人間の可能性
さて、固有能力を共有出来て使える力が増えた。
攻撃に使えるのは雷霆に炎熱操作と液体固定の三つ。
魔物が来る方向には何もないから雷霆も炎熱操作も使えるだろうけど、魔獣達にも伝えたようにいきなり慣れてない力を使うのはやめておいた方が良いか。
そうなると使えるのはサンダー・インパルスと液体固定くらいか。
液体固定なら絶対に壊れない武器や防具が作れるけれど……。
「ミサさん。どんな魔物かは分かりますか?」
「さすがにそこまでは分からないそうデス」
見た目は分からないか。
海からやってくる魔物はティタン以外だと三種類いる。
岩の魔物と水の魔物、半魚人の様な姿になり水中に適応し強化されたオークだ。
オークは水中に適応してしまって地上での動きが鈍くなり普通のオークより戦いやすいと授業で習った。
問題なのは水の魔物、中級のウェイターだ。アースにはあまり効かない様だったが水の身体を伸ばし鞭の様に行ってくる殴打は相応の鎧が無いと人間の骨なら簡単に粉砕するほどの威力がある。
僕達の身に付けているトラファルガーの鱗を使った鎧なら粉砕される事は無いだろうが当たりたくはない攻撃だ。
おまけに電気の攻撃は通じないどころか逆効果になる。
ウェイターは核が魔素の塊なので電気で破壊できないし帯電させてしまう危険がある。
熱で水を蒸発させたとしても蒸発し始めるのは核以外の所からで、その水蒸気をすぐに集めてしまうため無意味どころか高温の水蒸気を纏い直し攻撃してくるようになる。
水の魔物を倒すだけなら核を散らせばいいだけなのだがそれをするには水の鞭が脅威になる訳だ。
もっともフォースなら簡単に倒せる事をナス達が今現在証明してくれているのだが。
魔法はフォースバリアで守ればいいだろう。
マナは足りるだろうか? 今使えるマナは僕のマナだけで、時間止めで半分ほど使っていてまだ回復しきっていない。
水の魔物はフォースでいいが他の魔物だとフォースだと火力不足かもしれない。
でもそれでも固有能力で使う能力はほとんどマナを使わないから攻撃面では問題ないか。岩だろうとオークだろうとサンダー・インパルスは効くはず。
守りに関してフォースバリアは消費は五十とそこそこ消費が高い。現状だと四十回が限界だが他の事に使ったりと実際はもっと少なくなるだろう。
だがその問題は精霊達の存在で解決できる。精霊のマナさえあれば大体の魔法は防げる。フォースバリアを使う機会は少ないだろう。
「とりあえずいつも通り敵の魔法は精霊達に守ってもらおう」
「魔獣達がいない分使えるマナが少ないけど大丈夫?」
「そこは大丈夫。水の魔物なら消費の少ないフォースで十分だし、他の魔物だったらそもそも僕の魔法がどこまで通じるか疑問だからね」
「水、岩、オーク全部いるって考えておいた方がいいよね。いつも通り最初にエクレアの魔法でドカンと一発大きいの当てて残った魔物に対処するでいいと思う。
水はナギに任せて残りは私とアイネちゃんが倒しちゃった方が良いかな」
「そうだね。それでいいと思う。マナを節約できるならそれに越した事は無いよ。ただ岩は僕に任せて欲しいかな。岩ならサンダー・インパルスで対処したほうがいい」
「ナギがそう言うのなら。相手の方が多くても何とかなりそうだね」
「精霊の存在はやっぱ大きいよ」
精霊こそがアーク王国が魔物に負けず発展を遂げる事になった重要な存在なのだ。
「光は僕が用意するでいいかな?」
「いえ、ワタシが用意しまショウ。ワタシよりアリスちゃんの方がやれる事が多いですカラ、アリスちゃんはマナを少しでも温存するべきデス」
「そうですね。分かりましたそうしましょう」
雷霆のお陰でマナの消費は大したことないがミサさんがやってくれるなら任せよう。雷霆の光を操る効果範囲は広い訳じゃないし。
「光源があると言っても明るく出来る範囲は限られている。暗闇からの攻撃も十分考えられる。なるべく暗い所には近づかないようにしつつ注意するように。
水の魔物には絶対に近づかないようにね。
それと岩もオークも地上とは違う動きや攻撃をしてくるらしいから倒す場合はこっちも注意。水中に適応したオークは地上では遅いらしいけど力の強さと硬さは地上のよりも上で、岩の方は動きが速い個体もいるっていう話だからね」
注意を促すと三人共頷いた。
「何か質問はある?」
「ナス達の方はどうなの? 私達の援軍はいりそう?」
「そっちは大丈夫」
「ナス達いどーしてるんだったらあたし達もそろそろ近くにいどーした方が良くない? それともここでしゅーちゅーしてたほーがいい?」
「そうだね。終わったら移動しようか」
固有能力が進化した今村で集中する必要は薄い。魔獣達を助けるのならなるべく近くまで移動した方が良いだろう。
「暗い中歩くのは危ないけど魔獣達との距離感は僕が分かるから近づきすぎるって事は無いと思う……」
「オット。そろそろお話は止めまショウ。魔物が限界まで近づいて来てますヨ」
ミサさんが話を遮る。ここいらで話し合いも限界か。
「……よし。皆行こう」
村の南側入り口には獣除けの防柵がある。本来はそれを当てにして戦おうと思っていたが二十体程度の魔物にそれを壊されるのはもったいない。急いで向かわないと。
村を駆け抜け防柵を超えて魔物達の元へ向かう。その道中で僕の固有能力も進化した事とまだ共有した固有能力を実戦で使う気はない事を伝えておく。
そして暗さもあってまだ魔物は見えていなかったがアロエの合図と共にミサさんが先制の一撃を放った。
エクレアの雷は音はアロエが防いでくれるが光は目を閉じる事で防いだ。
目を開けると辺りが光で照らされていた。ミサさんがライトを使ってくれたようだ。光源が僕達の後ろにあるので眩しくなく明るさにすぐに慣れる事が出来た。
魔物を確認するする為に僕が目を凝らすとほぼ同時にアールスとアイネが動く。
急いで確認するがウェイターの姿は見つからない。残っているのはオーク数体と小さな岩の魔物ゴーラムだけだ。
大きい破片もあるからゴーマもいたようだがエクレアの一撃で倒せたのだろう。とはいえ核が破壊できていないと倒せたとは言えないので警戒は必要だ。
「二人ともゴーラムには近づかないように!」
全てのゴーラムめがけてサンダー・インパルスを放つ。
前に魔法で再現した事があるけれど扱いやすさが全然違う。電気がマナを介さなくても僕の想い通りに動く。さらに当たれば電圧や流れ……磁場も操れる。
僕にもっと知識があればいろんな事が出来たもかも知れないが僕の電気に関する知識は高校生までで止まっている。得意分野でもないから記憶を思い出せても理解が追い付かない。これぞ宝の持ち腐れか。
シエル様に教えてもらおうか? 自分の記憶を基にするまでなら神様の叡智を頂いてもギリギリセーフかな? ……念の為止めとこ。神様から知恵を借りられたなんて他の人間にバレたら後が怖い……手遅れな気もするが。
神は利用すべきではないのです。
……なんてアホな考えを巡らしている間に全てのゴーラムにサンダー・インパルスが届いた。
絶縁性は無いようで問題なく帯電させる事が出来た。ここからさらに量と圧を増やし一気に破壊する。
自分の生み出した電気なら無制限に増加できるのが雷霆の最大の強みだ。
アールスとアイネもオークに斬りかかりあっという間に二体が倒れている。残りは四体か。
前情報通りオークの動きが鈍い。
水中に適応したオークには足の指の間には大きな水かきがあり握られていてわかりにくいが手にも水かきがある。
肌は鱗に覆われ、背には背びれがありそれは頭頂部まで続いていてまるっきり半魚人のような恰好をしている。
半魚人のようなオークは本当にあっという間にアールスとアイネに切り伏せられていく。
「ミサさん。あの二人ってやっぱり魔獣いなくても強いですね?」
そう問いかけながらウェイターらしき魔物の核を見つけたのでフォースで消しておく。念の為数個フォースを待機させておこう。
「分かっていた事デス。ワタシだって普通のオークと戦った事がありますカラ、ワタシよりはるかに強いあの二人がこの状況で手こずる事はありませんヨ」
「人間の可能性ってすごいなぁ……」
数年前まではオークに人一人が挑んで勝てるのかと疑問だったがあの二人なら楽にやってのけられるだろうという確信が今ならある。
「いずれ神の力を必要としない時が来るのでしょうカ」
「分かりませんが、神様はそれを望んでいると思いますよ」




