世界一可愛い
ようやく、ようやくグランエルに帰って来た。
ようやくルゥに会える。ルゥは元気にしているだろうか? 僕に会えなくて寂し……がる事はないだろうな。ナスならともかく。
ルゥに会いたい気持ちを我慢してまず最初に預かり施設に行き荷物と馬車と魔獣達を預ける。
本当は魔獣達と一緒にルゥに会いに行きたいのだけどさすがに事前に何の連絡も無しに魔獣を連れて寮の中にいる子供に会いに行くことは出来ない。
ただ事前に話して予定を調整する必要はあるが学校が休みの日にルゥが寮から出てきてそこで合流すれば細かい許可は必要ない。
以前のように学校の特別授業に参加して合わせる事も出来るだけれど……そうなると魔獣達はルゥだけの相手を出来なくなるからゆっくりと交流を深める事が出来ない。
やっぱりまずは休みの日に魔獣達と会ってもらって時間があれば学校の特別授業の依頼を受けるとかだろうか。
アールス達がグランエルに着くのはまだ大分時間がかかりそうだから特別授業をする時間的余裕もあるはずだ。
そんな訳でルゥに会いに行くのを我慢して預かり施設を出た後冒険者組合に行き連絡や手紙が来ていないかを確かめる。
エンリエッタちゃんの手紙とユウナ様からの手紙が来ているのを確認し受け取る。
そして、手紙の中身の確認は後回しにしてルゥに会えない事を耐えながら宿の確保に動く。
今の時間は夕方だが今からルゥのいる寮に向かうと夕飯時になってしまい面会時間を過ぎてしまうので会いに行くのはまた明日だ。
宿を確保し部屋に入ると早速手紙を確認する。
エンリエッタちゃんの手紙には今住んでいる場所の住所が書かれており、ユウナ様の手紙には住んでいる場所は変えていないので帰ってきたら連絡をよこすようにと書かれていた。
とりあえず手紙を書いて明日郵便に出そう。
翌日になり今日の予定を確認する。
夕方になるまではレナスさんと一緒に学校時代の友人やその他の知り合いに挨拶回りをする予定だ。
組合や近くの酒場に顔を出してみたが朝という事もあってかジーンさんに会う事は出来なかった。
ただ話としてジーンさんが来ている事は確認が取れた。
それから郵便屋にユウナ様への手紙を預け、街をぶらぶらと散策しつつ旧友と再会し、お昼になればレナスさんと一緒に昔通っていた懐かしい食事処へ行く。
久しぶりに食べるグランエルの料理はおいしく昔を思い出させるものだった。
食べていると自然とレナスさんと昔話が始まる。
初めて食事処で外食したのはいつだっただろうか? 忘れるはずもない。三年生の時でアールスと別れる前の誕生日祝いの時だ。
アールスの小母さんにアールスとの外食の許可を貰いに行ったら感極まらせて泣かせてしまった事があったっけ。
それから誕生日のお祝いが終わった後、日頃アールスがお世話になっているお礼にと甘味の贈り物を貰ったんだったか。
小父さんを亡くしてから半年位だったからな。娘に思う所があったのだろう。
あの時小母さんを少しでも安心させられたのだろうか?
食事を終えた後はエンリエッタちゃんの住んでいる場所へ向かってみる。
住所によると住宅街にある長屋に住んでいるようだ。
長屋は一階建ての集合住宅で主に裕福でない人や独身の人が住む住居となっている。
実際に行ってエンリエッタちゃんが住んでいる部屋に尋ねてみると残念ながら留守の様だった。
手紙には冒険者になって仕事をしながら絵本を書いているとあったのできっと仕事に行っているのだろう。
エンリエッタちゃんは確かあまり戦いは得意じゃなかった。なので冒険者になっても戦う事はないだろう。
初級の内なら冒険者には有事の際でも軍の要請を断れる。
そもそも昔はともかく今の冒険者組合は仕事の斡旋が主だ。
様々な依頼という名の仕事を受けて自分に合った仕事を見つけたり、依頼人に勧誘されたりして腰を落ち着かせる事の出来る仕事を得るのが今の主な初級冒険者なんだ。後婚活目的。
エンリエッタちゃんの場合は絵本作家として軌道に乗るまでの腰掛という奴だろう。
手紙を玄関の郵便受けに入れ、長屋を後にして他の旧友の所へ行く事にする。
そして、丁度いい時間になるとレナスさんと別れルゥのいる寮へ向かう。
入り口にいる二人の衛兵さんのうち片方に話しかけ取次ぎを願う。
こうすればお願いした衛兵さんが寮の中に入り先生を呼んでくれる。
そして、先生がすぐに出て来た。
出て来た先生は僕もお世話になったフォンディーヌ先生だ。
フォンディーヌ先生は僕の事を覚えていてくれたようで顔を合せるなり大げさに驚いて久方の再会を喜んでくれた。
用件を伝えると先生に促され寮内に入って応接間へ向かう。事前に手紙で僕が来ることを伝えていたので
途中子供達と会ったので笑顔を浮かべつつ小さく手を振ると振り返してくれた。かわいい。
そして陰から僕の事を窺うように見ているルゥは世界一可愛い。