リュート村防衛戦 その4
オーゲストは攻撃を避けようとはしても逃げようとはしなかった。
悪い事に木の陰に隠れるので木々が燃え始めてきている。
サラサに鎮火を頼もうにもオーゲストの魔素が邪魔をしてサラサのマナが火に干渉できない。
幸いな事に火はオーゲストの味方にはならない。
自然の火は魔素に邪魔される事無く魔物の身体を焼いて行く。
ゴーマのような岩石系の魔物には効果は薄いだろうが、オーゲストはオークやオーガと同じ生き物の肉に似た物質で身体が出来ているように見える。
頑丈さでは比べ物にならないだろうけれど、それでも剣で切る事が出来る位には柔らかい……と思う。前に見た軍の部隊は槍でオーゲストの脚を削っていた。
とにかくオーゲストも火を消そうとしているが、僕達のいる方向とは逆の、オーゲストに背後で燃えている木は無視している。
生き物を殺す為に魔物は生命を感じる方へ向かおうとするとは聞くけれど背後の火は気にも留めないとは何と前のめりな生き方なんだ。
「近づいてきたな……カナデさん、サラサ、サンライトお願い!」
アールスの号令と共にサンライトが放たれる。
カナデさんは初めて敵に向かって使うとあってか当てにくそうだ。
サンライトの光は不思議な事に日中でもうっすらと白く発光しているのが分かり、光を見て的に当てるのは難しくない。
けど指先から出るというのが意外と難しいのかもしれない。少し指を曲げたり震えるだけで遠くの的に当たらなくなってしまう。
慣れれば魔法石を使うより使いやすいんだろうけど、カナデさんは緊張しやすいからな。
初めて実戦で使う魔法に緊張してしまったんだろう。
だけどカナデさんはすぐに息を整えて指先の震えを止めてサンライトをオーゲストに当てた。
サンライトが当たるとオーゲストはさらに苦しそうに雄たけびを上げる。当たった部分から煙が出ているから焼けているのだろうか?
さっきは遠かったから煙が見えなかったんだろう。
「効いてる! けど皆油断しちゃ駄目だよ! 追い詰められたら何してくるか分からないからね!」
アールスの言ってる事はもっともだ。今の所魔法を使ってくる気配がないのが不気味である。
それとももう使っているのか? 空気中に毒をばらまいているとか。
「アールス、念の為セイクリッドバリアかけておく?」
「そうだね。私が皆にかけておくよ。ナギはマナを温存しておいて」
セイクリッドバリアはサンライトほどじゃないが維持し続けなければいけないという性質上やはりマナの消費が大きい。
アールスのマナの量じゃ複数人分を長時間の維持するのは出来ないだろう。
それなのに買って出たという事は時間をかけるつもりはないのかもしれない。
実際オーゲストに動き回られていてナスの光線で部位を切断は出来ていないけれど、確実に損傷を与える事に成功している。
それに加えてのサンライトだ。確かにもうすぐ倒せそうに感じる。
「サラサ、マナの残量は大丈夫?」
「ええ、まだまだ余裕はあるわよ。後五時間は使い続けられるんじゃないかしら」
「さすがに五時間も使い続ける前に倒せると思うけどね。じゃあちょっと広げてみようか。もっと広い範囲に当たるように」
「了解」
光の範囲が広くなった。
サンライトは範囲を広さに比例して消費が大きくなる。けれど威力だけは変えられない。
フォースもサンライトもホーリースフィアもやってる事はあくまでも魔素の浄化なので実は威力という概念がないのだ。
もしももっと早く魔物を倒したいというのならその分マナを消費するしかない。
フォースなら数を増やす、サンライトなら範囲を広げるといった具合に。
広くなったサンライトから逃げる為かついにオーゲストが立ち上がろうとする。
だがしかし、立ち上がる途中でオーゲストが左脚から崩れた。きっと脚の支えが支えきれなくなって壊れたんだ。
「ぴー? ぴぴー」
ナスが僕を呼ぶ。
「どうしたナス?」
「ぴー、ぴぴっぴぴー?」
魔眼で今森を見ているかと問われた。
「当然見てるよ。魔素が濃くて見えなくなるからしっかりと使ってるわけじゃないけれど」
とりあえず魔法を使う気配を感じ取れるように魔素の濃淡が分かる程度の精度で魔眼を使っている。
「ぴー。ぴぴー?」
森の魔素減ってない? と聞いてくるのでしっかりと見てみると確かに魔素が極端に薄い空間がある。
薄くなってる理由に僕はすぐに思い立った。
「ああ、あれはサンライトの影響だよ。サンライトが途中の魔素を浄化してるから森の中の魔素が減ってるんだ」
「ぴー」
ナスがなるほどと納得してくれた。
「……ねぇナギ。それってつまり魔眼を持ってるナギなら魔物の魔法の発動をサンライトで邪魔できるんじゃない?」
「う~ん……その発想はなかったけど、魔物が魔法陣を使うなら多分できると思う。ただ僕はカナデさんみたいに目がいい訳じゃないからこの距離だと小さい魔法陣みたいな魔素溜まりは分からないかもしれない。
それ以前に魔法の使い方が生活魔法みたいな魔法陣のいらないやり方だったら発動は防げないね」
「そう。上手くはいかないのね」
「でも魔物の纏ってる魔素まで浄化できるのはいい着眼点だ。ヒビキ、サンライトの光を辿って魔法をオーゲストに向けて放ってみて」
「きゅ? きゅー」
ヒビキがフレイムランスを放ち、サンライトの光に沿って飛ばすと無事にオーゲストの元まで届いた。
そしてさらに着弾した個所をフレイムランスが貫通した。
「よし! これならヒビキも攻撃に加われるね」
「やったじゃない。これなら絶対に勝てるわね」
「ヒビキちゃん最高! ガンガンやっちゃって!」
「きゅ? きゅきゅ~」
褒められて嬉しくなったのかヒビキが羽をパタパタと動かしながらさらに魔法を使っていく。
これなら僕の出番はなさそうかな。
オーゲストの投擲は相変わらず続いていたが、ヒビキがオーゲストの肩にフレイムランスを当ててくれたおかげで片腕を落とせた。
そこからナスがもう片方の腕を光線で切る事に成功し投擲の心配はなくなった。
僕達は他の魔物を警戒しつつオーゲストに近づき光線と魔法を当てやすくする。
火の煙はアロエが僕達の方に来ないようにしてくれる。
サンライトで辺りの魔素を浄化しようかとも考えアールスに確認を取ったが、今はオーゲストを優先するようにと言われたのでその通りにする。
ここから早かった。
サンライトがオーゲストの動きを阻害している間にナスが端からオーゲストの身体を解体していき、ヒビキが分厚い腹部を破壊し上半身を下半身を分けた。
グライオンの北の遺跡でも見た光景だがあいかわらず絵面がきっつい。
上下が分かれたのでそこから核の場所を特定していくのをナスに任せ、ヒビキには一旦休んでもらう。
そして、核の場所を探している間にサンライトを使って森の中の魔素を浄化しつつサラサとアロエに火の鎮火の作業を頼んだ。