告白
クーガー隊長代理への話が終わった。
クーガーさんは驚きはしたものの半信半疑と言った様子で精霊を通してグランエルにいる上司に報告をしてくれた。
東邦国家群ではどうかは分からないか、三ヶ国同盟内では詐欺のような人を騙す犯罪はライアーが抑止になっているからほぼ存在しない。
そして神の使者というのは騙るにはさすがに仰々しすぎる。ライアーを使われるのは確実なので普通は騙らないだろう。
それでも騙る場合。それは本気で自分が神の使者だと信じている場合だ。
この場合嘘をついている自覚がないのでライアーも効かないやっかいな事例となる。
話を聞いただけでは本物か狂人か洗脳された人間かの三択になるだろう。
だけど僕には特殊神聖魔法がある……と言いたいけれどシエル様の特殊神聖魔法は誰も見た事が無いので何の証明にもならない。ただの生活魔法と疑われる可能性だってある。
そもそもサンライトとフォース、フォースシールド以外は目で見て分かるのはホーリースフィアしかいない。
そのホーリースフィアは一応攻撃魔法に区分されるので気軽に試す事も出来ない。
本物と判断するにはライアーを使いつつ地道に質問を重ねるしかない。
本来なら拘束され尋問される所だったが、僕がピュアルミナの使い手でありフォースもサンライトも使えるという事で信用してもらう事が出来た。
現状でピュアルミナを使えるシエル様の信者はいないだろうとの判断だ。
グランエルに戻ったらすぐに仲間全員と共に軍のグランエル支部に向かってほしいと頼まれた。
本来は教会に行こうと思っていたけれど、どうやら軍が教会への根回しもやって支部に教会の人間を呼んで軍と共同で聞き取りを行うつもりらしい。
予定が変わってしまったけれど手間がかからない分そっちの方が良いかな? 多分。
さらに両親に話す事も許可が出た。
もう時間が遅くて今魔物の侵攻の事を話しても誤差だという事と、両親からも話を聞きたい様だ。
お父さん達まで聞き取りされる事になるとは、僕達の想定が甘かったな。
そして、聞き取りされる事になってお父さんとお母さんは明日僕達と一緒にグランエルへ向かう事になった。
元々グランエルより東側の村人はグランエルに避難させる予定だったらしくお父さん達が滞在する場所は確保されている。一足先に避難する形になったわけだ。
これから二人に話しに行くのだけれど緊張して足が重い。
「ナギ、大丈夫? 私も一緒に行こうか?」
「大丈夫だよ。アールスの気持ち嬉しいよ、ありがとう。けど予定が変わったからアールスはレナスさんにその事を伝えて欲しい。
こういう情報共有は早いほどいいだろうからね」
「分かった……」
そして、アールスと別れ僕が生まれ育った家への道を行く。
残念ながら今日の夜空は雲が多く星は見えない。雲の合間から欠けた月が見えるだけだ。
魔法の光だけが僕の道を照らしている。
本当なら両親には僕が転生してきた事を話すつもりはなかった。 だけど軍に二人が聞き取りされる事になった以上もう隠しておくわけにはいかない。
僕の事を確認
お母さんは僕のような得体のしれないモノを産んだ事を知ったらどう思うのだろう。
お父さんは僕のような得体のしれないモノを育ててた事を知ったらどう思うのだろう。
もうまともに話す事が出来なくなるかもしれない。
会う事すら嫌がられるかもしれない。
ルゥとの接触を禁止されるかもしれない。
気が重くなると悪い方悪い方へと思考が向かってしまう。
このままじゃ駄目だと顔を上げると元アールスの家が見えた。
懐かしいけれど今は別の人が住んでいる家だ。
小さい頃よくあの家にお邪魔してアールスと遊んでいたっけ。
懐かしさに足を止めると中から声が聞こえて来た。赤ん坊とそれをあやすお母さんの声だ。
ルゥが泣いていた時お母さんも同じようにしていたっけ。
……ルゥに会いたくなってきた。
いかんいかん。現実逃避してる時じゃないぞ。暗い事ばかり考えてるのが悪いんだ。
もっと前向きに物事を考えなくちゃ。きっとお父さん達だって……お父さん達だって……駄目だ、自分を騙せない。都合のいい想像が出来ない。
他の事を考えよう。そう、例えばルゥの可愛い所を上げていくんだ。
ルゥの可愛さと言えばやはり……っと、考える前に家についてしまった。
窓から明かりがこぼれ出ている。色々あってもう深夜と言っていい時間だがまだ起きているようだ。
……これいたしてる最中だったら気まずいってもんじゃないぞ。
い、いやさすがにお母さんは歩き疲れているだろうからそんな疲れるような事はしていないはず。信じよう!
とりあえず自分の家だけれど玄関の扉を叩いてみる。
すると少ししてから反応が返って来た。
「おーう。こんな時間に誰だー?」
大丈夫? 大丈夫だよね? 半裸で出てこないよね? 信じてるよ?
扉が開くとちゃんと服を着たお父さんが出てきた。
ちょっとお酒臭いからお酒を飲んでいたんだろう。
「おっ? アリスじゃねぇか。どうしたんだこんな時間に」
「急ぎでお父さんとお母さんに話す事が出来たんだ。お母さんは起きてる?」
「ああ、起きてるが……明日じゃ駄目なのか?」
「明日は早く出なきゃいけないんだ。それにお父さんとお母さんも一緒について来る事になったんだ」
「はっ? なんだそりゃ。アリス達が早く出るのはいいとして……なんで俺達まで」
「だからその説明をしに来たんだ。長くなるだろうからどうしてもだめだったら明日グランエルへの道中で話す事になる。
本当に突然の事でごめんなさい」
「あなた、アリス来たの?」
中からお母さんの声が聞こえてきた。
お父さんは頭をポリポリとかきながら中に入るよう促してきた。
「あー……まぁ話聞くから中入れ」
「うん。……ただいま」
中に入るとテーブルの上にお酒が置いてあり、お母さんも椅子に座ってお酒を飲んでいた。
そのお酒には見覚えがある。僕がお土産としてダイソンで買ったお酒だ。
甘めのお酒らしく女性でも飲みやすいと評判だったのでお母さん用に買ってみたお酒なのだけど、お父さんも一緒に飲んでいたのか。
「こんな夜更けにどうしたのアリス?」
「なんでも俺達は明日朝早くからアリス達と一緒にグランエルに行かなきゃいけないらしい。その話があるらしいぞ」
「あら大変ね」
「お母さん酔ってる?」
「酔ってないわよ」
「酔ってるがまぁ記憶が飛ぶほど酔ってるわけじゃないから話は出来る。ただこれ以上酒を飲むのはやめておけ」
そう言ってお父さんはお酒の容れ物を手に取って蓋を閉め片付けてしまった。
「ああん……もうちょっと飲みたかったのに」
そう言いつつお母さんは手に持った容器を口に付け残ったお酒を飲んだ。
「ありがとうねアリス。このお酒とってもおいしい」
「どういたしまして。お父さんも飲んでるみたいだけどどう? 女性向けみたいだけど」
「ああ、少し物足りねぇけどアンナと飲めるから悪くねぇ」
「お熱いねぇ」
「うふふ。アリスにはいい人できた?」
「僕にはいないよ。旅ばっかだからさ」
「旅ばっかでも出会いはあるだろ。俺とアンナも旅の最中に会ったんだからな」
「そうねぇ。十四の時に時に会って十六で結婚。二十歳の時にアリスを産んだのよね。懐かしいわ」
「初めて会ったのはたしかイグニティの北の都市だったな。名前は……何だったかな」
「エィクスよ。中級に上がる為に仕事を頑張ってた時に会ったのよ」
「ああ、そうだったな。あの時……いや、長くなるからやめよう。アリスの話も長くなるらしいからな」
「そうなの? どんな話かしら」
昔話が始まるかと思いきや打ち切られ僕の方に話が振られる。
もう少し聞きたかったが時間もないし仕方ない。
「じゃあ今日……夕食の後に何があったのから話すね」