開戦
「まとめ役としての判断は魔物のせん滅をする。異論は?」
皆の目を見るが特に異論はなさそうだ。
「理由としてはミサさんとアールスの懸念通り他の魔物と合流されないようにっていうのと、何が目的であれせん滅しておけば魔物の目的を防げる。
少なくとももう地中の魔物と合流されている以上これ以上魔物に何かされるのはよろしくない。
それになにより、地中の魔物が目的だった場合かなりの感知力を持った魔物が探しているはずだ。
効率よく探すなら僕以上の感知力を持っていてもおかしくない。
けど、今の所魔物達はこちらに気づいてる様子はない。本当に気づいてないならいい。
もしも気づいていないふりをしているなら……僕達を無視してまで何かを優先しているという証拠だと思う。
その場合僕達は魔物が目的を遂げる前に止めるべきだと判断した」
「……うん。確かにナギの言う通りだと思う。無視されない事より無視されてる方が怖いね」
「じゃー急がないとね」
「初手はミサさん精霊魔法をお願いします。魔素が濃そうだったら足止めと魔素を消耗させる事を優先で」
精霊魔法の大火力で相手の濃い魔素を消耗させるのは一般的な対処方法だ。今回は発見した時には距離があるので足止めの出来ないサンライトでマナの道を作るより攻撃が通る可能性も考慮して精霊魔法で足止めを狙った方が効率的だろう。
「分かりましタ」
「倒しきれなくて接近されたら大型はアイネが相手をしてアールスはアイネを援護で」
アイネには時を止められる固有能力がある。一撃が怖い大型相手ならアイネに任せアールスには周りの魔物を担当してもらうのが適任なのだ。もちろん危ないと感じたら僕も時を止めて助ける。
「ふふん。あたしに任せなさい」
「アイネちゃんはしっかり守るから」
「うん。レナスさんとカナデさん、ナスとゲイルがいないから訓練通りとはいかないだろうけど頑張ろう。
ヒビキも頼りにしてるよ」
「きゅ? きゅ~……」
僕の腕の中で眠たげにしていたヒビキのくちばしの下辺りをくすぐる。
すると気持ちよさそうにくちばしを上に向けた後ぱちりと瞼が開き目がまん丸になった。
とりあえずしっかりと起きてくれたようだ。
「ヒビキ、魔物と戦うから寝ちゃ駄目だよ」
「きゅっ!」
元気よく返事するヒビキを抱いたまま歩く速度を上げる。
今の速度だと魔物達が目視できる位置にまで追いつくのは一時間といった所だろうか。
しかし、その予想はどうやら早まりそうだ。
十分ほど追いかけた所で魔素の塊が僕達の方に動き出したのを感じた。
「皆、魔物が僕達の方に動き出したよ」
「気づかれた?」
「もしくは元から気づいててこれ以上追わせる気が無いのかも。なんにせよ予定より早くぶつかるから覚悟しておいて」
「了解」
もしかしたら足止めが目的で先に行く魔物がいるかもしれないけれど……今はそれを気にしている余裕はないか。
まずは一戦。どれだけやれるか……。
戦闘の幕はこちらの予定通りミサさんによる精霊魔法で開かれた。
魔物はオーガとオーゲストの中間の様な大型の魔物が大中小様々な大きさの岩石型の魔物を二十体ほど連れていた。
大型の魔素はオーゲストに迫る魔素の濃さだ。普通の魔法は通らないだろう。
ミサさんはそんな魔物達にアロエの力を使い先制攻撃を仕掛けた。
圧縮した空気をまるで大砲の様に打ち出す精霊魔法は倒す事こそできなかったが魔物達の体勢を崩す事に成功した。
そこにエクレアの精霊魔法を追撃で放ち岩石型の魔物の数を減らす事に成功した。
そして、大型の魔物が動いたのを見てヘレンに水をいつでも固定できるようにと指示を出す。
僕の読み通り大型の魔物は足元の岩石型の魔物を掴みこちらに投げつけてきた。
まだ距離があるので対処は簡単だ。
僕がアイスウォールを使い氷の壁を生み出し、ヘレンが水を操り氷の壁を支える。
ヘレンの動きの邪魔にならないようになるべく少ない水量で投擲攻撃を防ぐために考えたこの防御法は効果があった。
氷の壁は壊れてしまったが岩石型の魔物も氷の壁に当たり砕けた。
大型の魔物は続けて投擲してこようとするがそこにエクレアの雷が落ちた。
雷は魔物を投げようとした方の右腕の肩辺りに直撃し、肩は大きく抉られた。これならもう右手で投擲は無理だろう。
大型の魔物は無事な左腕で頭を守るように掲げ走って来た。
ミサさんはエクレアとアロエの力を使い止めようとするが大型の魔物は止まらない。
「ミサねーちゃんまほー止めて! あたしが行く!」
大型の魔物があと半分という所まで迫った所でアイネが飛び出した。まだ出るには早い気がするが……止める間もなかった。
「ヘレン! 水で大型を止めて! アールスは精霊魔法でアイネの援護を! ミサさん、精霊達は後どれ位魔法を撃てますか?」
「特大のはもう打てまセン。二人共大きいのは後三回、岩石のを倒せる程度のなら二人合わせてあと三十回は撃てマス」
「なら何かあるまでマナの回復を優先してください」
岩石型の魔物は大型の速さについてこれていない。大型を止められれば後は何とかなるだろう。
「ヒビキ、頭狙うんだよ。後アイネに当てないように気を付けて」
「きゅ!」
最初に頭を庇っていたからそこに核があるのかもしれない。
僕が操れれば確実に当てられる。けれどそうするとヒビキは自分の固有能力を使う時が分からず、結果直撃に合わせられず意味のない攻撃となる可能性が高い。距離が遠いのならなおさらだ。
しかも、精霊魔法で魔素が多く減っているとはいえいまだ普通の魔法が通るか微妙な所だ。
「ナギ、サンライト行ける?」
アールスの問いに首を横に振る。
「微妙。サンライトで狙うにしてもまだ少し遠いから動き回る相手に上手く位置を固定したままでいられるか少し不安。
それに下手にサンライトを当て続けて暴れられるとアイネが危険かもしれない。
サンライトはヘレンが動きを止めてからの方が良いと思う」
サンライトでは魔物の足は止められない。確実に足を止めたいのならだれかが足止めに向かうしかなかった。
「じゃあ普通の魔法は駄目か」
「魔素は減らせるけど消費に見合うかどうか微妙だね」
話している内にアイネが大型の魔物の左足にたどり着き槍の横薙ぎの一撃を食らわせる。
時間を操って早く辿り着いたんだろう。魔物も反応できていない。
そしてまさに目にも止まらない連撃で左足首に何度も攻撃をし、足首を完全に切り抜く事に成功した。
「はやっ」
時止めがあるとはいえアイネの仕事の速さに感嘆するしかない。
足首を切り離された魔物が左に大きく傾き倒れそうになるが左手を使い身体を支えようとする。
だけどアイネはすぐにそれに反応し左手を狙いだした。
さらに丁度その時ヒビキのフレイムランスが魔物の頭に襲い掛かったが途中で消えてしまった。
やはりまだ魔素が濃いようだ。
ヘレンの水は質量を増やしてから大型の魔物の方へ水を伸ばしたので今ようやく届いた所だ。
拘束できれば安心してサンライトを使える。
だがその前にアイネが何とかしてしまうかもしれない。
左手首も切ったアイネは拘束しようと動いている水を足場にして一気に首元まで駆け上がってしまった。
「大丈夫か……? いや、アイネなら……」
いつでも助けられるように周囲を確認しつつヘレンの水とは合流しないように気を付けつつ新しい水を生み出し操る。
水を通せばどんなに魔素が濃くてもマナを届かせる事が出来る。
ひも状にしてアイネの近くまで届かせ、水を操り魔法陣を作る。
後はスイッチを入れるように魔法を念じれるように待機しておけばいい。
そんな小細工を僕がしている内にアイネは魔物の首を落としてしまった。仕事が早過ぎる。