依頼
完全に暗くなる前に自警団の人達と兵士さん達が帰って来た。
囮役として残った人達は五人で生き残ったのは三人。
三人共疲れ切っている様子だったが大きな怪我はしておらず、魔物の毒の影響もキュアで治していたみたいで問題なさそうだ。
亡くなった人達の遺体は全て回収するのは時間が無くて出来ず、明日もう一度軍の人達が探索しに行く事になった。
祝賀会も村の人達が戻ってくるのは遅くなるだろうから今日は無理だろう。
けれどお父さんが自警団の人に声掛けをして僕達と兵士さん達を労うために広間で肉鍋を振舞ってくれた。
肉は村で管理保存していた物で、ナビィと野鳥の肉をそれぞれ僕達の為に分けて用意してくれた。
捕りにくく数を揃えにくい野鳥の肉が保存されているのは分かるが、森に行けば捕まえられるナビィの肉が保存されているというのは珍しい。
料理が不得意で暇そうにしていたお父さんにその事を聞くとどうやら一週間前から村長の命令で肉を確保するように言われていたらしい。
本当に珍しい事もあるものだ。何かお祭りでもする予定だったのだろうか?
保存用の物を使っても良かったのかと聞いてみると精霊を通して避難先から帰還途中の村長さんに許可を貰っていたようだ。
さらにアイネが捕まえていた動物がいるので肉の確保に関しても問題ないと判断したらしい。
食料と言えば気になるのは畑の方だ。 芽が出て大きくなっている時期なので踏み荒らされるどころか苗が食べられていたら大事である。
お父さんに確認すると人手が足りないし暗い為まだ畑の方は確認できていないと帰って来た。
しかし、こういう時の為に昔から作物を蓄えて続けているから食糧問題は無いと言っていい、とお父さんは僕の頭をポンポンと叩きながら言った。
子ども扱いされているが、機会の少ない親孝行だと思って我慢しよう。
お父さんとの会話が落ち着くと見計らっていたのか戦闘中にアールスと話しかけてきていた討伐部隊の副隊長さんが話しかけてきた。
隊長さんの死亡は探索の際に確認されており、今の討伐部隊の実質的な責任者はこの副隊長さんだ。
どうやらサンライトについて聞きたいらしい。
食事が終わった後サンライトを使える人から直接話を聞きたいそうだ。
僕はそれに僕も一緒に話を聞くという条件を付けた。
理由は実は僕も使えるから……という理由ではもちろんない。
サンライトの力を見たのなら軍がその力を欲しがってもおかしくない。
信仰する神様を鞍替えする人は少ないだろうし、する人は神聖魔法に対して熱心ではない人がほとんどだろう。
高位の神聖魔法を授かってる人がそれまでの努力を無にするような事をするとは思えないからね。
そして、高位の神聖魔法を授かってないとなるとあまり熱心に信仰していないか勉強の途中の人達のどちらかだ。
前者は鞍替えしたとして半年足らずで第四階位まで授かれるほど努力するとは思えず、後者は今までやはり勉強した事を捨てられるのは少数だろう。
そうなるとサンライトを使える人はアーク王国中を探してもほとんどいないだろう。
現状サンライトの使い手を増やすなら魔法石を使わせるのが手っ取り早い。となると軍はレナスさん達に魔法石の作成を依頼してくるのではないかと言うのが僕の予想だ。
特に今軍が問題視しているであろうオーゲストとそれに共に出てくるゴーマに対して有効なのは強い。
さらにオーゲストへの攻撃という点ではナスの光線に劣るが濃い魔素を浄化し魔法を叩き込めるというのは軍なら有効に活用できる特性なはずだ。
もしもサンライトの魔法石の量産を依頼されたらレナスさんとカナデさんのいい小遣い稼ぎになるだろう。
けれど僕達はいつまでも暇じゃない。来月にはグランエルを出発するのだから腰を据えての魔法石の量産は出来ないのだ。
そこら辺の調整はまとめ役である僕もいた方がいいだろう。
軍には絵本に使おうと思っていたシエル様の情報をまとめた本を渡すのもいいかもしれないな。
どこからそんな情報が出たのかって聞かれたらレナスさんが根掘り葉掘り聞きだしてくれた事にすればいい。実際したそうだし。
第六階位まで授かっているレナスさんからの情報なら信ぴょう性はあるだろう。
食事が始まる前にレナスさんとカナデさんに話を通しておく。
そして、食事が終わった後三人で広場に張られた一際大きな天幕を訪ねる。
中には先ほどの副隊長さんと数人の兵士さんが難しい顔をしながら羊皮紙に何か書き込んでいて仕事をしているようだった。
僕達に気が付くと副隊長さんは立ち上がり軽く手を振り謝った。
「すまない。少し立て込んでいて散らかっている。まずはそこの椅子に座って……ああ、いやすまない。自己紹介が先だな。
出発前にも軽く自己紹介はしていたな。私が今討伐部隊の隊長を代行しているクリシュナ=クーガーだ。
君達の事は把握しているので紹介はいい。座ってくれ」
促されるまま僕達三人は椅子に座るとクーガーさんは椅子に座らないまま続けた。
なんだか余裕のない人という印象だ。
「……あまり時間が取れないので先に私達が君達にして欲しい事だけ言おう。明日の朝一番にグランエルに戻り冒険者組合に行ってサンライトの魔法石を作って欲しい。数はあればあるだけほしい。報酬についてはこちらの羊皮紙に書いてある」
羊皮紙とは珍しい。羊皮紙は普通の紙よりも長持ちするから本当に重要な書類を作る時に使われる物だ。
僕が羊皮紙を受け取りながら聞く。
「朝一番とは穏やかじゃないですね。どうしてそんなに……」
最後まで言う前に渡された羊皮紙に書かれた報酬の欄を見て思わず口が止まった。
「あ……え……」
声を出そうにも驚きのあまり舌が回らない。
羊皮紙には普通に考えたら法外な額が書かれていた。
「どうしたんですかナギさん? ……え」
レナスさんが横から羊皮紙を覗き込み、僕と同じように驚きの声を上げた。
そしてカナデさんも覗き込んで来て声を上げた。
「ふぁ!? な、なんですかこの金額ぅ!?」
「それだけ急ぎかつ重要な依頼だと思ってほしい」
「い、急ぐ理由は分かりますけどぉ、だからってこんな……」
「サンライトの有効性は私も確認している。これからの事を考えるとそれだけの価値はある」
「これから、とはどういう意味ですか? これから急ぐ必要のある何かが起こるのですか?」
そう聞きながらレナスさんが僕の手を握って来る。
「起こる。そして予定通りならこれから話す情報は明日東側の都市とその周辺にある村全てに情報が出される事になっている。
この村の人達にも明日我々から公表する予定だ」
「東側……全て!?」
「そんな条件で出る情報……魔の平野で何かあったのですか?」
「……二週間前北と南の魔王軍の本拠地に数えきれないほどの魔物が集結したのを確認した。オーゲストは少なく見積もっても千はいる。
そして、一週間半前魔の平野を横断している道を守る基地の中でも中間地点に存在する基地が南北の魔王軍から攻撃を受け破壊された。
幸い避難は住んでいたので被害者はいないが、魔の平野を渡って東邦国家群へ向かう道は封じられてしまった」
「……魔物達の前線基地への到着はいつ頃になるんですか?」
ずっと開き乾いてしまった口を動かし聞くと難しい表情をしていたクーガーさんは表情をさらに険しくさせた。
「南側は一週間と考えられている。北側は東邦国家群に近いからか東邦国家群の方に向かっていて、北側が襲われる危険は今の所低い。
しかし、少なくない魔物が向かっているという情報もあるから油断はできないそうだ。
こういった理由から君達に急いでサンライトの魔法石を作って欲しい」
「こ、こんなの断れるわけないじゃないですかぁ! アリスさん! レナスさん! やりましょう!」
「そうですね。しかし、グランエルから前線までの距離を考えると前線基地で作業した方が良いのではないでしょうか?」
「前線基地では魔法石の元となる魔創石の数を確保が難しい。魔障石から加工するには人手がいるがその人手をまさか戦っている兵士にさせる訳にはいかない」
「たしかに、そういう事でしたら都市で作業した方がいいですね」
レナスさんが頷き納得する。
そのレナスさんに続いて僕が口を開く。
「……今この場に軍は魔創石を持ってきていますか?」
「いや、持ってきていないが……魔創石に加工することは出来る」
「でしたら今晩から早速作業に入りましょう。幸い材料となる魔障石はゴーマが持ってきてくれました」
ゴーマは地中に埋まっている岩石を魔素で集め固め出来た魔物だ。
魔物になる際に魔素に侵され魔障石となった岩石が今沢山森の近くに転がっているわけだ。……一部ヒビキの火で原形を留めていないだろうけど。
「僕達は馬車を引いてやってきました。馬車に魔創石や魔法石を詰め込み運ぶ事も出来ます。
道中で作業も出来るので合理的だと思いますが」
「それをしてくれるならこちらとしてもありがたい。我が部隊はこの村に残り囮役の安否確認もそうだが森に魔物の生き残りがいないか確かめなければならない。
いくつかサンライトの魔法石を回してくれないだろうか?」
「問題ありません」
「よし。それなら早速石を取りに行かせよう」
クーガーさんは両隣の兵士さんに指示を出すとどちらも頷き立ち上がり敬礼をしてから素早く天幕から出て行った。
「魔創石が出来るまでサンライトの使い方の説明しておきましょう。それともう一つ有用そうな魔法も」
「頼む」




