自己満足
全ての魔物を倒し移動を始めた所で魔獣達側の異変に気が付いた。
「大型が複数ナス達の方に向かっているらしい」
「ティタン?」
「うん。魔獣達は追いつかれる前に兵士達を逃がそうとしてる」
「私達も急ごう」
「待って。ティタンは後どれ位でナス達のとこに着くの?」
アイネの問いに魔獣経由で確認を取る。
「一時間くらいだって」
「ねーちゃんだけだとナス達の所までどれくらいかかりそーか分かる?」
「……僕なら走って二時間……かな」
「となるとワタシがいるともっと遅くなりますネ」
「あたしが時間を目一杯止めるからその間にねーちゃんだけでもせんこーするのはどーお? その場合あたしマナが無くなるから後から追いついてもあんまり戦えなくなるけど」
「僕だけ先に行っても……」
「逆だよ。ティタン相手じゃ私とアイネちゃんは邪魔になるつもりは無いけど役に立つ事もあんまりない。
ミサさんもティタンの前に出すのは心配となると役に立てるのはシエル様の神聖魔法を使えるナギしかいないの。
戦うにしろにナス達を連れて逃げるにしろ私達は役に立てない」
「……アイネはどれぐらい時を止められる?」
「五分位かな」
「僕が倍速くらいの速度で走れる程度に時を遅くするだけなら?」
「三十分はいけるよ」
「意外といけるね」
固有能力でも時間を操るのはかなりマナが必要だと聞いてるけど。
「一時間は無理だけどね……」
「だったら私がアイネちゃんにマナを全部渡すよ」
見た所アールスの今のマナは今のアイネよりも多く残っている。これなら確かに全部渡せば一時間分のマナを確保できるかもしれない。
けれど……。
「全部は駄目だよ。この後も魔物に会うかもしれない。念の為に戦うだけのマナは残しておいた方が良い」
「むー。まぁそうだね。時間もないし早速やっちゃおう」
やるのは決定なのね。
アールスがアイネの手を取りマナを譲渡する。譲渡するマナを見てみるとアールスのマナが繋いだ手の所からアイネに吸い込まれていく。
ハーベスト・スプリングを実際に使う所を魔眼で見るのは初めてだけどこういう風にマナを渡しているのか。神聖魔法なしに再現するのは無理だな。
「ん。これなら五十分くらいはいけそー」
「アイネもちゃんと残しておくんだよ?」
「分かってるって。残して五十分くらいだよ」
「それならいいけど……僕が走りだした後は皆は念の為に北に避難する事。僕の事を追いかける事は絶対にしないで」
「まぁそれが良いでしょうネ。ワタシの足では神様が来るであろう時刻までに追いつく事は出来ないでショウ」
「悔しいけどマナが減った状態で魔物の群れにあったら危ないからね……アイネちゃんもそれでいいよね」
「むー……ここまでかぁ。もーちょっと力試ししたかったけど」
「ミサさん。二人の事お願いします」
ミサさんはまだマナを使っていないし精霊二人もついている。頼りにするならミサさんだろう。
「任せてくだサイ」
「じゃーねーちゃん走って。走ってる間にやるから」
「分かった」
「ナギ、絶対の絶対の絶対の絶対に無事に帰って来てね」
「うん。約束する。皆も気を付けて」
そして魔獣達にもこの事を伝え皆魔眼を発動させるように伝えた後、僕は魔眼を発動させたまま走り出す。
僕が行く事にナスとアースから怒りの感情と伝わって来て、さらに来るなという言葉を僕のマナで書いて伝えてきた。とりあえず無視だ。
すぐに空気が重くなり速度が落ちるような感覚がする。実際はそんな事は無いのだけれど僕の主観では遅くなっている。マナを動かし動きやすいようにする。
時の流れが元通りになるとようやく戦いの音が聞こえて来て、皆がいる方向の地平線が光っているのを確認できた。
まだ魔獣達とティタンの戦いは始まっていないが間に合うだろうか?
一度立ち止まり呼吸を整える。着くまで後二十分ほどだろうか? 体力にはまだ余裕がある。
緊張はしているけれど身体が動かない程じゃない。大丈夫だ。戦える。
兵士さん達は離脱する準備を進めているらしい。ティタンが数匹来られたらさすがに敵わないと判断した様だ。
魔獣と精霊達は十分足止めをした後解散するよう指示を受けている。だとすると僕もそれに倣って動けばいいだろう。
人間である僕が囮になって時間を稼いだ後魔獣達と一緒に逃げる。
神様がこの星に来るまで後二時間ほどだとシエル様から教えてもらっている。
この星に来ている神様はツヴァイス様とシエル様、それにルゥネイト様の三柱だ。
まずは東の大軍の所に降りてその後どう動くか決めるらしい。
地上に影響が出ない程度の力で倒せればすぐに動けるらしいが、降臨後どれくらいでこちらに来れるかは今は分かっていない。
最善なのはティタンを倒してしまう事だけれど、さすがに複数いるのなら楽観視は出来ない。
やはり逃げる事を前提に考えた方が良いに違いない。その場合僕はヘレンに乗って逃げるのがいいだろう。
ナスの方が速いけれどいくら休憩有りでもほぼ一日戦っているナスも疲労しているに違いない。
アースはヒビキを乗せているのでもしも僕がアースに乗った時にアースがやられたらヒビキも危険になる。被害を分散させると考えたらやっぱりヘレンがいい。
着いた後の大体の事は決まった。僕はヘレンに乗ってなるべく時間を稼ぎつつ魔獣達の撤退する為の支援をする。これだ。
休憩を終えてもう一度走り出す。
そして約二十分後、僕が魔獣達のもとに着いた頃にはティタンとの戦いは森の外の草原で始まっていた。
僕の気配に気づいたのかティタンは動きを変え僕の方に向かおうとしていた事を道中ナスから教えてもらっている。
報告によるとティタンは八体。魔獣に集中できていないティタンは魔獣達の攻撃に八体の内二体は地面に転がされている。
そこにナスがサンライトを使い、サンライトの光に沿ってヒビキがフレイムランスを当てていた。
ヘレンを見つけ空駆けを使いヘレンの背に乗る。
「ヘレン。背中借りるよ」
「これからどうしたらええ?」
「とりあえず変わらず神様がやってくる時間を稼ぎつつ僕達以外の魔獣達も含めて全員いつでも逃げられるようにする。被害を出さない事が理想だ。ティタンは僕を狙ってくるだろうけれど走れる?」
「大丈夫!」
「頼りにしてるよ。僕も気を付けるけれどヘレンも投擲に気を付けてね」
「水の壁作る?」
「いや、動けなくなるのは怖い。壁は作らないでおこう」
今回ティタンは複数いる。壁を作った後動けないのに囲まれたら危険だ。
周囲を水で囲んだとしても戦いっぱなしであるヘレンが囲まれた後、水の壁を攻撃され続けたらどれだけ集中力が持つか分からない。きっとそんな状況だったらヘレンじゃなくても集中力は持たないだろう。
「ナギ、本当に来てしまったのね」
耳元でサラサの声が聞こえてくる。サラサの姿は上空にある。
「うん……正直自己満足だけど来なかったら僕は自分の事を許せなくなる。だから来た」
「気持ちは分かるわ。同じ立場だったら私も同じ事するもの。レナスだけ戦いの場に居させるなんて出来ないわ。
とりあえず私が指示を出しているから従ってね」
「うん」
「とりあえず皆無事に時間まで耐えるなり逃げるなりでいいのよね」
「そうだね。神様が降臨するのは後二時間くらいのはずだ」
「といっても遅れるかもしれないしあまり信用し過ぎても危険ね。ティタンの数は減らす。皆無事のまま時間を稼ぐならこれは絶対にやらないといけない事よ」
「そうだね」
「という訳でティタンを転倒させるためにナギには囮になってもらうわよ」
「あの二体はどうやって転倒させたの?」
「魔獣達が頑張ったのよ。地面の土を盛り上げたり足を上げた所に一斉攻撃したりね」
「なるほど……ヘレン。行くよ」
「くー!」
ちなみにレナスがいたら村に行く事すら反対されてナギはグランエルまで強制連行されます。