リュート村防衛戦 その後
魔素をだいたい浄化し鎮火を終え、森の中の残った魔物及び囮となった人達の生存者の探索を軍と自警団の人達に任せ僕達は森の外で休憩を取らせてもらう事になった。
深緑の季節だから火が燃え移りにくくて助かった。
念の為にサンライトの魔法石をお父さんに渡しておく。軍の人達はまだマナが回復しきっていないだろうし、お父さんなら団員の中のマナの多い人が分かるだろう。
その休憩の最中、アールスは夕焼けと僕達に背を向け変わり果てた森を見つめていた。
そして、呼びかけようと近寄ると先にアールスの方から話しかけられた。
「森めちゃくちゃになっちゃったね」
「そうだね。でもほんの一部だけですんでよかったってお父さんは言ってたよ」
お父さんに森を燃やしてしまった事を謝ったら『そんな事は気にするな、お前が無事でよかった』と言われた後に付け加えられた言葉を伝える。
「これくらいなら森の動物達が住むに問題がないだろうって」
「……でも、私の思い出の風景が壊れちゃった」
「……」
僕達は禁止されていたので森に入った事はない。
けれど学校に入る前は二人で遊び疲れた後よく村の柵の所から森を眺めて休憩していたっけ。
「思い出の場所が荒れてしまったのは悲しいけど、でも村は守れたよ。今はそれを喜ぼう」
「うん……守れた。守れたんだね。私達村を守れたんだ」
アールスが僕の方に振り向く。
「ありがとう。ナギのおかげだよ」
「皆がいたから守れたんだよ」
「その皆がいるのはナギのお陰だよ。魔獣達はナギがいなかったら皆この場にはいなかった。
カナデさんはナギとレナスちゃんが冒険者になってなかったらこの場にはいなかった。
ミサさんはレナスちゃんがいなかったらこの場にはいなかった。
そのレナスちゃんの命を救ったのはナギだよ?
私だってナギが気球を作ってなかったら軍の特殊部隊目指してたと思う。ナギがいたから皆がここにいたんだ。
シエル様の神聖魔法だってナギがいなかったらこの世界に授かる事無かったでしょ? 全部ナギのお陰だよ」
「ん……そ、そう言われるとその通りな気がしてきた」
でも、それでもだ。
「皆がここにいるのは確かに僕がきっかけを作ったからだと思う。けど、全部僕のお陰っていうのは違うよ。
集まっただけじゃあんな大きな魔物を倒せないよ。皆がそれぞれ自分の持ってる力を貸してくれたから倒せたんだ。
だからありがとうを言うのなら皆にもね?」
「うん。もちろん言うよ」
「後僕もありがとうを言う側の人間だからね?」
「あははっ、そうだね。じゃあ言っていいよ?」
「じゃあ改めて……アールス、村を守る事に尽力してくれてありがとう」
「どういたしまして。皆にもお礼言いに行こうか?」
「んふふ。そうだね」
村を守るために犠牲になった人達もいる。彼らにも感謝をしないとな。
そして、皆の所へ戻ろうとしたその時、ディアナが村の方からやってくるのが見えた。
そう言えばサラサはもうレナスさんと連絡とり合えないんだった。
ディアナを迎え、こちらは皆無事で終わった事を伝えてからレナスさん達の方の様子を確かめる。
レナスさんはどうやら村から避難しないでアイネと一緒に残っているらしい。
村人達には一緒に来た精霊術士さん二人をつけ、二人の精霊達には連絡係として村に残ってもらっているようだ。
その時点で残っているのはレナスさん達と精霊達、それに軍属として撤退してくるはずの部隊の支援の為に残った治療士さんとその護衛達らしい。
後からやって来た兵士さん達はその治療士さん達と合流した後、戦況を聞いて村の入り口の辺りまで後退し治療を始めたのだと言う。
怪我人抱えておいて悠長過ぎない? そう思ったがどうやらレナスさんが何やら絶対に大丈夫だと太鼓判を押したそうだ。
何をしてるんだろうと一瞬思ったが、すぐに思い直す。
レナスさんがわざわざ無駄に治療士を残すはずがない。だとしたら、もしかして囮役の人が生き残っていてそれが治療士が必要な傷だったとしたら……。
魔物を倒してから囮役の人を探し見つけたとして治療士が必要な怪我を負ってた場合それはもう手遅れだと思うが、優しく聡いレナスさんだったら僅かに助かる可能性があるのなら用意しておいてもおかしくはない。
けど治療士の命と秤をかけるような選択だ。入り口の辺りにいて貰っているのはギリギリの措置なのかもしれないな。
話をしている内にレナスさんとアイネが柵の向こう側に見えた。
手を振ってみると向こうも振り返してくれる。
無事だという事は分かっていたけれど姿を見れた事でほっとし緊張が解けてしまった。
まだ魔物が出てくるかもしれないのでふんっと気合を入れ直す。
そして、まだ聞いていない村の被害状況についてディアナに教えてもらう。
村の方には投擲物はいかなかったが、動物は入り込んでしまったようだ。
ただ逃げ疲れたのか広場で休憩していたのでアイネが捕まえてくれたらしい。やはりアイネを村に行かせて良かった。
それから、さすがに畑の方までは監視できていないのでそちらの様子は分からないらしい。
ディアナから一通り話を聞いた後二人を迎える。
アイネは僕近づくと当たり前のように抱き着いてきた。
「あたしも戦いたかった!」
抱き着く腕に力を込めているみたいだけれど鎧の上からだから全然苦しくない。
「接近戦全然しなかったよ?」
「それでも!」
「う、う~ん。また今度ね?」
こんな機会無い方がいいのだけど。
それだけ話すとレナスさんが遅れてやって来て無言でアイネを僕から引き剥がし始めた。
アイネが抵抗するので中々離せない様子だったが、レナスさんがアイネの首筋を触るとアイネはびくっと身体をのけぞらせて拘束が解けた。
「な、何今の!?」
「さあなんでしょう」
すっとぼけた返事をしながらレナスさんはアイネを引きはがし立ち位置を完全に逆転させた。
「レナスさん……?」
「ナギさん、アールスさん、お疲れ様です。どうでしたか? 苦戦するような事はなかったと思うのですが」
「え? えーと……」
「確かに思い返せば苦戦する事はなかったけどレナスちゃんは苦戦しないって分かってたの?」
「当然です。魔獣達の力とシエル様の神聖魔法の特性を考えれば倒すだけならば苦は無いですよね?
なにかあるとすればオーゲスト以外の大型の魔物が現れた時くらいでしょうけれど、その様子もなかったようですね。
ナギさんが懸念していた投擲物も村までは飛んでこなかったので落ち着いて怪我人の処置を進められました」
「そ、そっか。ディアナから聞いてはいるけれど村の中に目立った被害が無くてよかったよ」
もしかしてレナスさんサンライトで空気中の魔素を浄化できる事も分かってる?
い、いかん。一番の信者である僕がレナスさんよりも神聖魔法の理解度が低いのは僕の沽券関わるぞ!
「っと、そういえば治療士達は撤退させなかったんだね」
「ええ、オーゲストはナギさん達が退治すると分かっていたので万が一の事を考え村人達は避難させましたが、軍関係の人達は村人の護衛以外は本人達の意思もあり残ってもらいました。治療士達が残っていれば助かる命もあるかもしれないと思ったので。この判断は間違っていなかったと思いますが……不味かったでしょうか?」
「いや、僕も良かったと思うよ。ただ不味いかどうか決めるのは僕じゃなくて軍の人達じゃないかな。
……撤退の合図に従わなかったからって罰せられるって事無いよね……?」
「う~ん。どうだろうね。あくまでも合図であってちゃんとした命令って訳じゃないからどこまで撤退するか、どう撤退するかを事前にどう決めてたかによるだろうからなぁ」
「私達が今気に病む必要はないでしょう。それよりもこっちに来ていた自警団の方々は?」
「残った兵士さん達と一緒に囮役になった人と残った魔物の探索をしてる。
もうすぐ暗くなるからそろそろ帰って来ると思うけど……」
「兵士の方々はともかく自警団の方々はゴーマを相手に出来るのでしょうか?」
「一応サンライトの魔法石はお父さんに渡しておいたよ」
「そういえばレナスちゃんはどうして自警団の人達こっちに来るの許しちゃったの?」
アールスの問いにレナスさんは表情を曇らせた。
「娘を助けるんだと言われ、その、止められませんでした……」
「ああ、うん……うちのお父さんがごめんね」
お父さんの気持ちは分かるし普通に考えたら僕が危険だって思うのも当然だから間違っているわけじゃないんだけど……。
いや、結果的にサンライトの力を見せる事が出来て受け入れやすく出来たのは良かった事なのかも?