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リュート村防衛戦 その2

 兵士さんが村の中に入っていた後少ししてから後続の兵士さん達が魔物に追われつつ帰って来た。

 アールスが追ってきた魔物の足止めをしてくれたおかげで兵士さん達を確保できた。

 重傷者を庇いながら逃げてきた事もあってか全員疲労困憊な様子だった。

 僕が全員にインパートヴァイタリティで生命力を分け与えるのは現実的じゃない。

 全員が歩けるようになれる程僕に生命力は無いし、そもそもインパートヴァイタリティは直に肌で触れ合わないと生命力を渡せない。この数をいちいち分け与えている時間なんかない。


「仲間が村人の避難と防衛をしているので兵士の皆さんは早く村の中に退避してください!」


 アールスがそう叫ぶと重傷人を運んでいる兵士さん達が村の中に入って行く。

 しかし、比較的元気そうな兵士さんは残るつもりなのか魔物に向かって武器を構え始めた。


「お、俺達もやるぞ」

「貴方達の力は必要ありません! 邪魔だからさっさと全員村の中に下がって!」


 アールスの怒声が響く。本気で怒ってる声初めて聞いたかもしれない。

 しかし、言い過ぎに感じるが……いや、でもあれくらい強く言った方がいいのか?


「ヒビキ、魔物をお願い!」

「きゅ!」


 ヘレンの頭の上にいるヒビキにお願いすると地中に埋められ身動きが動けない魔物に対して攻撃を開始する。

 一体を倒してから改めて僕からお願いする。


「見ての通り魔物を倒す力はあるのでまだここは大丈夫です。今は下がって体力を回復させてください。オーゲストが迫ってきた時は頼りにします」


 そう言うと兵士さん達は躊躇いながらも下がってくれた。

 と言っても村の中に入るのではなくいつでも参戦できる距離にいる。

 そして、問題のオーゲストの方はというと、ナスが攻撃を仕掛けているが動き回る所為で上手く腕を切り落とせないらしい。

 なのでとにかく暴れさせないように行動を封じるように攻撃する事を優先させるようにとアールスが助言した。

 オーゲストが動き回ったせいで囮になった兵士さん達に犠牲が出てなければいいけれど……ナスに攻撃させたのは失敗だったか?


 ……それにしてもゼレ様の神聖魔法のハウルはすごいな。戦意を高めたまま冷静さを保てている。

 普段の僕だったら囮役の人達が僕達の判断の所為で死んでいるかもと考えていたら吐いていたはずだ……胸は苦しいままだけれど。

 完全に冷静にさせないのはゼレ様の意向通りなのだろうか?


「まずいな。敵が多すぎる」


 アールスの言葉に思考を止め森と埋まっている魔物の方に視線を向ける。

 地面はまだ十体の魔物が埋まっているがヒビキが一体ずつ処理している最中だ。

 そして森の中からは確かにまだまだ魔物が出てくる様子が見える。


「このままじゃ私の精霊魔法で足止めする場所が無くなるよ」

「それでしたら前方の魔物を動けなくして前に出てこられないようにすればいいんですヨ」

「なるほど! ミサさんありがとう!」

「囮役の人達は……僕達が何をしてもこの状況じゃこっちの方に逃げてこられないか」


 ただヒビキだけに任せていたらいずれ押し切られる可能性も出るか?

 ヒビキがもっと器用に能力を使えたらもっと早く処理できるが、まぁそこはしょうがない。ヒビキに任せきりになるのも不味いし僕とミサさんも前に出て……。

 不意に待機させていた水が動くのを感じた。


「ぴー! 木、投げてくる!」


 ナスの声と同時にゲイルが用意してくれる水の壁よりも後ろに下がる。

 後ろに下がりきるのと爆発した様な音が聞こえたのはほぼ同時だった。

 分厚い水の壁は上手く木を防いでくれた。


「とうとうナスを狙ってきたか」

「ぴー! 走ってくる!」

「壁はこのままヘレン固定化お願い! 最高まで硬くしなくていい! 水のベッドみたいに柔らかいままで網目状にして動かしやすいようにしておいて!

 それで無理に捉えようとしないであくまでもオーゲストの動きを邪魔する事に集中してね!

 ヒビキちゃんはヘレンから降りてナギの元へ! ナギはヒビキちゃんの足になって守ってて!!

 ナスは高台から降りてオーゲストを攻撃できる位置に移動!

 カナデさんとミサさんとゲイルはナスを守って!」


 遠くから地響きが聞こえてくる。

 時間がない。アールスの言う通り動こう。

 大金槌を一旦地面に置きヘレンの頭の上から飛び降りてきたヒビキを受け止める。

 大金槌をどうしようかと迷っているとカナデさんが貸してほしいと申し出てきた。

 弓ではオーゲストにもゴーマにも効かないが大金槌ならゴーマからナスを守れるかもしれないので使いたいらしい。

 カナデさんは僕よりも力があるから適任かもしれない。もしやアールスはそこまで見越して僕にヒビキを?

 とにかく大金槌はカナデさんに渡しておこう。


「ゴーマはどうする?」

「残りのマナでアースの土人形何体作れる?」

「問題ない範囲だと五体」


 水の壁を動かすだけでもマナは消費する。余裕を見て五体が限界だろう。

 ただ水を動かさないでいいなら二十体は作れる


「下手に作るより水の壁を厚くした方がましかな。ゴーラムは私が足止めするから無視! 先にオーゲストを処理する!

 それとアースはヘレンの事守って支えてあげて」

「ぼふっ!」


 地響きが近くなってきている。オーゲストが来るのも時間の問題だ。


「ナギ、サンライトの魔法石を私でも使えるように用意してくれる?」

「分かった」


 サラサに言われ腰の小袋の中からサンライトが込められた魔法石を取り出す。

 サンライトは魔法石で使う場合封印の魔法陣から出るから向きには注意しておかないと。


「皆来るよ!」


 オーゲストの頭が見えた。ナスが光線を出し顔を狙う。

 光線は当たるがオーゲストは走りながらもすぐに頭を動かし光線を外そうとする。

 しかし、遠かったさっきまでとは違いこの距離なら当てやすい。

 いや、むしろ近づいて来るなら無理に動かす必要はないか。近づいて来るから正中線に沿うように光線がオーゲストの身体の表面を削って行く。

 ふいにオーゲストの頭が見えなくなった。身を屈めた様だ。さらに土砂が落ちる音まで聞こえてくる。


「また投げてくる! ヘレンお願い!」

「くー!」


 アールスの予想は的中して木がまた飛んできたがヘレンが水の網で受け止め跳ね返してくれた。

 けれどオーゲストは手当たり次第に物を投げてきて、中にはゴーマも混じっている。


「アールス! このままじゃ押し切られる!」

「ゲイル、フォースでちょっかいかけて来て! オーゲストが動きを止めたり変えたりゴーマが集まってきたらすぐに戻ってくるように!

 後ナギはゲイルにセイクリッドバリアかけてあげて!」

「ききっ!」


 ゲイルが僕に近寄って来る。

 腰の小袋の中からフォースが込められた魔法石のついた首輪を取り出しゲイルに身に付けさせ、セイクリッドバリアをゲイルに付与する。

 石と首輪をつけるとゲイルの負担が大きくなるからぎりぎりまでつけさせなかったが……。


「近づきすぎないようにね。森の中から木の陰に隠れ移動しながら攻撃するんだ」

「きー!」


 行かせたくないなぁ! オーゲストに近づくなんて危険に決まっている。

 ゲイルは軽いからオーゲストの腕の振りの時に発生する風で吹き飛ばされるかもしれない。

 腕を振り落とした時や木を引き抜く時に石が跳ねゲイルに当たるかもしれない。

 心配すればきりがない。

 ……けれど、ヘレンの負担を減らすのならゲイルが一番適任なんだ。


「風と飛んでくる石にも気を付けてね」

「きー!」


 ゲイルが森の中に入って行く。

 ゴーマは大丈夫なはずだ。攻撃しなければ魔物は魔獣を狙わない。

 そして、ゲイルのお陰かオーゲストは歩みは止めないが投擲の頻度が減って来た。


「結構近づいてきた。アールス、サンライト使っていい!?」

「……うん! サラサお願い!」


 ヒビキを片腕で抱え直し、右手に持った魔法石の封印の魔法陣をオーゲストの方に向ける。

 そしてサラサのマナが魔法石を包む。


「サンライト!」


 光が魔法石から放たれる。……オーゲストからちょっとズレてた。

 すぐに角度や立ち位置を調整しオーゲストに当たるようにする。

 だがオーゲストには警戒されているようですぐに身を伏せられてしまって身体が森に隠れてしまった。


「ヘレンは油断しないで。きっと伏せたまままた何か投げてくるよ!

 サラサは一旦サンライト止めていつでも使えるように待機!」


 アールスの言う通り木々が投げられてくるが視認できない為か狙いをつけられないようで変な方向に飛んだり手前で落ちてゴーマに当たったりしている。

 最悪な事にゴーマに木が当たっても被害が出ないどころかアールスが拘束していたゴーマが押し出され拘束が解けてしまった。


「あっ! 木が倒されてオーゲストが見えるようになりましたよぉ! ちょっとずつ近づいてきていますぅ!」

「引き付ける? でもその前にゴーマをどうにかしないと。サンライトで……うん。サラサ! サンライトでゴーマを倒せるか試して! 倒せてオーゲストまでの射線が通ったらナスがオーゲストに光線を! マナに余裕があったらサラサもナスの攻撃に参加してね!」

「アリス無事か!?」

「無事だよ! ……って、え?」


 聞き覚えのある声に背後を振り返ってみるとそこには武装したお父さんと自警団の人達がいた。


「お父さん!?」

「加勢に来たぞ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] >聞き覚えのある声に背後を振り返ってみるとそこには武装したお父さんと自警団の人達がいた。 >「加勢に来たぞ!」  普通なら村の自警団程度が来てもどうにもならないけど、なにか隠し玉があったり…
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