責任は上に投げつけろ
検問所が見えなくなる場所でナス達と別れる事にした。
「いい? 人に見つからないように移動するんだよ」
「ぴー!」
「きー」
ナスの固有能力なら姿を光の屈折で消しながら移動が出来るから見つかる心配は低いだろう。
「後大森林まで無理して移動しない事。疲れを残したまま戦ったら駄目だからね。特にナスはゲイルを助けようとして無理したら駄目だよ」
「ぴー」
「きー」
ゲイルは身体が小さい分疲れやすい。そんなゲイルを助けようとしてナスが無理してしまうかもしれない。
「一応フォースとサンライトの魔法石を二つずつ持たせておくね。ふたりとも手に持って使える訳じゃないからサンライトよりもフォースを優先する事。人がいて困っているようだったらサンライトの魔石の方は渡していいからね」
「ぴー!」
「きー!」
ゲイルの服の石を入れるポケットにフォースの魔法石を一個、サンライトの魔法石を二個入れる。
ナスの首輪にフォースの魔法石を付けいつでも使えるようにする。
「僕が迎えに行くまで絶対に無事でいるんだよ」
「ぴー」
「ききっきー」
「んふふ。そうだね。僕達の方も絶対に皆一緒に迎えに行くよ」
ゲイルの言う通り僕達も気を付けないといけない。何せナスもゲイルもいない上にレナスさんとカナデさんまでいないのだ。
サラサ、ディアナ、ライチーもいないから半分近く人員がいなくなっている事になる。
戦力的には半減とまで行かないのが幸いか。アースのマナの量が規格外すぎるお陰だが。
「ナス」
ナスの頬に触れる。
「ゲイル」
ゲイルの喉元に触れる。
「気を付けてね」
「ぴー」
「きー」
僕との話が終わると他の皆がふたりに順番に接ししばらくの別れを惜しんだ。
そして、皆の別れも済むとナスとゲイルは南へ走って行った。
「ふたり共だいじょーぶかな……」
アイネがナス達の後姿を見送りながらそう呟いた。
「信じよう」
「うん……」
「ふたりの心配をするのはいいですガ、ワタシ達も数が少ないのですから気を引き締めないといけませんヨ」
「そうですね。とりあえず歩きながら連携の確認をしていきましょう」
「ヒビキは誰に任せたほーがいいのかな」
僕達も東に向かって歩き出す。
今回は踏破性重視という事で馬車は持ってきていない。かさばる荷物はアースとヘレンに任せ各々武装と組合で受け取った一週間分の非常食を持っている。
さすがに一日二日で魔物と会敵する事はないだろうからそれまでの間に今いる皆との連携を確認しなければ。
差し当たっての問題はアイネの言う通りヒビキを誰に任せるかだ。
いつもはナスに任せていたが今いる人間は全員前衛だから一人ヒビキを抱え後衛に回る必要がある
「アリスちゃんでいいでショウ。ワタシ達支部長さんからアリスちゃん守るよう言われていますシ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだよー。ナギは一応神様と連絡の取れる重要人物だからね。前に出ちゃ駄目だよ?」
「ああ、まぁ……そうなるよね」
ミサさんが良いだろうと思ったけれど、そういう事なら仕方ない。後ろに下がる必要があるのなら今回は僕が適役か。
「という訳で今回のヒビキ係と指揮役はナギね」
「分かった。出来るだけやってみるよ」
指揮役の訓練は念の為全員が行っている。適正で言うと僕は皆の中では四番目と低いが比べる相手が悪いと言いたい。
仲間内一番の頭脳派であるレナスさんと士官学校できちんと学んでいたアールス、それに経験豊富なミサさん。相手が悪い。
僕より適性が低いと思われるアイネだって前に出たがる戦闘狂な所が適性を低くしてるだけできちんと学べば僕よりも上手くやれるかもしれない。
カナデさんは……うん。視野は広いがどうも自分に自信がない所為か指示を出すのが遅い。そこを治せれば僕よりも良い指揮役になれると思うのだけど……。
魔物の探索を初めて二日が経ち三日目の朝。村の村長宅を借りて一晩過ごした僕達は朝食を食べた後早速出発の準備を始めた。
今の所魔物を発見できていない。魔物が西に向かっていたらそろそろ見つかる頃合いだろう。
前線基地の方もアイネが契約した連絡用の精霊からは一度また壁が破られ魔物が侵入した事以外特に変わった連絡は貰っていない。
魔物は少数を侵入させて何がしたいのだろう。後方を混乱させたいのか地中の魔物を何らかの合図を送り地上に出したいのか……。
後者だとしたら先に対処出来て本当に良かったと思えるのだけれど。
「ねぇねーちゃん。今更だけど魔物探すのになにか当てあるの?」
準備をしてる所にアイネが話しかけてきた。
「あるよ。今日からはとりあえず東に進みながら魔素が濃い所を探そうと思ってる」
「ちちゅーの魔物目当てかも知れないから?」
「そうだよ。一応博士が調べ上げた魔素の濃い個所は全部調べ終わってるはずだけど念の為にね」
「見逃してるとことか後から魔素が濃くなった場所もあるかもしれないもんね」
「その通り。それともしも侵入した魔物の目的が地中の魔物だとしたら魔素の濃さを目印にすると思うんだよね」
「なるほどー」
しかし、グランエルの外に出て気づいた事だけれど……大気中の魔素の量が増えている。しかも東に行くにつれて濃くなっているからきっと魔物の大軍が原因だろう。
この濃さでは感知の範囲が少し狭まってしまうな。
マナの拡散を使うより蜘蛛の巣を使った方が良いだろう。
「もー探知やってんの?」
「今始めた所だよ」
アースのマナも借りて村より広く森を包み込められるくらい広げるつもりだ。
「んー。ぜんっぜんわかんない。ねーちゃんってホント維持するのじょーずだよね」
アイネが何やらマナを動かしていた事には気づいていたがどうやら僕の蜘蛛の巣を探り当てたかったようだ。
「小さい頃から鍛えてたからね。これだけは誰にも負けない自信はあるよ」
「うんうん。頼りにしてるよ、ねーちゃん」
「んふふ。任せて」
「……ねぇ、ねーちゃん。まだ神様は動かないの?」
「……うん。まだ祈りが届いてないみたい。人が集まってないのかまだ神様に頼ろうとしていないのか」
「そっか。でもそれってまだ人だけでなんとかできるはんちゅーだと思ってるしょーこなのかな」
「かもしれないね」
「てことは魔物の大軍も大した事無いって事だね」
「んふふ」
アイネのこういう前向きな考えは後ろ向きに考えがちな僕に元気を分けてくれる。けど、普段は楽観的な事をわざわざ言う様な子じゃない。
「アイネ、僕は大丈夫だよ」
元気がなかった自覚はないがアイネは僕を励まそうとしたのかもしれない。
アイネは僕の目をじっと見つめた後口元を綻ばせた。
「気にしてないならいいんだ。でもこれだけは言っとくよ。神様来なくてもねーちゃんのせーじゃないからね」
アイネが気にしたのはそっちか。
「責任を上に投げられるっていいよね」
「……ねーちゃんたまにやさぐれた事ゆーよね」