脅威度が人間への殺意を上回ったのだろう。アースには逃げに徹してもらい僕が攻撃に回る。
他の魔獣達も攻撃に回ってくれたおかげでまた一体転倒させる事が出来た。
しかし、ヒビキは今アースに乗っていて一緒に逃げているから倒れているティタンに攻撃する余裕はない様だ。
ナスとゲイルはティタン以外の魔物を相手にしている。
「サラサ、倒れたティタンに攻撃を通せる魔獣はいる?」
「ナス達以外だと出来るのは休憩中で今はいないわ」
「じゃあ僕がやる」
「分かった。気を付けてね」
とりあえず太ももの辺りを狙ってフレイムランスを使う。
しかし、僕が攻撃していると僕を狙ってくる個体が出てきた。そのティタンの攻撃を避けるのはヘレンに任せ僕は攻撃に集中する。
途中ティタンが魔法を使う気配を感じたのでフォースバリアの準備をし、魔法の発動に合わせてフォースバリアを展開し魔法を吸収、フォースで反撃をする。
訓練で使った事があるが訓練の成果が出たのか上手く受け止められた。反撃で出たフォースはきちんと制御が利くので全てを僕が狙っていたティタンの傷口に当ててみる。
今使って気づいたが殻を破壊した後は別にフレイムランスじゃなくてもいいのか? いや、破壊するなら結局炎熱操作で温度を上げて焼き切る方が効率がいいか。
フォースがどれくらい効いているのかも遠目からだと分からない。かといってさすがに他の魔物に反撃のフォースを当てられるほど他の魔物に気を回す余裕は僕にもない……か。
フォースは魔獣にも痛みを与える事を考えるとどれくらい効いているか謎だが倒れているティタンに使った方がましか。
そして、どれくらい時間が経っただろう? 戦い続けてさすがに走って来た疲労が瞼を重してくる。
倒れたティタンの足を焼き切る事に成功はしたがあいかわらず残りのティタンは健在で僕とアースを執拗に狙ってくる。
シエル様に後どれ位で着くのかと確認を取ると三十分はかかると返って来た。
次にサラサに魔獣達の被害状況を聞いてみると痛ましいことに大森林の魔獣に死者が出てしまったようだ。
疲労してきた所に魔物の攻撃を受けてしまったようだ。
その報告に瞼の重みも感じなくなり身体中が張って来るのが分かった。
怒りや悲しみや恐怖がないまぜになって強張っているんだ。
「その魔獣の名前は分かる?」
「分からないわ」
「……そっか」
落ち着け。ナス達はまだ余裕がある。
ナスは今は休むために後方に下がっている。
ゲイルはナスと同じところにいる。
アースは逃げていてヒビキはそんなアースに乗って追ってくるティタンに攻撃を当てている。
ヘレンは言うまでもなく僕を乗せて逃げてくれている。
アースとヘレンの体力はまだ余裕があるようで一日中は走れると教えてくれる。
あと三十分。これ以上犠牲が出ないよう祈ろう。