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 冒険者組合の依頼人と冒険者が話し合うための客室で僕はジーンさんから受けた依頼の責任者と挨拶をかわし終えた。


「いやぁ土の精霊と契約している精霊術士を探してたんだけどいなくてね。本当に助かったよ」


 そう言った人こそが今回の依頼の責任者であるウィキッド=ゴーウラス博士だ。

 博士はジーンさんから聞いた通り背筋がしっかりと伸びているが顔や手の指の皴は深く、眉と髭にしかない毛も白髪だらけの高齢のご老人だ。

 学者にしては想像と違って肌が日に焼けて黒くなっている。よく外に出て調査しているからだろうか。


「ただ実際に現地に行く前に君の魔獣の力を確認したいんだがよろしいかな?」

「それはもちろん大丈夫ですが、確認するための土地はあるのですか? さすがにグランエル周辺の土地で勝手に土を掘り返すのは問題になると思いますが」

「それは問題ないよ。調査の一環として許可を貰っている土地がある」


 今回の依頼内容は調査に協力する事だから予定外の土地でも調査目的で力を振るう事は拒否できないか。

 報酬の上乗せは……無理をすれば出来そうだけれど博士の言い分は正当だから無理にやっても評判が悪くなるだけかな。

 土の精霊に変われるような力が無ければ僕達に依頼する意味なんてないのだから。確認するのは当然だろう。

 そもそも今回はジーンさんの縁からやって来た依頼だ。ジーンさんの顔に泥を塗るようなことは出来ない。


「分かりました。ジーンさんとも依頼内容の確認は事前にしていますがお互いの認識の再確認の為に依頼の責任者であるゴーウラス博士と依頼内容の確認と打ち合わせをしてもよろしいですか?」

「ああ、いいよ。慎重なのはいい事だ」


 依頼内容の確認をし、互いに齟齬がない事を確認し終えると続けて打ち合わせをしてすべてが終わると緩まった空気が流れた。


「それにしても本当に地中に魔物がいるんでしょうか?」

「どうだろうねぇ。魔蟲が増えていたという説を押すとなると空中か地中の魔素濃度が高くないといけないけれど、少なくともグランエルが出来てから今までで虫が魔蟲になるほど空気中の魔素濃度が高くなったという観測結果は無いね。

 となると僕の説を成立させるためには地中の魔素濃度が濃くなっている事を証明しないといけない。

 僕の説を押すとどうして地中の魔素濃度が濃いのかという疑問に当たるけれど、その回答が魔物が地中にいて魔素濃度を上げているという事なんだ……当たって欲しくはない予想だけれど外れたら僕の説も間違っていた事になるから嫌な板挟みだねぇ」

「僕としては外れている事を願いますよ」




 冒険者組合での博士との会合の翌日、出発の日がやって来た。

 レナスさんに留守を託しカナデさんと一緒に預かり施設へ向かう。

 その預かり施設でジーンさんとその魔獣達と会ったのでそのまま一緒に都市の外へ出る事にした。

 アースに馬車を引いてもらい検問所までの道すがらジーンさん達に初めて会うゲイルとヘレンの紹介を済ませておく。


 ジーンさんの方は新しい魔獣は増えていない様だ。どうやら出会いがないらしい。

 ジーンさんの魔獣達は一体どんな感情でジーンさんに引かれたのだろう? 気にはなるが聞いてよい事なのか分からないため聞くことは出来なかった。

 なので代わりに別の事を聞く。


「魔獣って長生きですよね。ジーンさんは自分が死んだ後や面倒を見られなくなった時の魔獣達の先行きを考えていますか?」

「一応はね。大森林のバオウルフに託すか軍に託すか野に帰るか……魔獣達の意見も聞きつつ決める事になると思うわ」

「そうですか……現状その三択しかありませんからね」

「ナギちゃんはもう考えてるの?」

「ナスと出会った時から漠然とは考えていましたよ。強く意識しだしたのは大森林に行ってからですけど」

「それでナギちゃんはどうするつもりなの?」

「……僕も今の所ジーンさんと変わりません。でも新たな選択肢を生み出せたらな、とは思っています」

「新たな選択肢って?」

「人の社会に参加する事です」

「人の社会に?」

「そう、例えば魔獣も魔獣使いに頼らなくても仕事をして都市で暮らしていけるようになればいいと思っています。

 魔獣も人や精霊の言葉を理解してマナを操れば意思の疎通が出来るので可能なはずです」

「でも魔獣達がそれを望むかしら? 魔獣達は働かなくても生きていけるわよ?」

「あくまでも選択肢を増やすだけです。僕は魔獣達に僕がいなくなった後も幸せに生きて欲しいんです。その為には人間と魔獣の友好は必須だと考えているんです。

 そしてその友好を保つためにも魔獣に人の社会に参加する事が重要だと思っています」

「それは魔獣が軍に協力するだけで目的は達成できるんじゃないの?」

「僕はそれでは駄目だと思います。魔獣達の戦う力だけを求めるような協力では魔獣達に体よく利用されていると思われかねません。

 魔獣との友好を維持するのなら血の流れない仕事をしてもらい戦い以外でも協力し合えるという事を示す方がいいと思います」

「たしかに戦う事以外に選択肢を用意してあげたい気持ちは分かるけど……容易い事じゃないでしょうね」

「僕が生きている間に達成できるかは分かりませんけど……やる事を全てやり終えたら僕は一度友人や知り合い、それと大森林の魔獣達とこの事について話し合いたいと思っています」

「私に話したのもその一環?」

「ジーンさんは……どう思いますか?」

「素晴らしいと思うわ。私も手伝いたいくらいだけれど……ナギちゃんが動くのが遅くなりそうなら私が先に動いちゃおうかしら?」

「僕はヒビキの仲間も探したいですからね……遅くなると思いますよ。なので僕の代わりにジーンさんが動いてくれるというのならありがたいですよ」

「それだと私の手柄になっちゃうけれどいいの?」

「僕は魔獣達が幸せに生きていけるのならそれでもかまいません。でもジーンさんの目指す先が僕の物と違った場合は僕も動くでしょうね」

「ふぅん。そういう事ならナギちゃんの話をもっと聞きたいわね。何を目指し何故それを目指す事になったのか。私がどう動くにしてもそれをまず知ならきゃ話にならなさそうね」

「構いませんよ。話す時間はこの依頼中いくらでもありますからね」

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― 新着の感想 ―
[一言] >魔獣も魔獣使いに頼らなくても仕事をして都市で暮らしていけるようになればいいと思っています。  人は好きだけど戦うのは嫌いってのもいるでしょうし。  そういう魔獣でも街にいられる環境作りは…
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