お母さんと
グランエルに戻り王国軍グランエル支部にお世話になって三日が経った。
この三日間交代で休憩を取りつつ魔法石を作っていたらついに魔創石の配給が追い付かなくなり、やれる事が無くなった僕達は一旦一日休みを取る事になった。
休みとはいえアールス達と同じように支部の敷地から出る事は許されていない。
もっとも、僕の場合は命令じゃなくてお願いされただけだ。なので出ようと思えば出られるが他の皆が出られない以上僕だけが出る気はない。
朝から魔獣達の元へ行き、厩務員さんと魔獣達の様子やお世話について話をする。
今までも休憩の時に魔獣達に会いに来てはいた。
けれど厩務員さんとは魔獣達を預けた時以来忙しそうにしていたのでゆっくりと話しをする時間がなかったんだ。
なので今の内に話を聞いておきたかった。
厩務員さんによると手間がかからなくて安心しているらしい。
今は魔物の侵攻の事もあり馬の面倒で厩務員さん達も忙しいのだという。
魔獣達は食事はいらないし身体を洗うのはアールス達がやってくれているのでお世話という点では厩務員さん達の手は借りていないようだ。
ただやはり客人の魔獣という事もありあまり目を離す事は出来ないようで交代で魔獣達の様子を見てくれているらしい。
忙しい中わざわざ気にかけてくれている事に感謝の言葉を送っておく。
厩務員さん達と話が終わると魔獣達とのふれあいの時間を作る。
アースとヘレンは大きい為例によって馬車用の倉庫に泊まっていて、ナスとヒビキ、ゲイルは小さいから厩舎の中の一つの部屋にまとめて泊まっている。
部屋の中には藁が敷き詰められているのでナス達と戯れる時は部屋の外に出てもらう。
そうして満足いくまで戯れた後は訓練をする為に他の皆と合流する。
そして、訓練は訓練場の片隅を借り、訓練をしている兵士さん達の邪魔にならないよう訓練を始める。
お昼になる時間に訓練はやめ、お昼ご飯を食べた後の時間にようやくお母さんと話せる時間が出来た。
今までお互いの休憩時間が合わなくて会う事が出来なかったけれど、ようやくルゥの話を聞ける。
談話室でお茶を用意しお母さんと話をする準備をする。
「お母さんはチコのお茶とフウカのお茶どっちがいい?」
談話室に備え付けられている台所には誰でも飲んでよい茶葉が置いてある。
今あるのは二種類だけでどちらも初めて見る茶葉だ。
「どっちも飲んだ事無いわ」
「僕もないよ。香りはどっちが好き? 僕はチコの方が良いかなって思うけど」
「そうね、私もチコかしら。フウカっていうの? こっちは変わった香りね」
「なんかどこかで嗅いだ事がある様な香りなんだよな」
ツンッと鼻を少し刺激する香りだ。
「そうなの? じゃあせっかくだしフウカの方飲んでみようかしら」
「フウカね。淹れ方分からないから美味しくないかもしれないけど」
「何事も経験よ」
とりあえずポットに茶葉を入れお湯を入れる。
出来上がるまでの間に話をしよう。
「それでお母さん。ルゥの様子はどうだった?」
「そうね。他の子達と一緒で少し不安そうにしていたわ。先生には東側の人達が避難してくる事は伝えたけど……」
「西側出身の子達の親は来れないから対応が難しそうだね」
「そうね。私も他の子達の事もあるからあまりルイスに会いに来ないようにして欲しいって言われたわ」
「そっか……リュート村の人達はもう来てるんだよね? たしか他の親御さん達はどうしたの?」
「一応先生方と相談して自分の子供に会いたい人は休みの日に会う事になったわ」
「僕も会いに行けるかな」
「その日に休めるの?」
「そこは魔創石がどれくらい用意できるかによるよ。実際どうなの?」
「魔創石を作る為の魔障石があまり無いみたいでね。ほら、戦いの準備にグランエルにあった物はアリス達がサンライトの事を話す前に結構使っちゃったり他の都市に送ったりしたみたいなのよ」
「ああ……なるほど。それなら僕達も他の都市に移動する事になるのかな」
「かも知れないわね」
そうなるとレナスさんとカナデさんとは別々の都市に配置されるかもしれないな。
でももう千個以上は魔法石にしてるから数としては十分な気もするが……。
「ルゥに会えないのは寂しいなぁ」
「ふふっ、アリスは本当にルイスの事が好きなのね」
「そりゃ僕の妹だし……お父さんも僕に対して同じような事言ってたんだけどさ、ルゥの瞳を初めて見た時濃い紫の瞳がとってもきれいだったのが忘れられないんだ。
それから初めてを抱っこした時暖かくて柔らかくて小さくてこの子が僕の妹なんだ守ろうって思ったんだ」
「そうなの……」
僕の言葉に頷くお母さんの目はとても優しく慈愛に満ちたものに見えた。
そんな目で見られるとなんだか気恥ずかしくなってくる。
なので話題を無理やりにでも変えよう。
「そ、そういえばお父さんにさ、二人がリュート村に戻って結婚した時の事聞いたんだけど、どうして結婚する事になったの? お父さんに聞いても詳しい事教えてくれなかったんだ」
「あら、そうなの?」
「お父さんが体調崩してお母さんが看病した所までは聞いてるけどそこから先はお母さんに聞けって」
「あらら、ふふふっ。そういう事なら私から話しましょうか」
話を続ける前にお茶の入ったポットを手に取る。
そろそろいいだろう。
「とりあえずお茶入れてからね」
僕とお母さん用のカップにお茶を注ぎ片方をお母さんに渡す。
「熱いから気を付けてね」
「ありがとう」
自分の分のカップを持ち上げ香りを確かめる。
やっぱりどこかで嗅いだ事のある香りだ。もう少しで何かを思い出せそうな気がする。
一口だけ口に含む。
「!?!?」
わさびだこれ!
刺激は強くないけれど鼻に突き抜ける刺激と舌に残る辛さ。間違いない。前世でもあんまり食べた事無いけどわさびだ。
「ど、どうしたの? アリス」
「う、うん。ちょっと辛い上に鼻を突き抜けるような刺激に驚いただけだよ」
「えぇ? どんなお茶なの……?」
お母さんも確かめる様にカップの淵に口を付け一口飲む。
「……どう?」
「変わったお茶ね……鼻がすーすーする。美味しいとはちょっと違うけれどなんだかすっきりして癖になる味ね」
「いろいろな土地回ったけどこんな味の食材やお茶は知らないから東の方から来たのかな」
ミサさんなら知っているだろうか?
「そうね。イグニティでも飲んだ事無いわ」
そういえばお母さんはお父さんとはイグニティで会って、その時は中級の冒険者になる為に頑張ってたと言ってたっけ。そこら辺の事も聞きたいな。
どうして冒険者を止めてお父さんと結婚したんだろう。