最低条件
アースとヘレンのお陰で一番南端の村まで一日で来れた。
道中僕の感知に引っかかる物は無かった。
夜寝ている間に僕達の追いつけない所まで移動してしまったか、それとも途中で方角を変えてしまったのか。
どちらかは分からないが目的と思われる地下に魔物がもういない事を願おう。
……もしかして見つからなかった場合は新たに自分がオーゲストのような大型の魔物になる為に地下に潜るよう命令されてる?
もしもそうだとしたらもう見つけられないかもしれないな……。
状況が変わったのは周辺の探索を初めて初日のお昼になった頃だだった。
東の壁が崩れ、ついに前線基地の維持が不可能になったとの連絡がアイネの精霊を通して伝わって来た。
軍の前線からの後退に伴い冒険者達は一旦都市に戻るよう命令が下った。
壁が崩れた以上どこにいるか分からない魔物の動向を調べるよりも戦力を少しでもまとめる事が目的の様だ。
さらに、どうやら神様に頼る事に決めたようで祈るよう要請が来た。
祈りに決まった形は無く、頭の中でひたすら自分の信じる神様に助けを求めればいい様だ。
シエル様に聞いてみると生活の邪魔にならないようにという配慮の様だ。
ただ今から祈ったとしても神様が来れるのは三日はかかるとの事。さらに言うと派遣されるのはシエル様だけらしい。まぁ全員が来ても過剰戦力だとは思うが。
他の皆にも伝えておいて祈ってもらいつつ僕達はこれからの事を話し合う。
基本的にはグランエルに戻る事になる。問題は帰路だ。
進路上にある村以外には立ち寄らず真っ直ぐ急いで戻るか、疲れを残さないように街道沿いに進み村で休みを取れるようにするか。
この二つの内後者の案にアイネが自分の要望を出してきた。
それは今いる村からグランエルの真南までずっと西に向かおうという物だった。
後三日で神様が来るかもしれないとなると北の魔物の大軍はどう急いでもグランエルに辿り着くのは不可能だ。大軍のいる場所は宙雇わず走った所で三日で着けるほど近くない。
そうなると僕達にとって心配なのはナス達だ。
アイネはなるべく早く助けに行けるように南の街道を行こうというのだ。
正直僕もその案は考えていた。けれど皆の身の安全を考える身としては言い出しにくい案だった。
大森林が危険な以上まっすぐグランエルに戻るか北の街道に出てジグザグにグランエルに戻る方が無難な選択なのだ。
「皆はアイネの案どう思う? アース達とエクレアたちの意見も聞きたい。言っておくけれど一人でも反対したら却下する」
全員に問いかける。
「私は賛成! ナス達の事見捨てられないもん!」
「ワタシも賛成デス。ふたりが戦っているというのに何もせずに帰りたくありまセン」
「わ、私もゲイルが心配だから賛成!」
アロエはゲイルと仲がいいから反対はしないか。
「その質問に答える前にナス達のいる場所はここからどのくらいあるの?」
「急いでも二日の所、ルルカ村の南だよ」
「着いたとしても積極的に助けに行くわけじゃないのよね?」
「そうだよ。助けを必要としていないなら行かない。これだけは絶対だ」
「私の予想と同じね。私もナス達に死んでほしい訳じゃない。ミサの意志と安全を天秤にかけた時の妥協点と合っているわね。だから反対はしない」
「よく分かったよ」
「くー」
「ヘレンはナス達を助けたいんだね」
続けて静かにしているアースに視線を向ける。
するとアースは僕に近寄って来て口を開けたと思ったら僕の顔を舐めてきた。
「え、なに」
「ぼふ。ぼふぼふ。ぼふ……ぼふ」
「え、あ、アース本気?」
「なんて言ったの?」
「えと……近くまで行ったら僕達と別れてアースも大森林に行くって」
そして、万が一の時レナスさんの事はヘレンに頼みなさいと言った。
「そっか! アースも行ってくれるなら安心だね!」
「くー? それならわっちが行く」
「えと、ヘレンが自分が行くって言ってるけど」
「ぼふんぼふん」
「大森林に言った事無いヘレンは駄目だって」
「くぃーん。アースより、わっちの方が向いてる」
「ぼふんぼふんぼふん」
アースはヘレンに近寄り角でヘレンの事を小突いた。
「お姉さんに従いなさいだって」
「くぃー……」
でもたしかに一匹で行動させるなら素直でまだ世間知らずなヘレンよりは捻くれた所があるアースの方が安心できる。
それにアースなら逃げる判断を間違えないだろう。
「とりあえずこの話は後でにして、最後にヒビキ。ヒビキはどう思う?」
ヒビキは僕達の中で一番精神が幼い。果たして今の状況とこれからする事を理解しているだろうか?
「きゅー……」
「……そっか、ナスに会いたいか」
会いに行くんじゃないんだよなぁ。
気持ちは分かるが一から説明し直さないと駄目だな。
そして、根気よく説明をしたのだけど結局ヒビキの答えは変わらなかった。
どんなに遠く離れていてもマナを共有していればナスとゲイルが今何をしているか感じ取れる。
マナの減り方で分かる。戦っているんだ。
西を目指し出発する前から一日経った今までナスとゲイルはずっと戦っている。
本当なら僕も参戦したい。けれど立場を考えると僕が勝手に前線に行ったら不味いんじゃないか? とか、物資を余分に使う事になって邪魔になるんじゃないか? といった言い訳ばかりが出てきてしまう。
ふたりとの距離が近づいて行くにつれて駆け出してしまいたくなる気持ちが強くなっていく。
幸いなのは今朝ようやく神様に祈りが届いてシエル様の分体が今こっちに向かってきてくれているという事か。
そして昼、ナスからナス達のいる場所の前線が崩れて兵士さん達が撤退した事を伝えられた。
ナスからの文字の連絡を読み終わると僕は思わず駆け出してしまった。
けれどすぐにアールスに捕まった。
しかもその際に倒れて地面に顔をぶつけてしまった。お陰で少し冷静に慣れた。
少しは考えられるようになった頭でナスからの連絡をアールスに伝える。
「なるほど、とりあえずナスやゲイルの状況を確認する余裕はある?」
「……ゲイルの方は大丈夫みたい」
「じゃあ軍と軍が撤退した後の魔物の動きを教えてもらって」
「分かった」
ゲイルと連絡を取り合い分かった事、それは今魔物が二手に別れ撤退していく兵士達を追いかけている。
そして魔獣達は兵士達の撤退を助けるために魔物へ果敢に攻撃を仕掛けているらしい。
「……その動きは多分兵士達が魔物を引きつけつつ東と西の別部隊と合流するつもりなんだと思うよ」
「わざわざ二手に分かれて?」
「魔物は生物を追うからね。北上させないために一つの基地が崩れたらそうするように決まってるの」
「そうなんだ……」
「その思想もあって都市の真南にある基地は都市を守る為に周辺の基地と比べて魔物を集中させないために人員が少ないんだよね」
「それって基地が落とされやすくなって本末転倒な気が」
「他の所に戦力を回して他の所の戦いを早く終わらせる為でもあるから……それにそこに配置されてる人は逃げるのが上手いか防衛が上手い人たちのはずだよ。いわゆる精鋭だね。
もしかしたら他の所の戦いが終わったから撤退を始めたのかのしれないね。
今私達人間が無計画にナス達の所に行くと引き付けに失敗して軍の邪魔になっちゃう可能性があるよ」
「……状況が分かるまで何もしない方が良いって事か……」
また僕は何もできないのか。
「そう……なるね」
「……だとしたら僕はいつでもナス達を助けに行けるようにルルカ村で待機する。ルルカ村でも大森林までは遠いけど……」
そもそもそのルルカ村まで急いでも一日はかかる距離だ。
「……アース、ヘレン、ヒビキに行って貰おう」
「え?」
「魔物に狙われない魔獣なら近寄っても問題ない。なら、皆にナス達を助けてもらうんだ」
「それだと私達の方に魔物が来たら危ないと思うよ?」
「僕達の方に魔物が来る状況はナス達の方がもっと危ない状況だよ」
もしくは考えたくないが手遅れという状況か。
魔獣達にだけ危ない場所に行かせるんだ。アールスのいう危険に関しては僕だけがルルカ村に残ればいい。
そして、それをしたところで魔獣達を送り出してしまう僕の罪を償う為の罰にすらならないだろう。
僕がルルカ村で待機するのは軍の邪魔をしない為の最大限の妥協であり魔獣達を送り出す為の最低条件だ。
設定を確かめるために少し読み返したところとんでもないミスが複数見つかりました
1、ホーリースフィアの名称は最初はホーリークレイドル
2、サンクチュアリの維持の設定の食い違い
3、ライトシールドと差し替えた魔法を完全に忘れていた
1の名称の違いはそもそもクレイドルの名前が出ているのが一話だけなのでホーリースフィアで統一します
2の設定の食い違いは北の遺跡で その5で維持にもマナが多く必要とありますが少ないの間違いです
3の魔法に至っては忘れていた上に一話の中でしか出ていませんがフォースバリアとフォトンバリアと同じ話の中でも間違っていました。フォースバリアで統一します
1と2はこの話が投稿された時点で修正済みです
3のフォースバリアに関しては加筆するか話題には出ていなかったけれど実はきちんとやる事やっていた事にしてスルーするか迷っています
加筆の場合は読み直さないと話が通らなくなるでしょう
しかし、一応加筆に対する反対意見が無ければ加筆にしようと思っています
この件に関してご意見ご感想待っています