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僕達の旅 その3

 辺りが本格的に暗くなってきた頃僕達はもう一度話し合った。

 このまま進むか野営をするか。

 地図で現在位置を確認し、今の時間と村への到着予想時間、残りの体力を考えに考えて出した結論が、先に進む事だった。

 暗くて見えないが恐らく村までは後一時間程でたどり着ける。明かりはベルナデットさんがライトを使ってくれるから問題ない。

 体力も、疲れを見せ始めているのは未だに僕の背中で眠っているフェアチャイルドさんとローランズさんの二人だけだ。

 正直自分でもまだ平気な事に驚いている。大人ならまだしも子供がこの距離を大した疲れもなく歩けるというのはやはり異世界だからなのだろうか?

 ローランズさんに無理をしないようにと忠告をしてからまた歩き出した。

 そして、一時間ちょっと歩いて僕達はようやく村にたどり着いた。

 とりあえず村長さんの家に行って部屋が空いているかどうかを聞かなくては。

 村の家々の窓や隙間からは光が溢れている。


「そうだ、一応村の人に宿屋がないか聞いておこうか」

「村長の家に泊まるのでは?」

「人の通りが多いから宿があってもおかしくないかなって。なくても村長さんの家の場所を聞ければそれでいいし」

「じゃあ私が聞いてくる!」


 ベルナデットさんは疲れを感じさせる事のない足取りで近くの家へ近寄って戸を叩いた。

 一瞬食事中だったら迷惑じゃないか? と思ったけれどここはわがままを通させてもらおう。ローランズさんがもう限界に近そうなんだ。

 ベルナデットさんはすぐに戻ってきた。


「宿屋あるって!」

「じゃあ宿屋に行ってみようか。どこにあるの?」

「向こう」


 ベルナデットさんの指差した先には周りの家よりもひと際明るい光が漏れている建物があった。大きさは寮の半分くらいの大きさだ。

 早速中に入ってみるとアルコールの匂いが漂ってきた。

 中を見渡してみると大勢の大人の人がテーブルを囲んで楽しそうにお酒を飲んでいる。僕達のような子供はいなさそうだ。


「ん……」


 僕のすぐ後で動く気配がする。


「フェアチャイルドさん起きた?」

「……はい」

「ここは村の宿屋だよ。立てる?」

「立てます……」


 腰を下ろし降ろすとフェアチャイルドさんは最初はフラフラしながらもすぐに姿勢を正した。

 フェアチャイルドさんがちゃんと立ったのを見届けて視線を戻すと、ベルナデットさんとローランズさんが突っ立っていた。

 てっきりカウンターに行って手続きを済ませてくれたかと思ったんだけど。


「二人ともどうしたの?」

「あ……ち、ちょっと緊張しちゃって。ね? フィア」

「は、はい」


 緊張しているというよりは何かに怯えているように僕は見えた。

 僕は首を傾げ店内をもう一度見渡してみるけど、特に怪しい物はないように見える。

 仕方ないので僕がカウンターに行く。

 カウンターには厳つく、筋肉が小山のように盛り上がったおじさんがいた。


「すみません。子供四人……で泊まりたいのですけど」


 一瞬先生も勘定に入れた方がいいのかと思ったけれど、先生は基本いない者として扱えと言っていたので人数に数えなくていいだろう。

 でも後でちゃんとお礼は言っておいた方がいいよね。


「一部屋一晩銅貨六十枚だ」

「食事付きですか?」

「そうだ。今からでも食えるぜ」

「一部屋で何人眠れますか?」

「大人なら二人。……お前達位なら詰めれば四人で寝られるかもな。ただしその場合食事代として銅貨二十枚足させてもらうけどな」

「ちょっと相談してきます」

「早く決めな。空いてる部屋はあと二部屋しかないんだからよ」


 皆の所へ戻り相談してみると、皆同じ部屋でいいという返事が返ってきた。


「一部屋でお願いします」

「おう。じゃあ銅貨八十枚だ」


 村長の家に泊まるよりもちょっと高いけど、ここはちゃんとしたお店なんだ。そう考えるとむしろ安いんじゃないか?


「わかりました。ローランズさん」


 僕が呼ぶとローランズさんは恐る恐るといった様子で僕に近づいてきた。一体何がそんなに怖いんだろう?

 前もって皆から集めておいたお金を受け取りおじさんに手渡す。念の為余分に持ってきておいてよかった。


「部屋は二階の一番右の部屋だ」


 鍵を受け取りみんなの元へ戻る。


「ど、どうだった?」

「どうって、ちゃんと取れたよ」

「そうじゃなくて! その……怖くなかった?」

「怖い? ……ああ、お店の人の事?」


 ベルナデットさんとローランズさんがコクコクと小さく、そして素早く頷いた。なるほど、怖がっていたのはあのおじさんだったのか。確かに子供からしたら怖い顔つきかもしれない。


「僕のお父さんもあんな感じだから」


 苦笑しつつ部屋に行こうと促した。

 フェアチャイルドさんはまだ眠そうにしていたので僕が手を引いて連れていく。

 部屋は寮の部屋よりも少しだけ狭い。大体六畳位だろうか? ベッドが二つに、その脇にサイドチェストと金庫があるだけのシンプルな部屋だ。


「眠い……」

「あっ、フェアチャイルドさん寝る? ご飯食べられるけど」

「……食べます」

「じゃあ荷物置いたら皆で下に行こう」


 心なしかご飯と聞いて皆の元気が戻ったように見える。

 荷物を置き戸締りをきちんとして一階へ行く。

 空いているテーブルに座ると早速給仕をしているお姉さんに食事を持ってくるように頼んだ。

 食事を待っている間、僕は隅に人が集まっているのを見つけた。服装からして旅人以外にも村人もいるみたいだ。

 ベルナデットさんもそれに気づいたようで椅子から降りて興味深そうに覗きに行ってしまった。


「何だろう?」

「何でしょう?」

「……多分、占い師じゃないでしょうか」

「占い師?」


 この世界の占いはかなりの確率で未来を当てられるという事は本や噂を聞いて知っている。

 どうやら『時読み』という非常に希少な固有能力で未来を知る事が出来るらしい。


「ご飯食べ終わったら僕達も占って貰おうか?」

「お金足りますか?」

「いくらするか聞いてみればいいよ」

「ねぇねぇ! 占いしてるんだって! 占ってもらおうよ!」

「はは、ご飯食べ終わってからね」


 ベルナデットさんは早く占ってほしいらしく食事の最中もチラチラと占い師の方を見ていてローランズさんに怒られていた。


「それにしてもよく占い師だってわかったね? フェアチャイルドさん」

「昔、私の村にも来て同じような光景を見たんです」

「ふぅん。よく覚えてるね」

「娯楽が少なかったですから」


 確かに占い師なんて珍しい人が来たら覚えていてもおかしくないか?


「フェアチャイルドさんも占って貰った?」

「……いえ、私は占って貰っていません」


 フェアチャイルドさんは僕から目を逸らしながらそう言った。


「……そっか」


 あんまりいい結果じゃなかったのかもしれないな。あまり追求しない方がいいか。

 食事が終わると人が少なくなった占い師の元へベルナデットさんが早速向かった。

 値段は何と銅貨十枚らしい。

 お子様価格だと笑っていた。

 それを聞いた僕達は早速お金を払って占いをしてもらう事にした。

 最初はベルナデットさんだ。

 フェアチャイルドさんからの提案で占いの結果が聞こえない位置に皆いようという事になった。話したければ話す。けれど恥ずかしければ話さなくていいと付け加えて。

 少し離れた場所からベルナデットさんの様子を窺うと、ベルナデットさんはまさに百面相の顔つきを見せて、顔を真っ赤にしながらこちらへ戻ってきた。


「どうでした? ベル」

「えへへ~、王都で素敵な暮らしができるでしょうだって~」

「あっ、将来王都に行くんだ」

「うん。えと、今のままだとその可能性が高いんだって」


 お次はローランズさんだ。ローランズさんはベルナデットさんと違って真剣な表情をしている。

 占いが終わったローランズさんは深刻そうな顔をして戻ってきた。


「フィア、どうだった?」

「私結婚できないって言われました……」

「……」


 なんて言えばいいんだこんなの。僕には重すぎる。


「……お、おー……えと、フィア、占いは絶対じゃないらしいよ?」

「うぅ……」

「け、結婚できなくたって私がそばにいるから。ね?」

「本当ですか……?」

「うん! 本当本当!」

「じゃ、じゃあ次は僕が行くね」


 僕は逃げるように占い師の元へ行った。

 僕は占い師の前に座り改めて占い師の姿に注目した。

 フードを目深に被っている所為で表情が陰で隠れてよく分からない。服も外套に隠れていて性別が分かりにくいけど顔の輪郭からして多分女性だろう。


「ふふ、かわいい子が続くのね。あなたも将来の事が知りたいの?」

「は、はい」


 僕はそう答えながら銅貨十枚を占い師に渡した。


「そう。じゃあ……時よ、私に彼の者の道行きを『ロードオブフォーチュン』」


 占い師がかざした手に青白い光が集まって、まるで水晶玉のような半透明な球体へと姿を変えていく。

 これは魔法の様に見えるが、魔法ではない。実物は初めて見るけれど固有能力がもつスキルだ。

 固有能力には身体に影響を及ぼすものだけではなく、魔法のように任意に効果を発動する事ができるアクティブスキルと呼ばれる物がある。

 たとえば自動翻訳の翻訳機能なんかがアクティブスキルだ。

 僕の魔獣の誓いの魔獣を仲間にする効果なんかはON/OFFを変えられず自動で発動しているのでパッシヴスキルと呼ばれる物だ。

 どちらのスキルも魔力(マナ)を消費せずに発動できるため、神聖魔法の様に神の奇跡と呼ばれているらしい。


「……これは」


 占い師の声が固くなったように聞こえる。どうしたのだろう? 悪い結果でも出たのだろうか。


「あなたは、優柔不断ですね?」

「え?」

「占いというのは対象者の今から歩む道を少し覗かせてもらう能力です。いわば人生の地図を盗み見るようなもの。

 しかしその地図はその本人の意思の強さによって幾多の道が描かれます。本人の意思が一本の道を強く願えばその分その道が力強く描かれ、他の道は見えなくなる。

 本人の意思とは関係なく地図に描かれる物も勿論ありますが、あなたにはそもそも地図自体がうすぼんやりとしか描かれていないのです。

 これは優柔不断な人に良く見られる傾向です。その分可能性が多いとも言えますが、あまり人に流されぬようご注意ください」

「ええー……」


 説教された。恥ずかしい! 僕って優柔不断だったの?


「えと……じゃあはっきりとした未来は見えないって事ですか?」

「……いえ、まだはっきりとはしませんが、あなたがこれからどんな道を進もうがたった一つの道をいずれは通る事になるようです。そこだけは見えます」

「そ、それは何ですか?」


 男に戻れる道だったらいいな。


「五匹の獣を連れてあなたは巨大な魔物と戦う事になるでしょう。そして……そして……」

「な、なんですか?」

「申し訳ございません。これ以上は歪みが多くて読み取れません」

「歪み? 見えない訳じゃなくて?」

「恐らくここから先はあなたの周りの人間からの影響が強すぎて歪んで見えてしまったのでしょう。人生の地図は決して一人だけで描くものではありません。時に傍らにいる人が地図をまったく別の形に変えてしまう事があるのです」

「じゃあそばにいる人の事はわからないって事ですか?」

「はい。これに関しては誰でもそうなのです。例えば将来の結婚相手を占ったとしても、結婚できるという事実は確定できても相手が誰かまでは確定できず、必ず歪みが出てしまうのです。

 もっとも、多少歪みが出た所でその人の顔が見えてしまえばほぼ確実にその未来は達成されますが」

「そうなんですか……ありがとうございました」


 僕は頭を下げてから立ち上がり皆の元へ戻った。


「どうだった?」

「なんだか将来五匹の獣と一緒に大きな魔物と戦うらしいよ?」

「五匹?」

「多分一匹はナスの事だと思うよ。大きな魔物って何だろうね?」


 皆首をひねって考えているが、僕も大きな魔物と言われてもピンとこない。


「トロールの事かな」

「魔王かもよ?」

「ええ? 僕魔王なんて会いたくないよ」

「ですよね。魔王なんて神様でもない限りは……」


 魔王は神様が倒すもの。面白い事にこの世界ではそういう物語が多い。勇者は魔王を倒す者ではなく人々を守る者としてフィクションの中でも書かれている事が多い。これは多分伝説の勇者の功績が、魔王を倒したものではなく、人々を守った事に由来する物だろう。

 そもそもこの世界の勇者は誰一人として魔王を倒していない。そもそも魔王の存在すら時折現れる人の言葉を話す魔物からの情報の中で語られているだけなんだ。


「まぁとにかく次はフェアチャイルドさんだね」

「はい」


 一つ頷いてからフェアチャイルドさんは占い師の元へ向かった。


「フェアチャイルドさんはどんな結果かな」

「さぁ…それは本人たちにしかわかりませんよ」

「いい結果だといいね」


 本当に。悪い結果なんて出てほしくない。けど、なんていうんだろう、いやな予感がするんだ。こう、漫画とかを読んでてフラグがぐさぐさと突き刺さっていくのを感じながら読み進めていくような、そんな感覚がさっきから拭えない。

 いや、さすがに現実とフィクションを一緒にするのもどうかと思うけど、それぐらいフェアチャイルドさんにはフラグが立っているように思える。

 占いが終わりフェアチャイルドさんが戻って来た。しかし、その表情はいつもと変わらないように見える。


「結果はどうでしたか?」

「……私も、結婚できないと出ました」


 その言葉を聞いたローランズさんはガシッと音が出そうなほど勢いよくフェアチャイルドさんの手を取った。

 これは仲間認定されたか?


「お気持ちお察しいたします」


 フェアチャイルドさんは気まずそうにローランズさんから目を逸らした。

 けれどローランズさんはそれに気付いた様子もなく話を進めた。


「フェアチャイルドさん……いえ、これからはレナスさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「は、はい」

「では、私の事もフィラーナでもフィアでもお好きに呼んでください」

「で、ではフィラーナさんで……」

「はい!」

「フィアだけずるい! 私の事も好きに呼んでいいからねーレナスー」

「はい……マリアベルさん」


 なんだか一気に三人の仲が進んだようで何よりだ。

単純な計算ミスが分かり全員の年齢を一つ上げて修正しました




すっごい恥ずかしい

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