救うと信じて
グランエルに着くと僕達は休む間もなくアーク王国軍グランエル支部に連れていかれた。
魔獣達は馬車と共に支部に併設されている厩舎で待っててもらう事になり、その際魔法石の納品も済ませた。
建物の中に入ると僕だけ他の皆と別々の場所へ案内される。
階段を使い二階へ上がって日当たりの良い廊下を通り大きな扉の前まで案内された。
そして、案内をしてくれていた兵士さんが扉を叩き、大きな声で僕を連れてきた事を告げた。
「入れ」
返事はすぐに帰って来た。
案内役の兵士さんが扉を開け、見えて来た部屋の中には人が四人いた。
一人は一番奥に置かれた机の奥に座っている。残りの三人は右手側の長椅子に座っていて僕を見た途端立ち上がった。
真ん中の人には見覚えがある。グランエル周辺の教会を取り纏めている司教様だ。
たしか教会内の立場的にはピュアルミナの使い手よりも下だっただろうか?
「ナギ様お久しぶりです」
様ってつけてるから僕の方が上だ!
「お久しぶりですナエグラ司教」
治療士として依頼人相手に上に出るのは慣れているが組織の立場から上から出た経験はないのでどう振舞えばいいのか分からない。
とりあえず僕は様付けなくていいんだよね?
司教様達の顔を伺ってみるが特に不愉快そうな表情の変化は見受けられなかった。
司教様の両脇に控えているのは確かそれぞれルゥネイト様とザースバイル様の教会の司祭をしていた人だ。昔見た事がある。
司教様が変わっていないのならその下の役職である司祭から変わってないだろう。
司教様達とお互いに挨拶を終えた後奥に座っていた人も立ちあがり僕達の方へ近寄って来て自己紹介をしてきた。
どうやらこの人が王国軍グランエル支部を統括している司令らしい。
互いに挨拶が終わると椅子に座るよう促され、聞き取りが始まった。
「疲れた……」
聞き取りが終わり軍の宿舎の客室に案内された僕はすぐにベッドに飛び込んだ。
ちょっと固いが緊張ですり減った精神にはそれでもありがたい。
これから僕はレナスさんとカナデさんと一緒に魔法石製作の為に今いる宿舎に泊まり込む事になった。
これ自体は僕が申し出た事でレナスさん達にも事前に同意を得ている。
部屋も同じにしてくれるよう頼んだのできちんと三人泊まれる部屋になっているが、レナスさん達はまだいない。
魔獣達も今いる厩舎に泊まる事になっていて、お世話は厩務員がしてくれるらしい。
そして、アールス達の方はというと、軍としては聞き取りした後は用が無いようで今の所特に予定は入っていない様だ。話し合いをする時間はあるだろう。
お父さんとお母さんは予定通り村人の避難先予定の住宅地に住む事になるだろう。状況によってはグランエルの市民と一緒に内側にある他の都市に移動する事となる。その際はルイスも一緒だから安心なはずだ。
しばらくベットの上で横になっていると扉を叩く音共に大きな声で魔創石を運んできた事を告げられた。
待ってました。
ベッドから跳ね起きて扉を開け、部屋の外にいた兵士さんと顔を合わせる。
兵士さんが敬礼をしてきたので僕もそれをまねて敬礼を返す。
魔創石が入っていると思わしき箱は扉の横に置かれていた。
箱は段重ねに出来る薄い物でそれが二十段くらい重ねられている。
まだまだあるそうだけれど置き場所が無いからとりあえず邪魔にならない分だけここに置いたそうだ。
終わった分は箱に印である布を被せて今置かれている扉の右横ではなくその反対の扉の左横に置けばいいらしい。
説明が終わった後お礼を言ってから箱を中に運ぼうとすると兵士さんも手伝ってくれた。
箱を運び終えて兵士さんにお礼を言い見送ると早速箱を開け魔法石作りに励む。
箱には縦五個横十五個に石が敷き詰められていて全て刻まれた魔法陣が上を向いている。
これならいちいち取り出す必要が無いから楽だ。
石に刻まれた魔法陣に触れならがらサンライトを使うだけで魔法は封印され魔法石は完成する。
両手を使って複数の魔法陣に触れながら魔法を使えば一気に魔法石が出来る! ……わけじゃあない。
出来たら楽なのだけどそれをすると封印されないので一つずつ魔法陣に触れなきゃいけない。
まぁ触れるだけでいいから単調だけれど楽な仕事ではある。レナスさん達がやってくるまで魔法石を作っていよう。
この地道な作業が王国を救うと信じて!