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方針

 お昼、歩きながら鉄のように硬くクッソ美味しくないのに癖になって来た非常食を唾液でふやかしながら食べる。

 お行儀は悪いがこれも索敵の為だ。

 他の皆は休憩も兼ねているのできちんと座って渋い顔をしながら非常食を食べている。

 グランエルを出てからこれしか食べてないのでそろそろ舌の味蕾が壊れ始めているかもしれない。

 辛味なら食べた後すぐにヒール使えば痛みが治まるだけど純粋に不味くて舌が馬鹿になった場合は治せない。

 あくまでもヒールは傷ついた箇所を痛みを和らげつつ治す魔法であり、衰えた機能を回復させる魔法ではないのだ。老化を防げないのがその証拠だ。


 手遅れかも知れない舌の話は置いといて僕は歩き回る事で少しでも探索範囲を広げ異変がないかを調べている。

 皆のいる位置から北の方に歩いて行き十分離れた所で時計回りに移動する。

 北の方は特に異変は感じられない。

 東の方に行き南に向かう。すると丁度五時の方向に僅かだが魔素が濃い場所を見つけた。

 見つけた場所は僕の感知範囲のギリギリの所で目で確認できる距離ではない。地平線のはるか先だ。

 濃くなってる場所にマナを少し多く残して方角を見失わないようにしてからまた時計回りに進み南から西、西から元の北の位置に戻る。

 そうしたら皆の所へ戻る。


「濃くなってる所見つけたよ」

「えー? どこどこー?」


 アールスが首を振り探すそぶりを見せるので指で方向を教える。


「あっちの方」

「えーとあっちって事は今があそこで前のとこはもっとあっちだから……前に依頼で調べた場所じゃないね」

「うん。休憩終わったら行ってみよう」

「すぐに行かなくて大丈夫?」

「行きたいけど、皆疲れてない?」

「私は大丈夫!」

「アールスは心配していないが」


 心配してるのは重装備のミサさんと荷物を運んでもらっているアースとヘレンだ。


「むー」


 アールスが頬を膨らませふくれっ面になるが三日三晩眠らなくても元気に活動できる人間をどう心配しろというのか。

 

「あたしはへーきだよ」

「ワタシも平気デース」

「ぼふっ」

「くー」


 皆平気そうだ。

 皆と一緒にいたヒビキを拾い上げ号令をかける。


「じゃあ戦闘になるかもしれないから装備の確認をしたら行こう」


 互いに互いの装備を確認し合ってから魔素が濃くなっている方へ動き出す。

 近づき索敵範囲に入ると分かる。穴が開いている。

 穴が開いていると探れる程度には魔素が薄いのでオーゲストどころか魔物がいる可能性は極めて低いだろう。

 穴にある程度近づいた所で一旦足を止める。

 アイネにこれから穴の調査をする事を精霊に伝えてもらってから実際に調査を始める。

 調べるのは穴とその周辺に魔物の足跡などの痕跡がないかどうかだ。

 周辺の土を荒らさないようにアースとヘレンには離れた場所で僕と一緒に待機してもらう。

 そして、僕がマナを使い穴の中を調べる。中は結構深いがやはり探れる程度には魔素が薄く何もない事が分かる。


「ナギー、足跡見つかったよー」

「こっちもデス。どうやら南に向かっていますネ」

「大きさ的に大型はいるけど前に遭遇したオーゲストほどの大きさはなさそう」


 アールスとミサさんの報告に少し考える。

 東戻って援護しに行くわけではないのか。まだ仲間がいるのか?

 だとしてどうやって居場所を特定しているんだ? そもそも地中に潜った魔物の所在をどうやって?

 たしかに他の場所に比べて多少は魔素が濃くなっているだろうけど、何の当てもなく探せるとは思えない。

 魔物にそこまでの感知力が? 少なくとも一日以上かかる位置でも探れるほどの感知力……聞いた事が無いが僕が知らないだけか?


 空気中の魔素を介して……いや、そんな真似ができるならアーク王国はとっくの昔に滅亡しているはずだ。

 マナは自分のマナと他人のマナを繋げ相手のマナを感じる事が出来る。

 僕が魔獣達とマナを共有する前でもアースが蜘蛛の巣を使い僕がマナを繋げば今と同じ程度の範囲は感知できる。


 魔素も同じなら空気中の魔素に魔物が自分の魔素を繋げれば理論上この星全体を感知できるようになる。それは感知力がどんなに低かろうと繋げられるだけの感知力があれば問題ない。

魔素が薄い所があればそこにはマナがあるはずなので分からないはずがない。

 しかし、アーク王国がまだ小さい頃に魔人達に見つからず滅ぼされなかった時点でこれは出来ないんじゃないかと思える。

 ……とりあえず考えるのは後にして報告して跡を追ってみるか。


「アイネ、足跡の事とその跡を追って僕達も南に向かう事を報告しておいて。アールスとミサさんはそのまま足跡を」

「りょーかい」

「分かったー」

「こういう時鼻の利くナスちゃんやゲイルちゃんがいると便利なんですけどネー」


 アールスとミサさんが先頭に立ち足跡を追っていく。

 もちろん僕の索敵も同時に行う。しかし穴以外に特に魔素の濃い箇所は感じられない。それほど遠く移動してしまったか。

 魔物は睡眠を必要としないから差をつけられるのはしょうがない。




 二時間ほど足跡を追ってみると魔素の濃い所を発見できた。

 やはり足跡の先、南方向だ。

 魔素の濃い所は動いているので僕達が追っていた魔物だろう。

 アイネに連絡を頼み、皆を集めてからつかず離れずを維持しつつ話し合う。


「どうする? 相手の戦力はまだ分からない。僕達だけで相手が出来るとは限らないけど」

「足跡の数からあまり数はいないと思いマス。大型もいても一匹でショウ。地中の魔物を探しているのなら掘り返される前にせん滅すべきだと思いマス」

「泳がして目的を探るってのは? ちちゅーの魔物も目的を果たす為に移動してたらたまたま見つけただけかもよ」

「もしくはついでに回収したかっていう可能性かな?

 私はミサさんに賛成。目的を探るって言うと絶対に目視する必要が出てくる。

 目視できる距離まで近づいたら絶対に魔物に気づかれるよ。それでもしも本当に仲間を集めるのが目的だったら時間を与えるだけこっちが不利になる。

 それだったら早めに全部殺した方が良いと思う。

 もしくはこのままつかず離れずで連絡だけして軍の判断を仰ぐって言う案もあるね。

 この場合最悪なのが魔物の戦力が拡大した時私達の存在がばれて戦う事になった場合。

 次に最悪なのが私達の事はバレなくても東の壁に向かわれて壁を破壊される事かな」


「うん……アースとヘレンは何かある?」

「くぃー」


 ヘレンは無いそうだ。


「ぼふっ。ぼふぼふぼっふぼふふんぼふ」


 アースはアールスのいう事に全面的に賛成の様だ。


「ぼふぼふ。ぼふんぼふんぼっふふんぼふ」


 付け加えて逃げる事になった時自分達では逃げ切れない可能性がある事を示してくれる。


「アースの言う通りかもしれないな……他皆は魔物と戦って逃げる必要が出た時僕達は逃げ切れると思う?」

「ミサねーちゃんが遅れない?」

「アイネちゃんの言う通りワタシは装備が重いので無理ですネ」

「ミサさんはアースかヘレンに任せればいいから大丈夫だと思うよ。アースとヘレンが追い付かれるくらい魔物が速いなら全員無事に逃げるのは無理だから殿が必要になるね。

 その場合の殿は精霊魔法の使える私かミサさんが適任だね。殿の逃げ切れる可能性を残したいなら私がやるべきだと思う」

「あたしも殿できるよ」

「アイネちゃんは連絡係なんだから生き残らなきゃ駄目だよ。殿なんてもってのほか。優先順位はナギの次にアイネちゃんだね」

「……連絡係になるんじゃなかった」

「もう遅いでーす」

「じゃあ案は大体出そろったかな」


 皆の顔を見渡すが誰も他の案が出ない。ならば今度は僕がこれからの方針を決める番だ。

 これから僕が決める方針によっては死人を出すかもしれない。

 これは責任を上に投げられる問題じゃない。上に責任を投げつける喜びを知って緩んでしまった心を引き締めないといけないな。

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