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都市外授業

 初めての都市外授業は近隣の村へ歩いて行く事だった。

 保護者である先生も付き添うけれど基本は生徒達が学校から支給されたお金以外の準備をしなければならない。つまり都市外授業は都市から出る前から始まっているのだ。

 僕達のチームは目的地を決める所から始めた。

 村は東西南北全ての街道をまっすぐ行った場所に同じ距離で存在している。子供の足では半日でたどり着けるのか怪しい所だ。

 特に体調に不安のあるフェアチャイルドさんは大丈夫だろうか? 心配になり声をかけようとしたが、先に大丈夫です、と笑顔で言われてしまった。

 東に行くと僕の村がある為、僕はそこ以外で、と皆に頼んだ。理由は簡単だ。他の村を見てみたかったからだ。ナスを連れて行けるのならリュート村にしても良かったかもしれないけれど、今回は戦闘訓練ではないので連れて行くことはできない。残念だ。

 相談の結果行き先は北にあるエラン村に決まった。理由は特になく適当にくじで決めた。


 次に考えたのは必要な物だ。取り敢えず必要そうな物を各々で書き出し後から全員で確かめ合った。

 僕が書いたのは護身用の武器と食糧だ。

 フェアチャイルドさんは食糧にお金、防寒具、地図。

 ベルナデットさんは武器に食糧、着替え、調理器具。

 ローランズさんは武器に食糧、着替え、タオル、櫛、時計。


「着替えって、一泊するだけなのにいる?」

「いります」


 即答された。

 そうだよね、女の子だもんね。仕方ないよね。


「……そうだね。汚れるかもしれないよね」

「時計は……ローランズさん持っているんですか?」

「はい。お爺様にプレゼントされた物を持っていますので」


 時計は僕達では手が届かないほど高価だ。そんな物を旅に持っていけるとは、ローランズさんの家は裕福なのかもしれない。


「地図か……一本道なんだし必要かな?」

「都市の外って草原で見渡しいいんでしょ?」

「でもどこまで進んだかの確認ができるのでは?」

「あ、そっか。じゃあ一応持っていこっか? どうせ邪魔にはならないんだし」


 調理器具は必要だろう。食糧をそのまま食べるだけじゃだけじゃ味気ないからね。

 タオル……もたぶん何かに使えるだろう。

 櫛は……まぁ持ってても邪魔にはならないからいいか。

 防寒具は確かに持ってた方がいいだろう。今は冬なのに態々書く必要があるのかと思われるかもしれないけど、改めて認識すると言うのはいい事だと思う。

 問題は武器だが、一応学校から本物の剣を貸し出しできるようにはなるらしい。

 真剣は去年から訓練に取り入れられていたけど、模擬戦で使った事は無い。もし実践になった時どれだけ使えるだろう。


 必要な物を出し終えた後ベルナデットさんがぽつりと独り言のように言った。


「泊まる所ってどうするんだろ」


 その疑問に誰も答えられなかった。何故って、先生からは何も言われていないからだ。


「どこか泊まる所があるのでは?」


 ローランズさんが僕とフェアチャイルドさんを見てくる。


「僕の村では宿屋はないけど、旅人が来た場合村長がお金を貰って泊める場合があるよ」

「それ以外の場合は?」

「野宿してたはず」

「値段はいくらくらいですか?」

「一部屋銅貨五十枚だったはずだよ。フェアチャイルドさんの所は?」

「すみません……わかりません」


 仕方ないか。フェアチャイルドさんは全然故郷に帰ってないんだから。


「それで、僕達はどうしようか?」


 銀貨五枚を支給されているから銅貨五十枚は払えない値段じゃない。先生はどうするんだろう? 後で聞いてみるか。

 今考えるべきなのは泊まるのか野宿するのかだ。


「泊まれる所があるのならそうした方がいいと思います」

「そうだよねー。外で寝るなんて怖いし」


 もし野宿する事になったら見張りを立てないといけなくなる。子供しかいないし、本格的な旅じゃないんだから別に構わないか?


「フェアチャイルドさんも泊まる方向でいいかな?」

「はい。いいと思います」


 これで大体の必要な準備の確認は終わっただろう。後後問題や疑問が出てくるかもしれないけど、そういうのは出てから考えればいい。

 次にやる事は食料の調達だ。

 一体どんな物がいいだろうか? やはり物語で定番な保存食は干し肉だけど、塩が貴重なこの世界ではあまり一般的ではない。

 ならば世の旅人や冒険者は食事をどうするか?

 この世界にはブリザベーションというルゥネイト様の神聖魔法がある。保存食として売られている食品にはなんとこのブリザベーションがかかっているんだ。だからちょっと割高だけど保存食に関しては実はあんまり問題はないんだ。

 けど僕達の旅は一泊二日で保存食じゃなくても食材によっては十分持つ期間だ。非常食に保存食を買うのは決まっているけど、道中に食べる分はどうするか。


「私お肉食べたーい」


 ベルナデットさんの意見に肉食系である僕も同意する。


「スープにしたらいいんじゃないでしょうか?」

「冬だから温かいのはありがたいし、手軽そうでもあるしいいんじゃないかな? ベルナデットさん。スープでいい?」

「大丈夫。お鍋持っていかないとねー」

「お鍋はこれからも使うかもしれないから買っておこうか」

「賛成です」


 ローランズさんは賛成してくれたがベルナデットさんは渋い顔をしていた。


「でもこのチームって今年だけでしょ? 勿体なくない?」

「来年も同じクラスになるとも限らないですよね……」


 ベルナデットさんにフェアチャイルドさんが同意した。

 確かにお鍋は僕達にとって決して安い買い物ではない。


「確かにそうだよね。でもそれじゃあ調理器具はどうするの?」

「各自が持って来るとかですか?」

「さすがに寮のは持っていけないよ」

「なら私の家から持っていくよ。お母さんに頼んでみる」


 結局ベルナデットさんの提案以外に良い解決方法は出てこなかった。

 ローランズさんが自分の家から借りると言う提案もあったけれど、それはそこまでは頼れないといい断らせてもらった。

 時計を持って来てもらうのに調理器具まで負担してもらうわけにはいかない。

 僕達はチームなんだ。誰かに頼りっきりになる関係はよくない。

 ローランズさんは納得いかないと言う顔をしていたけれど、ベルナデットさんがまぁまぁと肩を軽く叩いて落ち着かせている。

 とりあえずスープの材料の書き出しは今回の料理人になる予定のベルナデットさんに任せる事になった。

 一応材料はあまり嵩張らないで済むような料理にしてほしいと頼んでおいた。




 ベルナデットさんのメモを頼りに、都市外授業を明日に控えた今日、放課後市場にフェアチャイルドさんと一緒にやって来た。

 僕達と同じ事を考えているのか同級生の子達が大人達の影でちょこまかと動き回っている。

 はぐれない様にフェアチャイルドさんに許可を貰ってから魔力(マナ)を接続させてお互いに居場所が分かるようにする。

 シエル様風に言うなら太い回路を繋げた状態だ。これなら魔力感知(マナパーセプション)が使えないフェアチャイルドさんでも僕の魔力(マナ)を感知できるようになるんだ。

 ちなみに細いと魔力感知(マナパーセプション)が使えないと僕の方からしかわからないから決して悪用してはいけない。


「行こうか」

「はい」


 メモを確認して最初の食材が置いていそうな場所を頭の中に思い浮かべて歩き出す。

 一応みんなの好き嫌いも反映されたメニューのはずだけど、どうやらベルナデットさんは肉と果物を使ったスープを作るらしい。僕は肉と果物の組み合わせと言えば酢豚とパイナップル、ハムとメロンしか思い浮かばない。一体どんな味なんだろう。フェアチャイルドさんも食べた事がないらしい。

 最初の材料はトウシと呼ばれる果物だ。赤くてトマトみたいな感触の果物らしいけど、味は辛いらしい。辛い果物って想像しにくいな。ハバネロ?

 トウシは適当にお店の人に聞くとすぐに見つかった。どうやら割と有名な食べ物みたいだ。

 実際に見てみると、見た目は細かいへこみが無数にあり蜜柑などの柑橘類に近い。二つほど買って触ってみると張りが確かにトマトに似ている。

 探すものはまだまだある。次の食材を探すために店から離れようと踵を返した時、視界の隅に赤い物が見えた。

 僕は見覚えのある赤だった為思わず目で追ってしまった。

 そして、僕の友達である事も確認できた。


「カイル君」


 僕が呼ぶとカイル君は足を止めて辺りを見渡し始めた。僕は素早く傍により肩を叩く。

 するとカイル君は勢いよく振り返った。


「おっと」

「あっ……す、すまん」


 肩を叩いた手がカイル君の頬に当たる前に何とか引っ込める事が成功した。

 カイル君のチームは料理が出来る子がいなくてブリザベーションのかかった食材を買ってそのまま食べると前に聞いていた。調理器具はいらないからその分量を増やすらしい。


「カイル君も来たばっかり?」

「そうだよ」

「他の子は?」

「自分の食べたい物買いに行ってる」

「……もしかして料理作らないの?」

「料理できる奴いないし、包丁とか鍋持っていくよりも楽だろ?」


 調理実習で習うはずなんだけど、そういえばカイル君の料理の腕は聞いた事がなかった。 

 栄養バランスとか大丈夫だろうか? いや、子供にそこまで考えさせるのは酷なのか? でもちゃんと授業で栄養については習ってたしな。


「カイル君は何買うの?」

「取り敢えずブリザベーションのかかった肉と果物とかな」


 野菜も取った方がいいよと忠告するべきだろうか。うん、そうすべきだ。丁度僕達が買う食材にも野菜は入ってるから、僕達が買う時に一緒に進めよう。


「一人で回るんだよね? フェアチャイルドさん。カイル君と一緒に回らない?」


 元々一緒にいたフェアチャイルドさんから確認を取ってみる。するとフェアチャイルドさんは了承してくれた。

 カイル君に聞くと少しだけ間が開いた後ぎこちなく頷いた。

 いつも一緒なのに何か気になる事でもあるのかな? 歩きながら考えて一つの答えが思いついた。

 そうだ、今日はラット君がいないんだ。この位の男の子っていうのは女の子と一緒にいると恥ずかしがる物だ。僕にも覚えがある。

 今は男の子はカイル君一人。二人の女の子、ましてフェアチャイルドさんみたいな美少女が一緒にいるとなると照れてもおかしくはないだろう。カイル君もかわいい所あるじゃないか。





 全ての準備が終わり、都市外授業の前日の夜、僕は中々寝付けなくて椅子に座り窓の外の夜空を眺めていた。

 寝れないのは明日が楽しみだからだ。そう、これは遠足を楽しみにしている子供のような心境なんだ。

 懐かしい、とは思わない。僕は前世では遠足とか嫌いな子だったんだ。理由なんて恥ずかしくて言えない。

 そんな僕が明日を楽しみにしているなんて本当に変わったものだと思う。

 明日は晴れるかな。……そうだ、雨が降る危険もあるんだ。一応雨避けの外套も用意するべきか。

 僕は椅子から立ち上がり忘れないうちに雨用の外套を予備の分も含めて箪笥から出して荷物に入れておく。

 明日起きたらフェアチャイルドさんにも言っておかないとね。そう考えながら眠っているフェアチャイルドさんに視線を向ける。

 明日の朝は早い。冬だから日が暮れるのが早いから早めに出て明るいうちに村に着けるようにと考えての事だけど、果たして明るいうちに着けるだろうか?

 馬車を使って五時間くらいの道のり、馬車の二倍の時間がかかると十時間。けれど、先生によると一番近い村までの四年生の平均的な到達時間は八時間らしい。荷物を持ってて休憩時間も入っていることを考えると、これってすごい事なんじゃないか?

 朝の九時に出発すれば今の季節でも日の入りには間に合う。 

 僕とベルナデットさん二人だけなら問題ない。持久走でいい成績を残せているし、休みありでも間に合うかもしれない。

 ローランズさんはどうだろう? あまり足は速くなかったはずだ。けど体力はある。授業で見た持久走では後ろの方にいたけど、それはあくまでも前の子達のレベルが高いからだ。

 問題なのはフェアチャイルドさんだ。この四年間で体力がついたとはいえ、それでも授業の持久走ではすぐに脱落してしまう。

 たぶん、明日は村に着くのは遅くなるだろう。

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