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露天風呂からの星空

 山登りはやはりというか……アースは地面を操り馬車ごと動かし移動した。

 その移動に馬車を引いていないヘレンも便乗させたのは友情故なのかどうかは自分の欲望以外素直じゃないアースから聞き出すことは出来なかった。

 山の中腹、約二年半前に泊まった場所とは別の家を借り泊まる。


 そして、夕飯を食べる前に僕達は前回行った露天風呂屋へ向かった。

 夕飯前なのはお店が何時までなのか分からなかったからだ。

 さらに今回も皆でお風呂に入る事になっている。

 今回こそは辞退しようと思ったけれど誰も許してくれなかった。

 僕と一緒で恥ずかしくないのかと問うと誰も恥ずかしいと言ってくれる人はいなかった。

 結局カナデさんとミサさんに両脇を抑えられ半ば連行される形で露天風呂屋の敷居をまたぐ事となった。


「なんでカナデさんとミサさんはそんなに積極的なんですかね……」


 脱衣所で他に誰も客がいない事を確認してから愚痴を言う。


「皆と一緒じゃないと寂しいじゃないですか~」

「アリスちゃんが困って可愛くなっている所が見たいだけデース」

「カナデさんはともかくミサさんは許さん」

「オゥ。そんな事言うお口はこれですカ~?」

「ふぇあ!?」


 突然背後から伸びて来た二つの手が僕の口の端を掴んでくる。

 だがそれはいい。問題なのはなぜ僕の頭を胸で挟んでくるのか!


「何してるんですか!」


 レナスさんがすかさず怒って僕を背後のミサさんから剥がそうとしてくれる。


「ふふふっ、アリスちゃん相変わらず面白いですネー」


 などと言いながらミサさんが離れる。

 すると僕を剥がそうとした反動で今度はレナスさんが僕の事を抱きかかえる形になった。


「あっ」


 レナスさんの恥ずかしそうな声を上げる。

 僕の頭がレナスさんの胸元に当たると同時に今日山を登ってかいた汗の匂いが鼻腔をくすぐって来る。


「ご、ごめん」


 すぐに離れると恥ずかしそうに頬を染めるレナスさんの顔が見えた。

 はい殺した。僕の心今殺した。レナスさんの肌に触れられて嬉しいとかちょっと柔らかいなとか汗の匂いがかぐわしいなんて思うような心は全て殺しました。

 なので興奮なんかしません絶対に!


「い、いえ。私が強く引っ張り過ぎました」

「ミサさんふざけるのもほどほどにしてくださいね」

「ごめんなサーイ。反省してマース」


 とてもじゃないが反省してるようには聞こえない。

 改めて皆の姿を見ないように目を瞑りながら残っている下着を全て脱ぐ。

 そして、全てを脱ぎ終わった所で再び僕の背中に何かがまとわりついてきた。


「ひっ」


 突然のぬくもりと柔らかい感触に思わず声が上がる。


「な、何アイネ?」

「どー? こーふんする?」

「は?」


 ゾクッとする地獄の底から響いてくるような低い声がレナスさんから聞こえて来た。怖い。


「何してるんですかアイネさん?」


 レナスさんの手がアイネの頭を掴みそのまま僕から引き剥がそうとする。

 だがアイネは全く平気そうな声色で続ける。


「あたしのでもこーふんするかなって試してるだけだよ?」


 そう言ってますます押し付けてくる。

 南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経……。


「アイネ、そうやって人の心を試すような事はしてはいけませんよ」

「ナギねーちゃんなんでてーねー語になってるの?」

「は・な・れ・な・さ・い」


 レナスさんの口調がちょっと乱暴になってきている。

 僕の方からもアイネを引きはがそうとするとアイネは抵抗する事無く離れてくれた。


「皆遊んでないで早くお風呂場に出よーよ。星がきれいだよ?」


 アールスが待ちきれなくなったのかお風呂場の入り口を開き待っている。


「そうですね。レナスさん、アイネ、行きましょう」

「……分かりました」

「だからなんでてーねー語なの? もしかして怒ってる?」

「怒っていませんよ。ただお風呂を出てご飯を食べた後少し話をしましょうか」

「やっぱ怒ってる!」


 本当に怒っていない。ただ分からせなくてはいけない。男を恐ろしさという物を。


「ミサさんも一緒に」

「私もですカー!?」


 お風呂場に出ると転落防止の為の柵の向こうには満天の星空が広がっていた。

 先に柵の傍で眺めているアールスの隣に立つ。

 なんてきれいなのだろう。いつも見ている星よりも大きく輝いているように見える。

 さらに標高の低い場所だと今の時間では見れないはずの星座が地平線の近くに見えた。

 そこから右手方向を見れば一際輝く五つ星を結んだ秋の十字連星がある。

 左手の方を見ればまるでその星を中心に星々が回っているかのように動かないため星々の王と呼ばれている星も心なしかいつもよりも大きく見える。


「きれいだねー。いつもよりもよく見える気がする」

「本当ですね~」

「高い所だと星の光が届きやすいって話を聞いた事があります」


 僕の後ろにいるレナスさんがアールスとカナデさんの疑問に答える。


「へ~」

「言われてみれば星に近くなるんですから光が良く見えるようになりますよね~」


 こんなにもきれいな物を見れて皆も喜んでいる。本当に来てよかった。


「これを見れたのもアールスがここに来ること提案してくれたおかげだね」

「えへへ~」

「皆さん、このままでは体が冷えて風邪を引いてしまいます。そろそろ体を洗い湯船に入りましょう。お湯につかりながらでも星は見えます」

「そうだね。レナスさんの言う通りだ」


 レナスさんの言う通りにまずは身体を洗ってから湯船に入る事にした。


 そして湯船に入ろうとするとアイネが近づいて来て覗き込むように僕の顔を見て来た。


「……なんですか?」

「まだ怒ってる! ねーちゃんごめんなさい」


 アイネはあたふたとしながら頭を下げる。


「……はぁ。怒ってないよ」


 アイネの濡れた頭をぽんぽんと軽く叩いてから改めて湯船につかる。


「ほんとー??」


 そう聞きながらアイネは僕の隣に座る。


「本当だよ」

「謝るならもっと早くするべきです。怒っている事を確認してから謝るというのも不誠実です」


 そう言ってレナスさんもアイネとは反対側の僕の隣に座る。


「うー……ごめんなさい」

「少しきつく言い過ぎじゃない?」

「他の人にもやらないようにこれぐらい言わないと駄目ですよ。ナギさんは優しすぎるんです」

「む、むぅ」


 たしかにアイネが僕の顔色を窺ってから謝ってきた事に思う所がある。


「湿っぽい話はこれくらいにして今は星空を楽しみましょう?」

「そうだね」


 この子には本当敵わないな。この子が結婚したら旦那さんを尻に敷きそうだな。


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― 新着の感想 ―
[一言] >この子には本当敵わないな。この子が結婚したら旦那さんを尻に敷きそうだな。  その未来の旦那さんの顔が、これで見られると思うよ(´・ω・)つ鏡
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