魔獣王
本日は二話投稿します。今話はその一話目です
繋がった。
オラクルで下された神託を受け取ったと同時に僕と魔獣達が今まで以上に深く強く繋がった事が分かった。それこそどんなに遠く離れていても本当にすぐ傍に居ると感じられるほど。
感情だって伝わってくる。皆突然の変化に驚いているようだ。
《魔獣の誓いは魔獣王へ進化しました。これにより魔獣との固有能力の共有されました》
固有能力の共有か。僕のとナスの魔眼、自動翻訳を内蔵した魔獣王が共有されるならかなり有利になるな。
魔獣達も戦いの最中もあってかアースが活を入れてくれたおかげで落ち着きを取り戻している。
とりあえず能力の進化については後回しだ。魔獣達の方に集中しよう。
集中してみると魔獣達に迷いが生まれている事に気が付いた。どうやら使えるようになった固有能力をどう使おうか悩んでいるようだ。
今は慣れない力を無理に使わなくていい。そういうのは余裕のある時にやればいいんだ。自分の力を信じるんだ。
そう伝わるように念じてみると魔獣達の中にあった新たに得た力への迷いが消えたような気がする。
魔獣達が落ち着きを取り戻した事で動きが戻った、いや、さっきまでよりも明らかに良くなっている。
互いに何をして欲しいのか分かって無駄な動きが減っているようだ。
おまけに兵士さん達や他の魔獣、精霊達とも言葉が通じるようになって連携が取れるようになっている。
これなら神様が来るまで時間稼ぎが出来るに違いない。
「ナギ、こっちにも来たって偵察に出てたアロエから連絡来たよ」
「ついに来たか」
閉じていた瞼を開けて意識をこちらに戻す。
途端に魔獣達との繋がりが薄れた感覚がした。集中が途切れると繋がりも弱まるのか。
もう一度集中しこちらの状況を伝えておく。
心配しない様にと伝えてからもう一度意識を戻した。
「数は?」
「小中合わせて二十匹来てるみたい」
今はもう夜だから目視で数えた数ではないだろう。となると音で判断したのかもしれない。アロエは風の精霊だ、空気の振動を感じ取るのは得意だ。
「そうか……」
東西に兵士さん達が分かれ逃走した時点で遅かれ早かれルルカ村に来るのは分かっていた。
生き物に引き付けられないくらい離れた後続がいた場合北上してくる可能性は非常に高かった。
出来るだけ引き付けていたとしてもこぼれ出る魔物は出てくるという事だ。
皆が周囲にいる事を確認してから皆に問いかける。
「いまさらだけど皆、正直これは戦わなくてもいい戦いだ。一文の得にもならないし戦った所で感謝される事もない。これから魔物が増えるかもしれないし逃げたっていい。
でも僕は自分の感傷の為に戦う。魔獣達を危険な場所に送り込んでおいて自分だけ安全な所にいる事は出来ない。そんな事をしたら自分が自分を許せなくなる。
だから……僕は戦う。けれど皆はそんな僕の戦いにはついてこなくていい。いや、むしろ皆逃げてくれ」
大型がいないのなら村が荒らされる事もないから守る必要もない。
「ミサ、ナギもこう言っているし逃げましょう」
「逃げませんヨ。危なそうならアリスちゃんを無理やり連れて逃げますガ……今ここで二十体程度相手に逃げるのはゼレ教徒としてありえまセン」
ゼレ様の教義ってそんなに好戦的だっただろうか? けれど建前ではなさそうだ。本気で戦う覚悟を感じる。
「あたしも逃げる気はないよ。ねーちゃん置いて安全な所に行くなんて出来ないし、いーかげん魔物と戦いたいんだよね。前のオーゲストもどきじゃ物足りないよ」
アイネは訓練で見せるような凶暴な笑顔を見せてくる。
「ナギ、死ぬ気?」
「僕は皆を迎えに行かなきゃいけないんだ。だから死ぬ事は出来ないし許されないと思ってる」
自分への罰として戦おうとしているのに死ぬ事は許されないだなんて我ながら矛盾しているなと思う。
ただここで逃げる事を考えるだけで吐き気が出てくる。
「自殺行為じゃないんだね。だったら私も戦う。いい加減私も魔獣達に頼らない魔物との戦いを経験したかったんだよね」
「……皆意外と好戦的だね」
「魔物との戦いから逃げるのは命を守る時だけ、ゼレ様もそう言っていましタ」
「あたしの事は昔っから知ってるでしょ?」
「ついでに私の事もね」
信者に戦闘狂に復讐心か。誰も引かなそうだな。
レナスさんやカナデさんがいたら変わっていただろうか?
なんにせよ危険に巻き込んでしまった僕はまとめ役失格だな。戻ったらまとめ役を降りよう。