神託の後 その3
「面白い話が無いですね」
「だよね」
シエル様の聖書を書こうと思い立ち、別れて行動に移る前にレナスさんとアールスに相談する事にした。
そして、手始めにととりあえず神様からもらった情報を再確認する事になった。
そして明らかになったのがシエル様特に目立った逸話が無いという問題だった。
「やっぱナギの話を中心にまとめるしかないかなぁ」
「それやったら後年僕とシエル様が混同されそうで怖いんだよね。シエル様解説書として聖書を作る以上はそういう混同しちゃいそうな話は控えたいんだけど……」
「しかし、神様になる前は海の生き物でのんびり本能のまま生きていただけで神様になった後も回遊しているだけというのは……」
「んー。とりあえずさ、受け取った情報を全部書き出すところから始めない? やって来たばっかの神様だから逸話が少ないのはしょうがないんだしシエル様が何を考えて手を貸したか改めて聖書としてまとめてみたらいいんじゃないかな」
「それしかないか。逸話に関してはこれからのご活躍を期待するという事で」
締めはシエル様の戦いはこれからだ! とかシエル様の今後の活躍をご期待くださいとかかな。
「さっきナギが聖書の事解説書って言ったけど本当に解説書別に作った方がいいかもね」
「そう?」
「他の神様達はさ、長い時間かけて何を考えてる神様なのか考察されながら力を与えて信用を得たけどシエル様はそういうのないじゃん?
だから聖書の他に分かりやすくシエル様の考えを教えてくれる本があるといいと思うんだ。それにこういうのを作ればシエル様とお話しできる強みを生かせるしね」
「なるほどね。聖書は聖書で品格を落とさないようにしてシエル様の威厳を保って、解説本で理解を深めてもらうか。いいかもしれないけど……問題は」
「明らかに文字数が稼げませんね」
「……うん」
聖書に解説を入れなかったら本がかなり薄くなってしまう。
「そっかぁ……そういう問題もあるのかぁ。読みやすいのはいいけど聖書が一つだけ薄いと威厳が無くなっちゃうね」
「一緒にしたとしても他の聖書よりもかなり薄いですけどね。十分の一も行けばいい方かと」
「それは巻数?」
「一冊の文章量です」
「うん。もう開き直って解説は分けよう。薄いのは新参の神様として仕方ないと思ってもらうしかない。
後はシエル様と相談しながら書いてみるよ。二人とも相談に乗ってくれてありがとう」
「でもこういう聖書の制定って教会が決める事だよね? ナギがやる必要ある?」
「一応この世界で一番最初の信者だからね。やっておかないと。それに少しでも人々にシエル様への不信も取り除きたいから」
「それでしたらやはり解説書に力を入れた方がいいですね。そうだ」
レナスさんが手をパンッと叩き続ける。
「いっその事絵本も作って子供にも分かりやすくするのもいいかもしれませんね」
「絵本?」
「ええ、確か後輩のエンリエッタさんが絵本作家を目指していたので制作の依頼は出来ますよね?」
「できると思うよ。受けてくれるかは分からないけど」
エンリエッタちゃんか。最後に会ったのは……ペライオ……だったかな。
元気にしているだろうか? もう学校は卒業しているはずだから予定通りならグランエルを拠点に冒険者としてお金を稼ぎながら絵本作家として活動しているはずだ。
聖書の事は横に置いといてもグランエルに戻ったら会いに行かないとな。
「でも依頼はするとしても僕が教会に行ってシエル様の最初の信者だって事を告白してからだね」
「そうなりますね。それに旅をしながら聖書を作るとなると時間がかかるでしょうし……」
「うん。だからグランエルで会ったら話を通しておく位の事はしておくよ」
やる事が……やる事が増えていく!
アールス達と別れダイソンへ向かう道中にもやはり突然の神託と子供達のシエル様への信者化によって困惑している人がいた。
少しずつ混乱は収まってきているようだけれどシエル様に良くない感情を抱いている人もいる様だった。
僕も旅の途中なので困っている人を助ける時間は取れないがそれでも村や都市に着いたら人の多い所で宣教を行った。
宣教のやり方はミサさんに教わっている。人前で話すという恥ずかしさを堪えシエル様への不安を少しでも払しょく出来ればいいのだけど。
服装は普段着ではなく、教会関係者が来ているような修道服でもないアーク王国の伝統的な正装だ。
急ごしらえだから華美な物ではなく、旅してもある程度は持つ頑丈な物を選んだ。
教会関係者でもないのに何を言っているのかと度々突っ込まれるが一応治療士としての資格を持っているので全くの無関係でもない。
治療士として少しでも混乱と不安を取り除きたいと答えると意外と納得してくれる。
僕のやっているの事に意味はあるのか? 逆に混乱と不安を大きくしているだけなのではないか?
そんな風に不安に思う事もあるが暗い顔をするとレナスさんとカナデさんが元気づけてくれる。
本当に改めて僕は皆に支えられているんだと実感する。
今回のタイトルは「シエル様の薄い本」にするかどうか一秒くらい迷いました