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これから 前編

「ありがとうレナスさん」


 クーガーさんとの話を終え、準備の為に天幕を出た所でレナスさんにお礼を言う。


「手を握っててくれたおかげで冷静でいられたよ」

「そ、それは私も同じです。冷静でいる為にナギさんに縋っただけです……」

「そっか。レナスさんも僕と同じだったんだね」


 当然か。もしかしたら十年前の時以上の惨劇が起こるかもしれない。

 もしかしたら千年前の魔物の大進撃がまた起こるのかもしれない。

 そう考えて不安に思うのは僕だけではなかった。


「カナデさんは大丈夫そうでしたね?」

「わ、私も泣きたいくらい怖いですよぉ。でもお二人が冷静にしているのに故郷が遠い私が取り乱せるわけないじゃないですかぁ」

「んふふ。確かにそうですね」


 臆病なはずなのに僕達の事を想って取り乱さないカナデさんはやはり強い。


「……ナギさん。シエル様に助けを求めることは出来ないのでしょうか?」

「それは……難しいと思う。シエル様達は今も休みなく戦っているんだ。それに神様は人に出来る事は自立を尊重して基本見守るだけで介入しないようにしているんだよ。

 今回の魔物の侵攻がこの世界……ツヴァイス様自身に害を及ぼすほどの規模なら動くだろうけど……」


 神様は魔王と呼ばれる世界から魔素が無限に流入してくる穴を塞ぐために動いている。

 しかし、その穴には穴を守る魔物がいてそれが途方もなく強く神様でも苦戦し人間の時間に換算すると千年単位で戦う事も珍しくないらしい。

 で、そんな戦いをしながらツヴァイス様は固有能力を修正したり全ての生命にお告げをしたりしていたんだ。


「まぁでも聞いてみるよ」

「お願いします」

(シエル様。そんな訳で助けていただく事は可能でしょうか?)

(助けたいのは山々ですがさすがに私の一存で助けに行く事も那岐さんただ一人の願いを叶える事も出来ません)

(そうですよね……)

(ただアールスさんの事と那岐さんの事で借りがあるというのも事実。なので多くの人達の祈りが届いたら一度だけ助ける事はできます。

 しかし、もしも助ける事を拒否されたら私達には何もできません。人々の意思を無視し勝手に戦いに介入するのは私達には許されていないので)

(そうなんですね……でも多くの人が祈れば助けてくれるという事が分かっただけでも大分心が楽になりました。ありがとうございます)

(無理はしないでくださいね?)

(はい。……ところで今思うと丁度いい時に神託をいただきましたがもしかして?)

(いえ、ただの偶然です。さすがに一つの星の一大陸の未来を予知するほど気にかけていられないので)

(そ、そうですか……でもおかげで戦う力が得られました)

(気を付けてください。使い慣れない武器は時として自分を傷つけると言います。フォースもサンライトも人に当たると少々の痛みと少しの間のマナの容量の減少を招きます。いざという時にマナが足りなくなったという事にならぬようにきちんと注意しないといけませんよ)

(ご忠告心と注意書きにしっかりと刻んでおきます。ありがとうございました。)


 クーガーさんにもきちんと伝えてはいるけど魔法石に付けておく説明書にもきちんと書いておかないとな。

 シエル様との交信を一度やめて意識を現実の方に戻す。


「沢山の人々の祈りが届けば助けてくれるかもしれないって」

「沢山ってどれくらいですか?」

(どれくらいです?)

(今回の場合ですと十万人程でしょうか)

「十万人だって」

「意外と少ないですね」

「一つの都市の人口が百万人らしいですからねぇ」

「いやいや、届いたらだから多分高位の神聖魔法を授かってる人が祈らないと駄目なんだと思うよ」

(そうですよね?)

(その通りです)

「そう聞くと途端に多く感じますね……」

「それに助ける事を拒否されたらさすがに手を出せないらしいよ?」

「祈っておいて拒否する人がいるとは思えませんが」

「王様や議会が拒否するかもしれませんね~。この国は自分達が守るんだ~って」

「それ言われたら確かに手を出せませんね……」

「それで手遅れになるんですよねぇ。物語ではよくある話ですよぉ」

「さ、さすがに悪い方に取りすぎですよ」


 僕もちょっと思ったけれども。


「……私達の旅、どうなるんでしょうね」


 レナスさんの今にも消え去りそうな小さな声が不思議と良く聞こえた。


「……」


 考えないようにしていた。考えたくなかった。

 魔の平野の通り道にある基地が魔物の襲来で廃棄されたのならまた通りたければ戦い取り返さないといけないだろう。

 それをやるのは僕達じゃない。軍の仕事だ。

 奪還するのにどれだけ犠牲が出るだろう。

 今回の魔物の大軍を凌ぎ切れたとしてもすぐに奪還に動く事は出来ないはずだ。


「私は諦めませんよぉ」

「……非常に聞きにくい事なんですが、カナデさん婚期大丈夫ですか?」

「私は結婚しません!」

「それでいいんですか? ご両親の期待とか老後の事とか考えると……」

「そもそも私はお二人に会うまで魔の平野を超えるのは三十歳近くになるだろうなって考えてたんですよぉ? 覚悟は出来ていますぅ」

「たしかに冒険者の身で魔の平野を超え東の国々を旅行しようと思ったらそれ位時間かかりますよね。私達がこんなにも早く資金を集められたのは魔獣達がいてさらに運が良かったからです」

「エウレ湖を見る為に小さい頃から頑張って来たんです! 今更諦められませんよ~!」

「あははっ、強いなぁカナデさんは」

「でも本当に結婚する気はないのですか?」

「私旅をしていてわかりましたぁ。男性が怖いので無理です~」

「う、う~ん……」


 カナデさんの男性不信全然治る気配がないんだよな。

 一応話す事は出来るが男性相手に警戒を解く事は絶対にしない。酒場のような所だとなおさらだ。

 特に口説いてくる人に対しては警戒心強く出るのでまともな会話にならない。

 いい出会いがあれば態度も和らぐかと思い人と話すように誘導してみた事もあったが、いい出会いは全くなかった。

 性格の良さそうな人は何度も出会ったが大抵既婚者だったり恋人がいた。残り物に福があるとは言うけれど婚活にはあてはまらないだろう。


「そういうアリスさんは……いいとしてぇ、レナスさんはどうなんですかぁ?」

「私も結婚するつもりはないですね」

「ほらぁ。心配しなきゃいけないのは私だけじゃないですよぅ。ミサさんだって結婚する気がないようですし~」


 僕の仲間結婚する気ない人多すぎ問題。

 とはいえ僕も結婚する気は無いから説得しようにも説得力なんてないのだけど。

 皆の将来をしつつ、他の皆のいる僕達の天幕へ着いた。

 この天幕は僕達が用意した物じゃなく軍が用意してくれたものだ。

 元々僕達は村長さんの家に泊まる予定だったのだけど、今は村長さんがいないので家を使う事が出来ない。

 僕の実家は全員で泊まれるほど広くない。一方で軍の方は痛ましい事だが天幕に余裕が出来てしまったので、その余った天幕を借りる事になったのだ。


 話をしていて少し気が紛れたがこれから他の皆にも僕の口からこれからの事を話すとなると気が重くなる。

 旅が続けられなくなるだけならまだいい。壁が破られ絶望的な戦いが始まるかもしれないんだ。

 いくらシエル様の神聖魔法があると言ってもそれだけで勝てるとは限らない。

 サンライトだけではオーゲストを倒す必殺の武器にはならない。

 ゴーマが簡単に倒せたのはゴーマが岩石を魔素でまとめ繋ぎ留めていたから、サンライトで繋ぎ留めていた魔素を浄化する事で無力化出来たに過ぎない。

 オーゲストを倒せたのもナスとヒビキの力あってこそだ。

 サンライトはどんなに膨大な魔素を持っていても魔法を通せるようになるので補助的な使い方をした方が生きるだろう。

 もう一つの有用そうな神聖魔法、フォースバリアも同じだ。

 フォースバリアは魔法を吸収してフォースに変化し反撃する魔法だ。下手に使うと味方の放った魔法を吸収してしまうといった事故が起こるだろう。

 シエル様の力があるからって油断はできない。


 一回大きく息を吸ってから天幕の中に入る。

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― 新着の感想 ―
[一言] >僕の仲間結婚する気ない人多すぎ問題。  日本的な考えだと、男としての立つ瀬が無いとかで強い女性って敬遠されがちですからねぇ。  それっぽい価値観の世界なら、女性冒険者ってだけで結婚はほと…
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