この世界に生まれて来て
「アリスが転生者でシエル様の使者か……」
一通り話し終えた後僕は審判を待つような気持ちでお父さん達の言葉を待つ。
一応前世については今回の話とはあまり関係ないからまだ詳しくは話していない。
いきなり話すのは憚られたというのもある。
「俺はそんなに頭が良くねぇから一つずつ確認していくぞ」
「はい」
「お前は……アリスは俺の娘なんだな? 身体を乗っ取ったとかそういう事はないんだな?」
「それはないよ。シエル様にも確認は取ってある。
他の人と同じようにお母さんからのお腹の中のまだ魂の入っていない赤ちゃんに僕が偶然入っただけなんだ」
「そうか……じゃあ生まれたばっかの頃の記憶はあるのか?」
「ないよ。そこも普通の人と同じだと思う。今ある僕のこの世界での最初の記憶は二歳か三歳の頃のお父さんにおんぶして貰ってる時の記憶だよ」
「よくやってたからいつかなんて分からねぇな。夜良く怖がってたのはなんか理由でもあるのか?」
「いや、あれは単純に怖かっただけだよ……お父さん達が魔物の話して脅かしてきた所為だよね」
「でも前世でいくらか生きてたんだろ?」
「魔物のいない世界だったから怖かったんだよ」
「そういうもんか? ならお次は何でこの世界に転生してきたんだ? 魔物がいる世界だと神様から聞いてなかったのか?」
「聞いてたけど聞いた時はただの夢だと思ったんだ……まさか神様が異世界に転生して欲しいなんてお願いしてくるなんて思わなかったんだよ」
「まぁそりゃそうだろうな。俺だってそんなの信じられねぇや」
「だからその、死にたくなかったのもあって軽い気持ちで了承しちゃったんだ……」
「そりゃなんというか……こういう事言うのは不敬かもしれねぇが、騙されてねぇか?」
「僕もそれはちょっと思ったよ……でもまだ生きたいと思ったのは本心だし決めたのも僕だからね」
シエル様に感謝している。けれどそれはそれとしてあの時僕が夢だと思ってた事にシエル様は絶対気づいてた。それなのに話を進めていたのは詐欺と言っていいと思う。
「アリス……悪い奴に騙されないように気をつけろよ」
「気を付けます……」
シエル様が悪い神様じゃなくてよかった。
「アリスはこの世界に生まれて来て後悔している?」
ずっと黙って俯いていたお母さんが顔を上げ話しかけてきた。
「正直生まれてきたばかりの頃はしていたよ。でもそれはお母さん達の子として生まれた事じゃなくて軽い気持ちで転生する事を決めた事を後悔していたんだ」
本当なら普通の子として生まれてこなくてごめんなさい、と言いたい。だけどこれはきっと言葉にしていい言葉じゃない。
「けれど今は後悔なんてしてない。この世界に来たおかげで仲間達に会えたし友達にも会えたし、ルゥのお姉ちゃんにもなれた。
それに……大切な友達の命も助けられた。
お父さんとお母さんには感謝してる。この世界に生まれて本当によかったって思ってるんだ」
「アリス……」
「んんっ。オホンオホン。まぁなんだ。もう遅い時間だし話はこれぐらいにしておくか」
お父さんはわざとらしく咳ばらいをしてから話を終わらせた。
「たしかにこれくらいにしないと明日に響くね」
「まだ聞きたい事はあるが……まぁそういう時間もこれから取れるだろ」
「うん。僕は皆の所に戻るね」
「今日は泊まって行かないの?」
「明日の準備しておかないといけないから」
名残惜しいが今日は皆の所に戻っておかないと。
天幕に戻ると中から明かりがこぼれ出ていた。
まだ起きているのか。そう思いながら中に入るとレナスさんとカナデさんが石を持っていた。
どうやら魔法石を作っていたらしい。
「ナギさん、お帰りなさい」
「ただいま。こんな時間でもまだ作ってるんだ」
他の皆はもう眠っているようなので小さな声で話すよう気を付ける。
「ナギさんが戻ってくるまでは、と思いまして」
そう言ってレナスさんは山積みになっている石の方へ視線を向ける。
すべて魔法石だろうか? 結構終わらせているな。
「アールスさん達が明日の為にアリスさんの荷物を片付けていましたよぉ」
「そうだったんだ。明日起きたらお礼言わなきゃ」
「ご両親の様子はどうでしたか?」
「とりあえず今の所は受け入れて貰えたよ。ちょっとお酒飲んで酔ってたみたいだから明日以降冷静になったらどうなるか分からないけど……」
「大丈夫だと信じましょう」
「うん。そうだね。それと予定が変わった事はアールスから聞いた?」
「はい。ですが問題ありません。予定通りに行かない事は分かっていましたから。聞いた限りではよほど譲れない事が無い限りは軍の言う通りにしておいた方がよいでしょう」
「分かった。じゃあ今のままで……それじゃあそろそろ魔法石作りは止めて寝ようか」
「そうですね」
「はぁい」